第258話 その後の4人娘

【三人称です】


「なんなのよアイツら!!」



 ダンッとテーブルに拳で叩いたのは4人娘のリーダーだ。

 アイルとビビアナが帰る時、ホセの耳に他のメンバーが居ないのを良い事に2人で飲もうという話が聞こえたので、食事が済むと代金を支払い早々に帰ってしまったのだ。



「そりゃ…、あの味の違う唐揚げは美味しかったけどさ…! 1人1つしかくれなかったしケチくさいにも程があるでしょ!」



「本当よね、私達が誘ってやったんだから全部差し出してもいいくらいなのに!」



「他のテーブルの奴らが食べてるのを横目に何でこの私達が我慢しなきゃいけないのよ!」



「そうじゃ無いでしょ! 私達が食べ物に負けたって事が問題なのよ!」



「「「ぐ…っ」」」



 この4人娘、実はアイルが初めてトレラーガに行った時に絡んで来た『美麗ヘルモーソ』の妹分だったりする。

 半年前に冒険者デビューし、その時同じ女性だけの構成だからと初めて討伐に行く時にギルドから斡旋を受けて共に行動したのが始まりだ。



 そしてアイルが賢者だという噂が広まった時に『美麗』のメンバーからアイルに対する罵詈雑言を聞かされ、そのせいで敵意を持ち、尚且なおかつ女としてアイルを下に見ている。



 余談だがリーダーは冒険者になる前、悪い噂ばかりだったエドガルドの恋人の座を狙っていた。

 所謂いわゆる不良に憧れる女の子というやつで、自分にだけは優しくしてくれるという根拠の無い自信を持っていた。



 それなりに見た目が良いせいで、それまで周りにチヤホヤされてきた弊害と言える。

 それが年齢や性格がエドガルドの守備範囲外だったせいで相手にされなかった上、エドガルドに想い人が居るという噂が出た、そしてその相手がアイルだと知った瞬間リーダーはアイルを完全に敵だと認定した。



 ちなみにエドガルドが好む性格は「スレてない」のひと言に尽きる。

 なので自分の見た目に自信を持っているタイプや、本心がわかりづらいビビアナの様なタイプには興味が無い。

 故に散々子供扱いされて女としての魅力があるなんて全く思っておらず、何かをたくらもうものなら「企んでいます」と顔にハッキリ出るアイルは元々エドガルドのタイプだったのだ。



「それにしてもエンリケったら腕に胸を当てても態度が全然変わらないなんて、不感症じゃないの!?」



 それはただ単に長命種故に性欲が薄いせいだ、若い時はそれなりに興味はあったが、数百年単位で女遊びをすれば飽きても不思議では無い。

 エンリケは特別美形ではないが、連れ歩いて自慢の出来る程度には整った見た目をしているので女に困った事も無いせいだ。



「それを言ったらホセもよ! あいつの頭は食べ物の事しか無いわけ!?」



 ホセの場合はアイルの態度がおかしかった事に気を取られていた上、挑発じみた行為をされたせいである。



「リカルドも2人きりになろうって言ってもはぐらかすばっかりだったし!」



 リカルドは元々女性に対して嫌悪感を覚えた相手が相手なのでグイグイ来るタイプは苦手だ。



「エリアスってば簡単に引っ掛かりそうだと思ったら調子の良い事言う割に、どうして全然約束に対して頷かないのよ!」



 男性陣が居なくなってから注文したエールを煽り、乱暴にテーブルに叩きつける。

 完全に愚痴大会と化したテーブルの様子に周りがニヤニヤしながら聞き耳を立てている事に彼女達は気付いていない。



「賢者だか何だか知らないけどさ、何であんな小娘がチヤホヤされてんのよ。色仕掛け出来る様な色気も無いし、運良く魔法が使えるから戦力になるだけじゃない! そうよ、ただその能力を利用したいからあの子の周りに人が居るってだけなんだわ!」



「確かにアイルにゃ色気は無いが、少なくとも可愛げはお前さんらよりあるぜ?」



 突然4人娘に声が掛けられた、周りの冒険者達からもはやし立てる様に「そうだそうだ」と声が上がる。

 声を掛けたのは依頼の報告を終えたスキンヘッドのバレリオだ、4人娘はバレリオの容貌ようぼうにヒッと息を飲んだ。



「な、何よあんた…」



 リーダーが何とか言い返したが、明らかに警戒して怯えている。



「おーおー、そんな反応されたら傷付くねぇ。おい、お前らアイルとこの女達を比べてどう思う?」



 そう言ってバレリオが振り向いた先には以前バレリオにされた3人組だ、あれから何だかんだ面倒を見てくれるバレリオを慕って今ではかなり大人しい。



「え…? そりゃこっちの方が断然いい女でしょう」



「確かに、アイルにゃ色気がねぇし」



「アイルも悪かねぇけど、誘うならこっちだな」



 本人が居ないのをいい事に好き勝手言う3人、そんな3人の言葉に気を良くした4人娘は胸を寄せたり流し目を送ったりと更にアピールした。

 わかりやすい色仕掛けにデレっと鼻の下を伸ばす3人にバレリオは呆れてため息を吐いた。



「はぁ~~…、お前ら見る目ねぇなぁ。違うな、わかってねぇんだ。今ヤれる相手と見るんじゃなくて結婚する相手と思って考えたらどっちだ?」



「「「そりゃあアイルでしょ……あ」」」



「わはははは、わかったか!?」



 見事にハモった3人に対してバレリオは笑い出した。



「だ、だって嫁にするなら料理が上手い方が良いから…っ」



「アイルならしっかりした母親になりそうだしっ」



「前より胸が大きくなってたからもうちょっとすりゃ色々もっと育つだろうしっ」



 口々に言い訳じみた事を言い出した3人に、4人娘は今にも殺さんばかりの視線を向けている。



「ククッ、わかったか嬢ちゃん達、女の魅力は色気だけじゃねぇんだよ。あいつらは仲が良いから引き裂こうとしても無駄だぜ? あからさま過ぎて百戦錬磨のあいつらにゃ嬢ちゃん達じゃ太刀打ち出来ねぇよ」



 それだけ言うとバレリオはヒラヒラと手を振りギルドを出て行った。

 慌ててその後を追う3人組、その直後ギルドの酒場から奇声が聞こえたのは当然の結果だろう。

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