第48話 野犬の報告
帰りの野営は遠慮なく障壁を張り、夜は全員ぐっすり眠って翌日は道々現れた野良
「ほら、もうウルスカに到着したからそろそろ泣きやめって」
「ぐすっ、ゔん…、だけど止まらなくて…、ごめんね…」
「いや、謝らなくてもいいけどよ、
私は現在涙が止まらなくて困っている、そんな私を前に乗せているホセの方が困ってるだろうけど。
いつもギルドの依頼の為に入る森から飛び出て来たただの鹿を魔物と間違えて棒手裏剣の的にして殺してしまったのだ。
今まで命を奪ったのは襲ってくる魔物だけだったのだが、森の中には魔物がいるという先入観のせいで命を奪ってしまった事がショックだったせいか涙が止まらないのだ。
実際のところ森に住んでいる普通の動物は少なからず居る、魔物の多い場所にずっと居ると普通の動物も魔物に変異してしまうらしいが。
幸いこの森のどこかに清浄な場所があるらしく、滅多に魔物が近付かないそのエリアに多くの動物が住んでいて、そのエリアは荒らさないというのが暗黙の了解との事。
だから今回の様に外に飛び出て来るのは珍しいのだとか。
今まで何度も魔物の命を奪ってきた私が泣き出したので4人共凄く驚いた様だ、本人も驚いているくらいだから当然だろう。
「まっ、魔物っ、じゃ、ないのにっ、殺し…っ、ふぐっ、だからっ、食べるっ」
「ハァ!?」
殺してしまったからこそ命が無駄にならない様にきちんと食べてあげる事が供養になるだろうというつもりで言ったのだが、言葉の意味がわからなかったのか、それとも殺して泣いてるのに食べると言ったからなのか、ホセは理解出来ないという風な声を上げた。
「では鹿は食用に解体してもらおう」
「リカルド…、ありがとう…ぐすっ。『
涙と鼻水塗れになったハンカチに2度目の洗浄魔法を掛けて涙を拭うと何とかおさまってきた。
前方に人影が見えたので見られる前に治癒魔法できっと腫れているであろう熱くなった顔を元に戻すと背後でホセがホッと息を吐いたのがわかった。
ウルスカの門を潜り、貸馬屋で3日間お世話になった馬達と別れる。
結構懐いてくれてたからちょっと寂しい、また馬を借りる時はこの子を指名したいとホセに言ったら、そう思わせるのがこの貸馬屋の手で人懐こい馬が揃っているそうだ、やるな店主。
その後すぐギルドに行きギルド長を呼んで貰った、例の犬達を見せる為だ。
解体場へ移動して比較的損傷の少ない1体だけ台の上に出すと、立ち会っていた解体職人と受付嬢が息を飲んだ。
「なんだよこりゃあ…、魔法生物…? とてもじゃねぇが俺達の手には負えねぇな、王立研究所に連絡するか…」
声に振り向くとディエゴが頭を抱えていた、頭頂部が更に薄くなってしまいそうな案件らしい。
王立研究所は魔導期の遺物が発掘された時の為にある程度大きな街には必ずある施設で、普段は魔導具の研究をしている。
「はぁ…、アイルといい、この犬といい、『
「わかった。アイル、先に行ってるから魔物と鹿を出してくれ。角兎2体と鹿は食用として持ち帰るから解体を頼む」
「任せとけ!」
解体職人が頼もしい言葉を返してくれたので、解体職人からの指示に従って犬とは別の台に魔物や鹿を並べてリカルド達の後を追った。
「…置いてあるからよ、俺はギルド長室で話してるから確認したら来るといい、じゃあ頼んだぜ」
『了解、すぐに行くよ』
ギルド長室をノックしたらエリアスが開けてくれた、ディエゴは魔導具で通信していた様だ。
「研究所の所長が後で来るからその間に聞かせてもらおうか、座ってくれ」
魔法の事は除いてリカルドが代表としてあの時の状況を説明する。
全員が無傷だった事でホセの索敵能力をギルド長が絶賛したが、魔法のお陰とも言えず居心地が悪そうだった。
暫くするとバネッサがお茶を淹れてくれ、飲み終わる頃に研究所の所長が来たと報せに来た。
研究所の所長を見た時私は息を飲む、何故ならその人の耳が尖っていたから。
「アイルは初めてだろう、王立研究所所長のガブリエル、種族は見ての通りエルフだ」
金髪緑眼、肩までのサラサラストレートヘアに身長は180cm程、見た目は20歳くらいの思い描くエルフそのものがそこに居た。
「おい、アイル?」
「え? あっ、ご、ごめんなさい。初めまして、アイルです」
驚いて固まっていたらホセに肘で突かれて我に返って挨拶するとガブリエルはクスクスと笑った。
「はは、今時エルフの、しかも男は珍しいからそういう反応する人は珍しくないよ」
「コイツは王都に居たんだが、活躍し過ぎたせいで上に疎まれてこんな田舎に飛ばされる様な奴なんだ、がはははは」
ディエゴは説明すると豪快に笑った、どうやら2人は仲良しの様だ。
エルフだったら重宝されそうなのに、王都でなくウルスカに居る訳がわかった。
私に向かってニコリと微笑んだその目の奥が笑って無い様に見えたのは私の気のせいだろうか。
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