第260話 ◯◯にしたい子No.1

 翌日、冒険者ギルドへ向かうと入れ違いに4人娘が勢いよく飛び出して来た。

 すれ違いざまに私達を視界に捉えるとギッと鋭い視線を私に…では無く男性陣に向けた。



「こんな田舎は私達には合わないからトレラーガに帰るわよ!」



 リーダー格の子が聞こえよがしに言った、仲間に言ってる風だけど、明らかに私達に聞かせてるよね。



「そうね! 女の魅力を理解出来ない間抜けが揃ってるし!」



「洗練された人達じゃないと私達の魅力はわからないのよ!」



「ウルスカは趣味のおかしい奴らの集まりだわ!」



 無駄に足を踏み鳴らす様に歩いて行った、弟も機嫌が悪いと廊下をドスドス歩いてたなぁ。

 私達は呆然と4人娘を見送ってからギルドの中に入った、ギルド内はいつもの光景…だが妙に皆ニヤニヤしている気がする。



「おっ、来たか! もうちょっと早けりゃ面白いものが見れたんだがなぁ」



 顔馴染みでC級冒険者のサウロがリカルドの肩に手を置いた。



「何があったんだ?」



「それが…ぷぷっ、昨日お前らにコナかけてた4人組、あいつらお前らが帰ってから荒れてたんだよ、しかもバレリオとバレリオに懐いてる3人組にトドメ刺されて更に荒れに荒れて手持ちの金じゃ足りなくなっちまったらしくて、今度は色仕掛けで奢らそうとしたんだけどな、一部始終見てた奴らは当然相手にしねぇだろ? 怒って帰って今朝ここに来たら昨日の醜態を噂されてギャンギャンわめいて飛び出しちまったってワケ」



 サウロはこらえ切れずに笑いながら説明してくれた、それにしても手持ちが足りなくなったら周りに奢ってもらうという発想って凄いな。

 見返りとか求められたらどうするんだろう、でも彼女達の場合一緒に過ごしてあげたんだから奢るのは当然とか言いそう。



「あ~、だからトレラーガに帰ると言ってたのか」



 リカルドが納得した様に頷いた。



「帰るっていうか、帰るしかねぇだろ! アイツらに引っ掛かる様な間抜けな冒険者はここにゃ居ねぇしよ。たとえトレラーガに逃げても何人かは護衛でトレラーガに行くだろうから、あっちでも噂が広まるのは時間の問題だとは思うがな」



 サウロはそれはそれはとても楽しそうな笑顔で言った、余程4人娘の態度が気に食わなかったんだろう。

 リカルドが依頼を吟味している間にサウロが話してくれた内容は、逃げる様に立ち去った4人娘に対してザマァみろと思うには十分だった。



 実際に私に会った冒険者から聞いたと言っては私の容姿を散々けなし、大氾濫スタンピードの活躍もエルフの手柄を横取りしたに決まってるとか、本当に賢者ならウルスカに居た時から知られてないとおかしいから何かの間違いだとか吹聴していたらしい。



 ちなみに元から居たウルスカの冒険者は誰もその言葉を信じなかった、何故ならギルマスのディエゴが私が賢者だという事が公表されたと同時に冒険者達に報告したんだとか。



「俺や『希望エスペランサ』のメンバーは前からアイルが賢者だと知っていた、実際に魔法も見せて貰ったしな。だがアイルは特別扱いされるよりも、国のお抱えになって偉くなるよりもいち冒険者として自由に過ごしたいと言っていた、だからお前達もアイルを特別扱いせずこれまで通りの付き合いをしてやってくれ……ってな。あん時は俺達皆ギルマスの事を見直したぜ」



「ちょっと私ギルマスにハグしてくる! ぐぇっ」



「落ち着け、いきなりハグされてもギルマスも驚くだろうが。バネッサに睨まれても知らねぇぞ」



 サウロの話を聞いて階段に向かって走り出した私の襟首をホセが掴んだせいで首が締まって変な声が出た。

 きっとバネッサなら私がギルマスに抱きついたところで何も思わないはず、……あれ? そういえば普段クールだけど、もしかしたら今でもラブラブで内心凄くやきもち焼きだったら困る事になるかも…。



「じゃあバネッサからギルマスに伝えて貰えばいいかな? ギルマスの代わりにバネッサにハグしようっと」



「何でそうなったかわかんねぇけど、それならいいんじゃねぇの? だけど今は忙しい時間だからもっと暇そうな時にしろ、な?」



「はぁい」



「ぶはっ、力関係はホセの方が上だって言ってたヤツらが居たけど本当みたいだな。アイルはやっぱりアイルのままだなぁ、何か安心したぜ」



 ホセに諭されて素直に返事すると、サウロが吹き出した。



「前から『希望エスペランサ』の皆は私が賢者だって知ってるからね、私との関係は賢者だって公表される前と変わらないもん。サウロ達が前と変わらず接してくれるのも嬉しいんだよ、えへへ…」



 ちょっと照れ臭くて笑って誤魔化した。



「なるほど、これかぁ。バレリオの旦那がアイルを可愛がる理由がわかったぜ」



「あらぁ、サウロもアイルの魅力に気付いちゃったのかしら? でもアイルはあげないわよ?」



 背後からビビアナがムギュッと私を抱きしめた。



「はっはっは、誰もあんたらから取りゃしねぇよ! あんたらが居ない間にバレリオがよくアイルの話をしてたんだ、離婚なんかしねぇで家庭を大事にしてたら今頃アイルみたいな娘が居たかもしれねぇってな。むしろアイルを娘にしてぇって感じだったぜ? 俺もいい加減結婚を考えなきゃいけねぇ歳だからよ、アイルみたいな子供だったら可愛いだろうなぁった思うワケだ、そう思ってんのは俺だけじゃねぇしな」



「「「ぶふっ」」」



「ア、アイル…、妹扱いどころかバレリオ以外にも娘として見られちゃってるの…?」



 ホセとビビアナだけじゃなく、いつの間にか話を聞いていたらしいエリアスも一緒に吹き出した。



「うふふ、そういえばタイチにも娘だと思われていたものね」



 この日、バレリオのせいで私がウルスカ冒険者の間で恋人でも嫁でも妹でも無く、娘にしたい子ナンバー1になっていたという事を知った。

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