第374話 ハプニング☆
「アイルも飲んで良かったのに…」
「気持ちだけ貰っておくわ、家の外では飲まない事にしたから」
部屋に戻りながらエドが残念そうに言ったが、エドの前でお酒を飲むのは危険だと思うので飲むつもりは無い。
どうせここで飲んでも途中でネックレスつけられて正気に戻るだけだしね。
「アイル、お風呂が男湯に変わるまで2時間あるけど、今ならお湯が綺麗だから入って来ちゃえば?」
「う~ん、食べたばかりだからもう少ししてからにするよ」
町の宿屋とはいえ、貴族用の部屋じゃないので大浴場しかない、しかもここは時間で男湯と女湯が入れ替わるシステムなのだ。
エリアスが教えてくれたけど、さすがに満腹で入るのはキツい。
「アイルが入った風呂に私も入れるのか…ふふふ…」
「あ、男女入れ替わる時に30分空けてお湯の入れ替えもするってさ」
「く…っ」
不穏なエドの呟きに対し、エリアスが笑顔でバッサリと斬り捨てると、悔しげな声を漏らした。
私が入った後だとしても、私以外も入ったお風呂ってわかってるのかな?
覗かれるわけでもないから良いんだけど、とりあえずお湯の入れ替えしてくれるのならひと安心だ。
各自の部屋に戻り、30分程してからお風呂に向かう。
食堂ではお酒を飲んでいる男性客が増えていた、だからこそ男性の入る時間が後なのだろう。
私と入れ替わる様にお風呂から親子が出て来て、中には女性が1人居たがすぐに出たので貸切状態になった。
洗い終わってお湯に浸かっていたら、脱衣所の方がガタガタとやけにうるさい。
粗暴な女冒険者でも入って来たのかなと思っていたら浴室のドアが開いて私は悲鳴を上げた。
「イヤぁーーーー!!」
入って来たのはベロベロに酔っ払ったおじさんだったのだ、幸いドアに背を向けて浴槽に浸かっていたので身体は見られて無いが、私の手元には身体を洗った布しかない。
以前ビビアナと知らない人に裸を見られるのと仲間達に見られるのとどっちが嫌かと話した時に、見られた時の対処法を考えたのを思い出した。
「『
「んぁ? 何女みてぇな声出してんだよ、へっ、気持ち悪ぃ」
「どうした!? 大丈夫か!?」
「アイル!!」
「ぎゃー! 何で皆も来たの!?」
浴室にホセやエドに続いて仲間達が現れた、身体を隠す為に浴槽の淵にしがみつく。
「ぅお!? お、お前の悲鳴が聞こえたからよ…」
浴室内を見てホセが驚き、その後ろでエドは何やらショックを受けた顔をしていた。
「その酔っ払っいのおじさん連れ出して!! ちゃんとパンツくらい履かせてから外に連れ出してね!」
「ああ…、わかった」
「おぉ!? 何だてめぇら!」
ホセは苦虫を潰した様な顔でおじさんを引き摺り出して浴室のドアを閉めた。
暫く騒ついていたが、全員出て行ったのか脱衣所の方が静かになりホッと息を吐く。
「焦ったぁ…」
グッタリしつつお風呂を出ると宿屋の主人と女将さんに平謝りされた。
どうやら時間交代制を理解してなかった客が酔っていたせいで女湯の時間だという表示を見ずに入ってしまったらしい。
幸い裸を見られた訳じゃないので酒を飲んだ客は朝風呂にするか、夕食より早い時間に入らせる事を勧めておいた。
そして部屋に戻ると何故か目の据わったエドを筆頭に全員が待っていて、エドは私の姿を見た途端立ち上がった。
「エド、どうしたの?」
「アイル、何故…さっきは裸のホセの姿になっていたんだい?」
そう、さっき幻影魔法で纏った姿はホセだったのだ、本来の私の姿は見られて無いとわかっていても見られたくなかったので浴槽で身体を隠したが、肩の辺りは見えていたので裸だとわかったのだろう。
「え? そりゃいきなりおじさんが入って来たから裸を見られない様にだよ」
「そうじゃない、何故ホセの裸が再現できるのかというところが大事なんだ、ホセの裸を見た事がある、なんて事は…」
「あるよ、じゃないと知らないモノは再現出来ないもん」
絶望、そんな言葉がぴったりの顔をしてエドは膝から崩れ落ちた。
「そ、それは…ホセにもアイルの裸体を見られたという事かい…!?」
「エド、言い方がイヤらしい!! 私は見られてないよ!? ホセは獣人だから見られても平気なだけだもん、だからビビアナに怒られてたし」
「はぁ…、良かった…! ホセを殺さなきゃいけないかと思ったよ、ははは」
「何だと!? やれるもんならやってみろよ!」
エドがとんでもない事を言い出し、ホセが怒って立ち上がった。
対抗する様にエドも立ち上がる。
「ふっ、出来ないと思うのかい? アイルに無体な事をしたら言われなくても殺してあげるから安心したまえ」
「ああもう! ホセもムキにならないで、エドも挑発しないの! 大体何かされたら仕返しくらい自分でするから余計な事しないでね!? さっきのおじさんにも裸は見られてないから安心して」
部屋にある小さめのテーブルを挟んで立ったまま睨み合う2人の間に入り、離そうと押したがビクともしない。
くっ、このフィジカルお化け共め!
不意にエドを押していた方の手をキュッと握られ、見上げると熱い視線が向けられていた。
「アイルの手を煩わせる気は無いよ、私に任せてくれれば良いから」
私の言う事を全く理解してない発言に怒りで頭の芯が冷たくなる。
目つきが変わったせいか、エドの表情が固まった。
「エド、私は、余計な、事を、するなって、言ったの」
言葉を区切ってハッキリ、キッパリ言ってやった。
「はぁ…、アイル、君が望む通りにするよ。その代わり1つお願いを聞いてくれるかい?」
何故か熱い吐息を漏らし、妙にうっとりしているので手を引っ込めようとしたが、痛くは無いもののしっかり握られていて動かせない。
「お願いって…何?」
「今夜眠るまで手を握っていて欲しいんだ」
「う~ん…保護者同伴でなら…」
「そんな事言ってアイルが手を握ってたら興奮して一晩中眠れず起きてる、なんて事になったりして」
エリアスの言葉にジトリとした目を向けると、エドの目がスッと逸らされた。
「保護者同伴、15分の制限付きね」
「……………く…っ」
眉間に皺を寄せて目を固く閉じていたが、最終的に諦めた様に頷いた。
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