第47話 村の話題

「それじゃ、俺達はこれで」



 無事ヘラルドの村まで到着し、是非にと言われてお店でお茶を飲んで休憩した。

 何というか、他所者が珍しいのか村内を移動してる時めちゃくちゃ視線が突き刺さってきて早く村から出たかったので依頼達成のサインを受け取ったリカルドの言葉に内心ホッとした。



 村の人口は500人程度だろうか、この規模なら全員顔見知りだろうから見られるのはわかる。

 だけどお年頃の男女のギラついた視線が怖い!

 いや、私に対してでは無いのはわかってる、お姉様方の肉食獣の様な視線を受け止めているのはイケメンな3人だし。



 むしろ男性は気にして無い風を装ってチラ見している人が多い、そしてビビアナはそれを楽しんでいるかの様に時々微笑みかけていたりする。

 でもおかしいな、村に入って来た時にもっとこう…気持ち悪い視線が混じってた気がしたのに今は無いや。



「あのっ、リカルドさん、私の事覚えてる!?」



 リカルドを先頭に馬を引いて村の出口に向かっていると20歳くらいの女性がリカルドに話しかけてきた。

 その瞬間遠巻きに見ていた女性達が殺気立つ、しかしリカルドは首を傾げた。



「すまない、覚えて無いんだが…何か用だろうか?」



「え…っ!? 前回村に来た時に私が落としたハンカチをあなたが拾ってくれたの」



 覚えて無いと言われてショックを受けた様だったが、めげずに頬を染めつつ上目遣いでエピソードを話す女性。

 それって態と落としたんじゃないのかな、声を掛けてもらう為の常套手段というか、少女漫画か!



「それで? もう村を出ないといけないから用件があるなら手短に頼む」



 スーパークールな対応をするリカルド、ちなみにこれまでの遣り取りは全て無表情だ。

 あ、ほら、心が折れたのか目に涙を溜めてるよ。



「いえ…、大切なハンカチだったからもう1度お礼を言いたかっただけなの…」



「そうか、大した事じゃないから気にしないでくれ。では失礼する」



 そう言ってリカルドは再び歩き出した、俯いて肩を震わせる女性が気になって振り向くと隣を歩くホセに頭を掴まれて強制的に前を向かされた。

 村を出ると2列になって馬を走らせる、護衛対象が居ない分行きよりちょっと気楽だ。



「いや~、相変わらずあの村はギラついてたねぇ」



 斜め後ろの位置にいるエリアスが笑いながら言うと、私以外が吹き出した。



「前回態とらしく目の前でハンカチを落としていった子がいたが今回の為の伏線だったんだとわかって笑いそうになったぞ」



「その時オレも居たからな、さっきも笑いを堪えるの大変だったぜ。アイルがさっきの子を気にしてたから声掛けるんじゃないかとヒヤヒヤしたぜ」



「ふふっ、毎度何かしら仕掛けてくるわよね、あの村の子達。飽きなくていいわぁ」



 どうやらあの村の女性達は行動的らしい、さっきのリカルドの無表情は笑いを堪えているせいだった様だ。

 道理でリカルドらしくないと思った、隣で馬を走らせながら笑うリカルドにホッとする。



「今回は新顔のアイルが居たせいか、いつもより注目されてたな。今日の村の話題はアイルの事なんじゃねぇ? 村に新しい話題提供できて良かったなぁ、ははは」



 ホセが笑いながら頭をグリグリと撫でてきた。



「ちょろっと見ただけの私が話題になったりするかなぁ?」



「今頃ヘラルドの店に客が押し寄せてる筈だぜ? 見た事無い子が居たけどアレは誰だってな」



「間違い無いわね、あたし達が初めてあの村に行った時は一晩泊まったんだけど、翌日には全員の名前が知られてたみたいだったもの。流石にちょっと怖くなったわ、それだけ新鮮な話題に飢えてるのよ」



 そういえば田舎出身の大学の友人が老後を楽しんでるお婆ちゃん達の情報網ってハンパないって言ってたなぁ。

 デートしてるところを見られたら翌日の夕方にはどこの家の子か特定されて家族の耳に入ってくるらしい。



 暇だからこそ噂話が娯楽なんだろうなぁ、亡くなったウチのお婆ちゃんみたいに多趣味ならいいけど、こっちの世界だと趣味も限定されちゃうだろうし。



「はぁ…、防犯の面ではいい事かもしれないけど、話題にされる方としてはちょっと嫌だね」



 加奈子のせいで自分の知らないところで心当たりの無い話を勝手にされる気持ち悪さをたっぷり味わってきた身としては噂話のネタにされるのはあまり気分の良いものじゃない。

 思わずため息と共に言葉が漏れた。



「まぁまぁ、何度か顔出せば飽きて話題にされなくなるよ。想いを寄せられない限りね」



 エリアスがクスクス笑いながら言うが、私はともかく自分達があれだけギラついた目で見られてたのに余裕だなぁ。



「それだと4人共毎回話題にされてるんじゃない?」



「まぁね、今回みたいに抜け駆けする子以外は大抵牽制しあってるから実害はほぼ無いよ。どうせ多くても月1回だし、ヘラルドの他にも人が来る時は馬車を使って来るんだけど、護衛の僕達は馬だから移動中は会話しないし」



「アイルが対処出来ないならちゃんと相談しなさいよ、ちゃんとあたし達が守ってあげるから」



「そうそう、嫌な事があったらちゃんと言えよ」



 後ろを走るビビアナが心強い言葉をかけてくれてホセも頭を撫でながら同意した、エドガルドの時と違って何だか胸が暖かくなった気がする。



「へへ、えへへ、じゃあ頼りにさせてもらうね?」



 嬉しくて、心が擽ったくて笑いが込み上げてくる、私の言葉に4人共任せろと頼もしい返事をくれた。

 何か気にしなきゃいけない事があった様な気もするが、私は嬉しくてそんな事はどうでも良くなっていた。

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