第375話 男湯

「ところで保護者同伴って、誰を連れて行くんだ?」



 ストンと椅子に座ってホセが聞いてきた。

 ホセはエドと喧嘩するから論外でしょ、エリアスは面白がって余計な事言ったりするでしょ、となるとエンリケかリカルドだけど…。

 チラリとベッドに腰掛けている2人を見る。



「わかった、付き添う」



 さすがリーダー、リカルドが諦めた様にため息を吐きながら立候補してくれた。



「えへへ、ありがと。じゃあエドは寝る時になったら教えてね、皆お酒飲んでるからちょうど抜けた頃にお風呂の交代時間だと思うし」



「ああ、保護者同伴は残念だが、それでも私の手を握っていてくれるのならば楽しみだ」



「それにしてもさっきはある意味面白かったよね。いきなりホセがアイルの悲鳴が聞こえたって言って部屋を飛び出したと思ったらエドガルドも飛び出して来ててさぁ、僕の耳には悲鳴みたいなのは微かに聞こえたってくらいでアイルの声だとはわからなかったのに」



 エリアスは感心しているとも、呆れているとも思える目でエドを見た。



「ふっ、私は常にアイルの事を気に掛けているからどんなに微かな声だろうがアイルの声なら聞き分けられるんだよ。当然足音や立ち上がった時の音でもアイルだとわかるからね」



 胸を張って答えるエドに、私は戦慄した。

 声や足音までならわかるけど、立ち上がる音で判別できるって何なの!?



「へぇ、じゃあお風呂場でホセの姿のアイルを見た時はどう思ったの?」



 ニヤニヤしながらエリアスが余計な事を聞いた。



「見た目こそホセで残ね…じゃなく、ホセや侵入した酔っ払っいにアイルの裸体を見られずに済んだのは安心したが、私から見れば仕草でアイルだとわかったよ。アイルだと思えば例えホセの姿で上目遣いをして耳を伏せていても可愛いとさえ思えるさ」



「気持ち悪い事言ってんじゃねぇ!」



 エドの発言にホセは自分の二の腕をさすりながら怒鳴った。

 私がホセの姿でも可愛く思えるという事は、ずっとホセの姿のままでいたらホセの事も可愛く見えて来たり…なんて…ふふっ。



「アイルアイル、考えが口から漏れてるよ」



 エンリケが呆れながらも注意してくれて、エドとホセの方を見ると2人共凄く嫌そうな顔をしていた。

 そんな風に雑談しつつ過ごしていたらお風呂が男湯になる時間になったので男性陣はお風呂へ向かったが、エンリケは大浴場だと鱗が見られる危険がある。

 そんな訳でエンリケは行ってないが、自分も残ると言い出したエドもエリアスに連行されてお風呂へ行った。







[お風呂場 side]



「しかし、今まで逆に酔った女性が入って来たりしなかったんだろうか」



 脱衣所で服を脱ぎながらリカルドが呟いた。



「それなら入ってる人は喜んじゃうんじゃない? あ、でも入って来た人によるのかな? 小さい子が間違って入って来たら……喜ぶ人もいるか」



 エリアスはエドガルドの商人とは思えない鍛えられた身体をチラリと見て肩を竦める。



「ちゃんと表示もされてんだから間違って入った奴は自業自得だろ」



 そう言うとホセは身体を隠す事も無くスタスタと浴室に入って行った。



「く…っ、あのホセの身体をアイルは見たのか…! アイルが望めばいつでも見せる…いや、むしろ見て貰いたい、そうすれば私も負けてないと知って貰えるのに…!」



 嫉妬混じりにホセの消えたドアを睨むエドガルド。



「はいはい、エドガルドもホセに負けてない持ってるよ。早く入って出ないとアイルはその間エンリケと2人っきりだよ~」



「だから私もアイルの洗浄魔法で「わかって無いなぁ、男だろうが女だろうが洗浄魔法で清潔にしただけより風呂上がりの方が色気がある様に見えるんじゃない?」



 エドガルドの抗議を遮り、エリアスがニヤリと笑うとエドガルドはハッとした。



「確かに…! エリアス、君を誤解していた様だ、感謝しよう」



「どういたしまして」



 その方がアイルの反応が面白そうだから、そんな本音を隠してエリアスはにっこり微笑んだが、そんな本心を見抜いたリカルドは呆れた目を向けつつ浴室へと入って行った。



 大浴場というだけあって、体格の良い4人が入ってもまだ余裕がある。

 脱衣所には服を入れる籠が8個置いてあったので、8人用のお風呂の様だ。

 頭と身体を洗い、髪の短いリカルドが1番に浸かった。



 真っ先に入ったホセだが、尻尾を洗うとどうしても時間がかかる。

 結局浸かったのは最後だった、途中で2人程他の宿泊客が入って来たが、鍛え上げられた4人の身体を見て萎縮していた。



「あ、そうだ。ねぇホセ、さっきのアイルの真似してみてよ、ホセは見たんでしょ? 僕は君達2人が壁になってて見えなかったんだよね」



「誰がするか! そこに張り付いていただけだっての」



 ホセはを指差した。



「ふふ、身体を浴槽で隠そうと必死になっている姿は可愛かったよ」



「やめろ! オレの姿だったろうが!」



「ホセ、他の客もいるんだから大きな声を出すんじゃない。エリアス、エドガルド、ホセを揶揄うのはやめろ」



 騒ぐ3人をリカルドが嗜めた、ホセは自分のせいじゃないと言わんばかりにムッツリと口を閉じる。



「はぁい」



「私は揶揄ってなどいないんだが…、本当の事しか言って無いぞ。エリアス、今の返事はアイルの真似をしただろう」



「あ、わかった?」



「ふふふ、当然だよ」



「ケッ、オレは先に出るぜ」



 楽しげに会話するエドガルドとエリアスを不快そうに一暼いちべつし、ホセはサッサと浴室から出て行く。

 ホセだけ先に部屋に戻すまいとエドガルドもすぐに出たが、尻尾の拭き取りに時間が掛かり、ホセが部屋に戻ったのは1番最後だった。

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