第548話 変化

 うん、大丈夫、意識してない。

 時々ニヤニヤしながら向けられるエリアスの視線をかわし、そんな自己暗示をかけている自分に気付いて悶える。



 そんな瞬間に襲われる事もあったけど、トレラーガの門をくぐった時点で目の前の問題に神経が向いた。

 当然のように門前広場にて笑顔で待っていたエド。

 何度も来ているせいか、到着時間の予測もバッチリなようだ。



『やぁ、エドガルド。相変わらずの執着ぶりに戦慄せんりつする思いだよ』



『ははは、エリアスに執着する気はさらさら無いから安心するといい。なんならアイルだけ屋敷うちに招待したいくらいなんだけどね』



 会って早々舌戦を繰り広げているエリアスとエド。

 きっと二人ともいい笑顔で会話しているんだろうなぁ。



「チッ、そんな危険なマネさせられるかよ」



 外から聞こえてきた会話に舌打ちするホセ。

 これまでお酒に釣られたりとやらかしているので、私は何も言えない。

 エリアスとエドが話していたかと思ったら、エドが馬車に乗り込んで来た。



「アイル! もう何年も会えなかった気がするよ。相変わらず愛らしいね、この季節にぴったりな新しい夜着も準備してあるから期待してくれていいよ。ぜひとも着た姿を見せて欲しいところだが……君の周りの男達が許してくれなさそうだ」



 流れるような動作で私の手の甲にキスをして、さりげなく指先で掌をくすぐるように撫でられた。

 普段ならちょっとドキッとする行為だけど、いきなり夜着を準備しているなんて言われたので心は無だ。



『出発するよー』



 エリアスの声が聞こえると、私の隣に無理やり座ってきた。

 無理やりというのは、普通車の後部座席ほどの座席におじいちゃんとゆったり座っていたのに、おじいちゃんとは反対隣に滑り込んできたのだ。



「ちょっとエド!?」



「いやぁ、もう動き出してしまったから座っていた方がいいだろう? それよりビビアナの子供は元気かい?」



「アリリオ!? もう寝返りができるようになったんだよ! 私の事もわかってるみたいで、一生懸命アイルって呼ぼうとしてくれるのがまた可愛いの!」



「いや、アイルあれは普通にあーと声を出しているだけ」「最近は私達がご飯食べていると口をもぐもぐさせてるんだよ、一緒になってあーんって口を開けてたりすると、食べさせてあげたくなって困っちゃうんだ~」



 一瞬おじいちゃんが何か言った気がしたけど、私のアリリオ愛は止まらず話続けた。



『着いたよ』



 ほんの少ししか話してないはずなのに、どうやらもうエドの屋敷に到着してしまったようだ。



「おや、もう到着してしまったようだね。もっと聞いていたかったのに残念だ。後で続きを聞かせてくれるかい?」



「うん! もちろんだよ!」



 満面の笑みで答える私に、同乗している三人はジトリとした視線を送っていた。

 アリリオ自慢が出来るチャンスを逃す手はないよね!?



「そういえばアイル、お前ウルスカに売ってない調味料買い足すって言ってなかったか?」



 差し出されたエドの手を借りて馬車を降りていると、すぐ後ろのホセが声をかけてきた。



「あ、そうだった! 途中で降ろしてもらって買ってくればよかったなぁ」



「じゃあ今から行こうぜ。二人で行けばすぐに戻ってこれるだろ」



 エドの手に乗せていた手を掴まれ、引っ張られるように歩き出す。



「あっ、アイル!」「エドガルド、私は移動で少々疲れたから部屋で休みたいんだが」



 エドが私の名前を呼んだが、おじいちゃんに話しかけられて対応しているようだった。

 ホセはまるで追いつかれたくないとばかりに、早足で歩いている。



「ホセ? ちょっと速いよ!」



「あ、わりぃ。けどな、アイル」



 歩調は緩んだけど、足を止める気は無いらしい。



「ん?」



「オレだってアリリオが可愛い」



「当然だね」



「だからお前のアリリオの話もいっぱい聞いてやるし、共感もできるだろ」



「そうだね」



「オレにしとけよ」



「へぁっ!?」



 恋愛ドラマのお約束のようなセリフに思わず一瞬足が止まったけど、絶妙な力加減で繋がれた手は離れず、ホセは前を向いたまま歩き続けている。

 歩調は普段私が歩くくらいなので問題はないけど、不意打ちのセリフに心臓は走った後のように脈打っている。

 


「あー……、つまりだな」



「わわっ」



 急にホセが足を止めたので、ホセの背中にショルダータックルをしてしまった。本人は全然痛そうにしてないけど。

 ホセは首だけで振り返り、感情の読めない表情で私を見下ろす。



「オレが話を聞いてやるから、エドガルドとは絶対二人きりになるなよって事だ」



「へ? あ、あ~……そういう事ね! うん、わかった、二人きりにならないようにするよ」



 私が宣言すると、納得したように頷いて再び歩き出した。

 びっくりした、ここ最近はずっと普通に接してたし、急に自分と付き合え的な事を言い出す訳無いよね。



 それにしても、以前のホセなら近道だからと迷わず花街を通り抜けて商店街に向かっていたのに、今は少し遠回りなルートを使っている。

 記憶喪失の間のお子様ホセを知ってしまったせいで、余計に落ち着いた性格に感じてしまい、繋いだままの手を意識してしまう。



 あれ? だけど……まだホセって私の事好きなのかな?

 実はもう既にビビアナみたいな家族愛に変わったから落ち着いた態度だったりして……。

 こっそり盗み見たホセの横顔からは、何も読み取る事ができなかった。




◇◇◇

アイルの気持ちに変化が……!?



今週から投稿している新作、「元社畜OLが契約したもふもふは、世界の存亡を決めるフェンリルでした」をお読みくださっている方々、ありがとうございます。

まだの方はちょっと覗いてみませんか?( *´艸`)

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(´・ノω・`)コッソリ

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