第5話 森から脱出

 あの後リカルドさんの袖を引っ張って固まった状態を解除し、今は皆で町を目指して歩きつつ、道中鑑定が教えてくれるお金になりそうな薬草を摘み取っている。



 交渉の結果運搬代と4本腕の熊…腕熊アームベア(そのままのネーミングだった)の討伐を手伝った分の報酬は分けてくれるという事になったし、今夜の宿は問題無いだろう。



「じゃあここまでどうやって来たのか覚えてないのか?」



「そうですね、気付いたら居た。みたいな?」



「お前ソレ奴隷商人に誘拐されて来たとかじゃないだろうな? 小さいからすぐに捕まえられそうだし」



 リカルドと話していたらホセが口を挟んで来た、さっき自分を鑑定したら15歳だったから確か身長はほぼ止まってたはず、そんなに小さい訳じゃなくて皆が大きいだけなのに。

 どうやらこの世界の鑑定はゲームみたいに文字が浮かぶわけじゃなくて感覚的に理解する様だ、説明が難しいけど「見たら美味しいってわかる」様な感じだ。



「ホセ! これでも私15歳なんだからね! 私が小さいんじゃなくて皆が大きいんだよ!」



「「「「15歳!?」」」」



「え? ちょっと待って、何で全員驚いてるの?」



 皆の方を見ると全員がサッと目を逸らした、もしかしてとんでもなく幼い子供だと思われてたんだろうか。

 ちなみに呼び方や言葉遣いは畏まらなくて良いって言われて呼び捨て&タメ口にしている、商人だったり貴族相手じゃなきゃ敬語は必要無いんだとか。



 貴族は家名があるから名乗ったらすぐわかるらしい、自己紹介で苗字を言わなくて良かった。

 ただ私は産まれた時に「女の子は結婚したら苗字が変わるから」と名前を付けられたのだが、姓名判断で調べたら外格が孤独とか不信とか離別とか騙されるとか最悪な事がたくさん書いてあって、しかもその通りの事が起きてるから名前だけ名乗ったんだけど。



 苗字が付くとイマイチな名前だけど、名前単体だと凄く良い画数なのでこれからの人生は明るいと思いたい。

 小中高と加奈子のせいでほぼボッチだったからテレビとネットと本とゲームがお友達状態で、その分同年代よりは知識も多いだろうからそれも多少役に立つといいな。



「あの…、私って何歳に見えているの? 民族的に若く見られるっていうのは知ってるけど、そんなに驚くほど違って見えるって事でしょう?」



「あはは…、少なくとも成人してるとは思わなかったね」



 エリアスが控えめに言った、女神様が成人する歳に若返らせるって言ってたからこっちでは15歳で成人なのだろう。



「じゃあ皆せーので同時に正直に思った年齢を言ってね? せーの!」



「10」


「9」


「12」


「10」



ちなみに上からリカルド、ホセ、ビビアナ、エリアスだ。

 ホセの一桁ってどういう事!?

 逆にビビアナには気を遣われたのかと邪推してしまう、しかしビビアナは3人に呆れた目を向けた。



「アンタ達ほんっと見る目無いわね、10歳以下の子供がこんなに落ち着いた態度でいられる訳ないじゃない。アタシは孤児院で食べ物が無い所から来た発育の悪い子とか見てきてるから身体の大きさには惑わされないのよ」



 ふふん、と胸を張るビビアナ、しかし私は密かに発育の悪い子発言にダメージを受けていた、しかもそれでもまだ3歳足りないし。

 この先ちゃんと栄養摂って元通りのサイズに戻してあげるからね!

 そう己の胸に誓いを立てた、とりあえず今夜からうつ伏せ寝決定。



 大学の時の個人調べだが、胸の大きい子はうつ伏せ寝派が多かった。

 仰向け派は鍛えてない限り背中のお肉に悩みを抱えてる子が多かったので「胸って所詮脂肪よね」という友人の名言が出た。


「しかし、アイルは錯乱してたオレが襲いかかったのに、よく撫でようなんて思ったな。獣人ってわかっても抵抗無かったみたいだし」



 歩きながらホセが感心した様に言った。



「えっ!? ホセったらアイルに襲いかかったの!? よく無事だったわね~、というか、それなのにどうして撫でようなんて思えたの?」



「あはは、魔法の衝撃で目を回してたから大丈夫だと思ったのもあるけど、この前死んじゃった愛犬に色合いが似て…っ」



 話していたら泣こうと思っていなかったのに涙が勝手に溢れてきて止まらなくなってしまった。

 ホセとビビアナがオロオロしているのがわかったけどどうしても涙が止まらない、自分で思っているより空の死に心はダメージを受けていた様だ。



「あ~あ、ホセとビビアナがアイルを泣かせた~」



 会話を聞いていて2人が悪く無いのをわかっていながらエリアスが2人を揶揄った。

 止めどなく溢れる涙を拭いながらも歩いていたので、2人は私の両脇について転ばない様に誘導してくれている。



 そして私が何とか泣き止んだ頃に森を抜け、きっと徒歩で1時間程かかるであろう距離に外壁のある町が見えた。

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