第202話 カタヘルナと通信

 く…っ、大名行列か!

 いやまぁ、誰も土下座なんてしてないけど、道行く人達が慌てて端に寄っている中、騎士の先導でカタヘルナまで迎えに来たのと同じロイヤルな馬車に乗って冒険者ギルドへと向かっております。



 ちなみに迎えに来てた貴族のおじさんも一緒、移動の5日間で男性陣と凄く仲良くなってやんの。

 第一印象最悪だったのに長いモノに巻かれる肝っ玉の小さい人で、普段は舐められない様に頑張って偉そうにしているらしい。

 私も実際話していたらその小心者っぷりのせいで段々憎めなくなって来た。



「だからちゃんと見てくれてるってわかれば部下はついて来るんだから褒めるところはちゃんと褒めなきゃ! 口煩いだけの上司を好きになる部下は居ないよ!?」



「はぁ…、確かに私が若い時にはそう思っていましたね、いつの間にかあの頃の気持ちを忘れていた様です」



 そして長いモノに巻かれる性格なだけあって賢者という肩書きを持っている小娘な私のお説教アドバイスを真面目な顔で聞いていたりする。

 調子に乗って偉そうに言ってる自覚はあるから皆ニヤニヤしたり呆れた目を向けないで~!



「それにしても本来護衛する側の私達冒険者が護衛されるってどうなんだろうね、折角王都まで来たんだから観光がてら歩き回りたいけど、これじゃあちょっと無理だよねぇ」



「申し訳ありません、今日の午後から数日は賢者殿にお話を聞きたい学者や研究所が待ち構えておりまして…。それと殿下方がマヨネーズを始めレシピを求められて是非とも滞在中に商業ギルドへ登録して欲しいとの事です」



「商業ギルドも冒険者ギルドみたいに国に関係無く横の繋がりがあるの?」



「はい、一応国単位で独立はしてますが連盟という形で全ての国が繋がってますのでこっちの国では特許があるが、あっちの国では無いから勝手に他人が特許申請した…なんて事は起こりません」



「ふぅん、じゃあヘタに不味い偽物が出回る前に色々レシピを登録しといた方がいいね、私の利益は要らないから皆がレシピを利用出来る様にしたいな」



「え? それって勿体無いんじゃない? アイルのレシピならかなり稼げるよ?」



「う~ん…、確かにエリアスの言う通りだけど、私が考えたものじゃないし、皆が知ったらその分アレンジも増えて食文化が発達すると思うんだよね。それにタイチのお店も儲かるでしょ? そっちから謝礼が貰える約束だしね!」



 私が公開するレシピで商品が売れる様になったら、売り上げに応じて謝礼が貰える契約をパルテナ王都で結んであったりする。

 特にラーメンと唐揚げはスタンダードな醤油ベースがあるから爆発的に売れると思うんだよね。



 そんな話をしていたら冒険者ギルドに到着した、外壁の門から遠い王宮と違って万が一魔物が入って来た時に対処出来る様に王都の冒険者ギルドは門の近くにあるので馬車でも急がない限り30分くらい掛かる。



 騎士がドアを開けてくれ、リカルドに続いて降りようとしたら騎士の1人がサッと手を差し出してくれた。

 カタヘルナからの道中も殿下達がこうやって気遣ってくれたが、令嬢の様な扱いに何だかムズムズしてしまう。



 はにかみつつお礼を言うと、「とんでもない」と爽やかな笑みを返してくれた。

 やだ、もしかしてこの騎士もハニトラ要員だったりして、そう思うくらい制服マジックも手伝って素敵に見えたが、次の瞬間吹っ飛んだ。



「賢者様がいらっしゃったぞ! 道を空ける様に!」



 スタスタとギルドの入り口へ向かったかと思うと、そんな事を大声で言ったせいでギルドの中も外も大騒ぎになってしまった。

 ただでさえロイヤルな馬車の出現に何だどうしたと人集りが出来ていたというのに。



「これで間違ってもお前に絡む奴は居なくなったんじゃねぇ? 良かったな」



「ククッ、賢者かどうか確認しに来る人も居なくなったんじゃないかな? 面倒が無くなって良かったと思おうよ」



「あんた達いい加減にしなさい、アイルが注目されるの好きじゃないって知ってるでしょ!? ……酔っ払ってる時以外は」



「「「ぶふっ」」」



 あっヒドイ、リカルドまで吹き出した!

 確かにカタヘルナでのディナーショウ(?)ではめちゃくちゃ注目集めてたみたいだけどさ!

 はっ! 私達がわちゃわちゃしてるのも全部周りに見られてた、何事も無かったフリしてギルドに入ると、本当に中の人達が道を空けてくれた、すみませんねぇ。



「すまない、カタヘルナのギルマスとの約束で連絡したいんだが」



「け、賢者様のいらっしゃる『希望エスペランサ』の方々ですね、伺っております。通信室へご案内しますのでこちらへどうぞ」



 リカルドが受付嬢に話し掛けると、受付嬢は私をチラチラ見ながら通信魔道具のある部屋へ案内してくれた。

 本来なら伝言頼む程度は出来るけど、いち冒険者がこうやって通信魔道具を使わせて貰える事はまず無い、これも賢者故の特別扱いだろう。



『お、とりあえず王宮に閉じ込められるような事態にはなって無い様で安心したぜ、そっちは大丈夫そうか?』



 通信を開始してガスパルが開口一番言った、通信魔道具は大きな水晶玉の中にホログラムみたいに通信相手が見えるので、向こうにも私達の姿が見えているのだろう。



「ああ、アイルが言いたい事をハッキリ言ってくれたからな。暫くは王宮に留まらなきゃならないが閉じ込められたりはしていないから安心してくれ」



「カレーとか、ラーメンとか、マヨネーズとかレシピを色々商業ギルドに登録する事になったから楽しみにしててね!」



『本当か!? 俺ぁ食べ損なってるから気になってたんだよ、食った奴らがまた食いてぇって騒いでたからよ。おっと、それよりパルテナから使者がそっちに向かうらしいぜ、ここ暫く要塞都市エスポナのギルドと情報やりとりしてたんだが、ほら、アイルの言ってたエルフが向かってるってよ。王宮に賢者を連れて行かれてパルテナの上が慌てたんだろうなぁ』



「えっ!? ちゃんと帰るから大丈夫なのに、もう出発しちゃったのかな? まだなら来なくて良いよって伝えるんだけど」



『いやぁ、パルテナ王国からの正式な使者として出発してるみてぇだから今更取り止めなんて事は出来ねぇだろ。それだけ賢者の存在はデカいんだよ、嬢ちゃん本人は小させぇけどな! わはははは』



「私が小さいんじゃなくて皆が大きいんだもん!」



「アイル落ち着け、じゃあ俺達はヘタに移動せず王宮に滞在しておいた方が面倒が無さそうだな。とりあえず5日程だとは言われているが、連絡が来たらパルテナからの使者が来るまで王都で待ってると伝えてくれるか?」



 思わず言い返したらリカルドに頭をグリグリ撫でて宥められた、余計に小さい子みたいじゃない。



『わかった、何かあったらギルドに伝言しておくから2日に1回くらい確認してくれ』



「わかった」



『じゃあな、大氾濫スタンピードのせいでたっぷり書類仕事が残ってるからよ』



「ははっ、頑張ってくれ、それじゃあ」



 ガブリエルが来るのか、出番も無かったし拗ねてたりして。

 この時の私はセゴニア王都に向かってる一団が私の思ってるより深刻な精神状態とは知らずにそんな呑気な事を考えていた。

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