第259話 仲間は家族

「もしかしたら帰って来ないかもしれないし~、今夜は酔っ払っても大丈夫だよね?」



「うふふ、構わないわよ?」



「だよね! さっすがビビアナ! 誰かさんとは違って心が広いねぇ、むふふふ」



 しっかり食べてお腹は膨れているのでナッツ類やチョコやチーズという軽いおツマミだけ出し、ネックレスを外してビビアナと自分のグラスにお酒をいだ。

 ギルドの酒場の様子がテレビで観られれば良い酒の肴になるんだけどな~。

 リビングで完全にくつろぎモードになってグラスを掲げる。



「じゃあ、かんぱー「誰かさんって誰だ?」



「ッッ!?」



 居るはずの無いホセの声がすぐ真後ろから聞こえて息を飲む。

 ギギギと錆びたブリキ人形の様な動きで後ろを向くと、数㎝の距離にジト目のホセの顔があった。




「お、おかえり…、早かったね…?」



 いつから居たの!? 私の背後に居たのならビビアナからは見えてたよね!?

 あっ、だからさっき「あたしは」って言ったのか!

 道理で笑ってるはずだよ!!



「ん」



 ホセが手を私の前に差し出す。



「へ?」



「………」



 一瞬訳がわからなかったが、ジト目のまま無言で何かを要求する様に手を動かすホセ。



「……………はい」



 私はグラスをテーブルに置いて、大人しくネックレスをストレージから出してホセに差し出した。

 くそぅ、どうせなら酔っ払ってから帰って来てくれれば良かったのに…!

 それならネックレス出せなくても仕方ないで終わったかもしれない。

 ホセはポケットにネックレスを押し込むと、そのまま私の隣に座った。



「誰かさんが怪しい動きをするから殆ど食わずに帰って来ちまったから腹減ったな~、あの唐揚げも分けたから少ししか食えなかったしな~」



 グラスに口を付けようとした私の方を向いてテーブルに肘を乗せて頬杖をつき、わざとらしく言ってきた。



「そうだねぇ、客が多過ぎて中々注文出来そうになかったし、僕はやっぱりアイルのご飯が食べたいなぁ」



 少し遅れてリビングに入って来たエリアスがニコニコしながらテーブルについた。

 そして当然の様にリカルドとエンリケもテーブルを囲む。



「も~わかったよ! 出せばいいんでしょ、出せば!」



 ストックとして置いておこうと思った残りの料理をテーブルに並べる、水餃子は鍋ごと出しちゃえ。

 空の器も出して各自でよそって貰う事にした。



「美味しい…! んん…ごくん、これは皆帰ろうって言うはずだね! 嬉しいなぁ、これから毎日こんなに美味しい食事が出来るなんて」



 エンリケが水餃子を頬張りながら嬉しそうに言った、素直に褒められて嬉しくなり、ホセへの不満が落ち着いた。

 エリアスもカニ玉を取り皿に乗せつつ口を開く。



「しかし…、あの子達これで僕達に声を掛けて来なくなるかなぁ。かなりプライドへし折られたと思うんだけど」



「えっ!? 何々!? どういう事!?」



 私とビビアナがギルドを出てからの短い間に何か面白い事でもあったんだろうか。

 わくわくしながらエリアスに続きを促す。



「だってさぁ、ホセはずっとアイルの方を気にして「オレが気にしてたのは唐揚げだ!」たし、リカルドはグイグイ来られて逃げ腰だったし、エンリケは迫られてたけどほぼ無反応だったからさぁ。本人達は隠してるつもりだったみたいだけど、かなりイラついてたよね、あははっ」



「あ~…、それはハニートラップ仕掛ける方としては嫌な相手だねぇ。ホセ相手なら美味しい物を餌にした方が喰いついたんじゃない? ププッ」



「ああ!? そりゃお前だろうが! 珍しい酒があるとか言われたらフラフラついて行くんじゃねぇの?」



「私そんな簡単な女じゃないもん!」



「ハンッ、どうだか…。漁師町モリルトの店で見ず知らずの男の膝の上でしゃくしてたのは誰だよ?」



「うぐっ、あ、あれは日本酒見つけて嬉しくてつい…。別について行ったんじゃなくてその場で知り合った訳だし…」



「あはは、痴話喧嘩はそのくらいにしてご飯食べたら?」



「「痴話喧嘩じゃない!」」



 エンリケの言葉に対する私とホセの反論が被った。



「いやぁ、そんな息ぴったりに否定されても説得力が無いよ。タリファスで会った時も仲が良いとは思ってたけど、恋人じゃないって言われた方が不思議だよ?」



「ホセっていうか、『希望エスペランサ』の皆は私にとっては家族だもん。だからパーティ内恋愛とか面倒な事考えた事も無いよ。エンリケの事も家族として扱うからね?」



「家族…」


「面倒…」



 エンリケが嬉しそうに呟いた、やはり長く生きていても家族というものを求める気持ちはあるのだろう。

 同時にホセがなにやら呟いたが、俯いて言ったのでよく聞こえなかった。



「ホセ、何か言った?」



「いや、別に…」



「え? あれ? そう?」



 確かに何か言ったと思ったんだけどな…、もしかして独り言だったかもしれない。

 首を傾げつつもグラスに口を付けた、エリアスがこっちを見てクスクス笑っているが、あの笑い方をしている時は何を聞いてもはぐらかされるので聞くだけ無駄だ。

 ホセも話したい事があるならその内話してくれるだろう、料理を勢いよく食べ始めたホセを横目に、そっとお酒のおかわりをした。

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