第366話 ホセとリカルド帰宅

「何でお前がここに居るんだよ!?」



「ふっ、アイルが娼婦になったという噂を聞いて私が来ない方がおかしいだろう?」



「あぁ!? ああ…、あの噂か、結局トレラーガにまで広まったんだな」



 ホセとエドはどちらかと言うと仲が悪い、ホセは不快さを隠そうともせずに聞いたが、エドがここに居る理由を聞いて納得した様だった。

 そうだよ、私が娼婦になるって噂がトレラーガにまで届いたって事はヘタしたら王都まで噂が届く可能性があるって事じゃない!?



「ホセおかえり。ねぇエド、その噂ってトレラーガでどのくらい広まってるの? まさか既にトレラーガを越えて他の町や村に伝わってたりは…」



 ドアのところに立ったままのホセに声を掛けると、ホセの後ろから顔を覗かせて気になった事をエドに聞いた。



「ははは、私が確認して来るからこれ以上広めない様にと指示は出しておいたから大丈夫だろう、冒険者以外の耳には殆ど入っていないと思うよ。私が戻ったら誤解だったと訂正しておくから安心して欲しい」



「エドガルドがこっちに来る前に他の町や村へ行った冒険者達から拡散してた…なんて事になってないと良いねぇ。あははは」



「エリアス! フラグの概念がいねんを教えたでしょう!? 本当にそうなったらどうするの!!」



 エドの頼もしい言葉に続いてエリアスが余計な事を言ったのでキッと睨む。



「アイル、ふらぐとは何だ?」



 おじいちゃんがキョトンとして首を傾げた、これが切っ掛けでビルデオでもフラグって言葉が使われる様になったりしないだろうか。



「えっとね、特定の条件が揃うと決まった結果に導かれる事を表す時に使う言葉なの。よくあるのは『この戦いが終わったら結婚するんだ』とか『無事に帰って来たら聞いて欲しい事がある』って言うと死んでしまうとか、戦ってる敵の生死がハッキリしていない時に『やったか!?』って言うと死んで無いとか。今みたいにエリアスが冗談のつもりで言った事が本当になるとかね」



「なるほど、確かに結婚を控えておる者は浮き足立ったり気負い過ぎたりして下手を打つ時があるからな」



 おじいちゃんは頷いているが、微妙に理解していない気がする。

 でもまぁ大体理解出来ただけでも良いか、その内わかる様になるでしょ。



「で、エドガルドは噂の真相を確認したんだからすぐにトレラーガに帰るんだろ?」



「何を言っているんだ、折角ウルスカまで来たのだから数日は居るつもりだよ。それにビビアナの結婚式に参加出来なかった分お祝いもしないとね?」



「あら、祝ってくれるの? ありがとう」



 とげのある言い合いをするホセとエド、祝ってくれると聞いて歓迎モードのビビアナ、私も連絡し忘れた身としては結婚式に参加出来なかった事を出されては無碍むげには出来ない。

 エリアスは睨み合ってる2人を楽しんでるみたいだからホセの味方はしないだろう。



『ただいま』



 その時玄関からリカルドの声が聞こえた、頼りになるリーダーの帰宅に私は玄関へとお迎えに向かう。



「リカルド、おかえり! 今ね、エドが来てるの」



「エドガルドが? あ、本当に居る…、よくこの家がわかったな、誰かが門まで迎えに行ったのか?」



 リビングに入ってリカルドがエドに話し掛け、誰もがその事実にハッとした。

 そうだよ、エドはこの家の場所知らなかったはずだよね!?

 私達の誰もエドに家の場所教えたりしてないはずだし、まさかストーカー的な…!?



「いや、貸馬屋に馬を預けた時に家の場所を聞いたんだ、この家の事は既に有名になっているからかあっさり教えて貰えたよ」



 ニッコリと微笑むエドにその場の全員が疑いの眼差しを向けた、有名だからと言って教えていたら今頃この家には毎日賢者と繋がりを持ちたいという人達が行列を作っていると思うんだけど。

 絶対ずっと前から調べていたに違いない、エドの拠点がトレラーガだから問題は無いが、もしもウルスカに住んでいたとしたらと思うとゾッとした。



 呼吸いきする様に嘘を吐くのは裏社会で生きて来た者だからだろうか、改めてエドに気を許してはいけないと思った瞬間だ。

 しかも疑いの眼差しを向けられてるのがわかっててもにこやかに笑っていられるメンタルの強さが恐ろしい。



「………エドガルドは今日の宿を決めに行かなくていいのか? 今は客室が空いて無いから泊めてやれないぞ」



「できればアイルの部屋に泊めて欲しいところだが…」



 リカルドが暗に家から出る様に告げると、エドは艶っぽい微笑みを私に向けた。



「そ「んな事許される訳ねぇだろうが、何なら娼館にでも泊まれば良いんじゃねぇか?」



 私が自分で断ろうとしたらホセが私とエドをさえぎる様に立って代わりに断ってくれたが、その時フワリと知ってる匂いがした。

 私はそのままホセの背中にくっついてスンスンと匂いを嗅ぐ。



「………ふぅ~ん、ホセは自分が娼館に行って来たからエドにも勧めてるんだね。私は今から夕食の仕込みするから」



「えっ、あ、アイル!?」



「ホセ、悪いが私はアイルにしか興味が無いんだ、だから折角勧めてくれたが行くつもりは無いよ」



 娼館特有の匂いがしたので指摘すると、一瞬ホセが固まったのを私は見逃さなかった。

 もしや私が教えた技がどんなものか確認しに行っていたのだろうか、呼び止められたが無視して台所へと向かった。



 背中越しに機嫌良さげなエドの声と、「今回はエドガルドの勝ちかな」と呟くエリアスの声を聞きながら。

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