第261話 情報共有

「待たせたな」



 サウロと話している間にリカルドが手続きを済ませて戻って来た。



「やけに依頼札クエストカードの数多くない?」



 リカルドが手に持っている依頼札の数を見てエリアスが言った。



「ああ…、今はウルスカに人が増えてるから食材を欲しがる食堂が多いらしい。今日も二手に分かれるか」



「あたし今日はアイルと行こうかしら」



「うん、一緒に行こう!」



「じゃあ僕がビビアナと入れ替わろうかな」



「わかった、じゃあそうしよう。ホセとエンリケもそれでいいか?」



「ああ」


「うん」



 組分けも済んだので皆で森へと向かう、この移動時間にいつも依頼内容や作戦の確認をするのだ。

 そして同じく森へと向かう冒険者達との距離が開いた時、リカルドが口を開いた。



「ひと月近く後になるが、指名依頼で長期の護衛をする事になりそうだ」



 その言葉でカリスト大司教から言われた事を思い出した。



「もしかしてカリスト大司教からかな? 1度協会本部に来て欲しいけど、招待する形にすると聖女として迎える気満々の人達が騒ぐから護衛として同行して欲しいって言われたの」



「「「「「……………」」」」」



「え? 何で皆黙るの!?」



「いやぁ…、それってちゃんと素直に帰して貰えるのかなぁって…」



 エリアスが引き攣った笑みを浮かべて言うと、リカルドも頷いた。



「下手したら分断されてアイルが残ると言っているとか一方的に告げられて追い出されるとかあるかもしれないぞ」



「えぇ~!? カリスト大司教はそんな事しないと思うけどなぁ」



「カリスト大司教だろうが、他の奴らも同じとは思えねぇな。基本的に権力者ってなぁ信用出来ねぇと思え、オレ達を追い出しておいてお前を置いて帰ったとか言うかもしれねぇぞ?」



「そうなったら暴れるよ? 聖女だなんて言葉が二度と出てこないくらい、そりゃもう全力でね!」



「その時は俺も一緒に暴れてあげるよ」



「うふふ、もしアイルと離されて閉じ込められたとしても、魔法が使えるエンリケが居たら心強いわね」



「確かに武器を取り上げられて閉じ込められてもエンリケが一緒だと心配いらないね、牢屋破りなんて余裕でしょ! その時は皆の事よろしくね」



「うん、任せてよ」



 そんな話をしつつ森に到着してエンリケにお弁当を預けようとしたら待ったが掛かった。



「どうしたんだ? ホセ」



「昼は合流しようぜ」



「クスッ」



 首を傾げるリカルドに端的に答えるホセ、そんなホセの言葉にビビアナが笑いを漏らした。



「ビビアナはホセが合流しようって言った理由知ってるの?」



「ん~…、たぶん食事がぬるくなるからじゃない? アイルのストレージは作り立てと変わらないけど、エンリケのストレージは外に置いておいたものと変わらない温度になるからでしょうね」



「やっぱりお前も…っ、だからアイルと行くって言ったんだな」



「ふふ、バレちゃった。だって今日は胡瓜きゅうりとハムのサンドイッチだったんだもの、具が冷たい方が美味しいじゃない?」



 睨むホセに対し、全く悪びれる様子も無く悪戯っぽく微笑むだけだった。

 この遠慮の無さ、ビビアナって本当にホセのお姉ちゃんみたい。



「俺のストレージって時間停止はしないからねぇ、お昼近くなったらキリの良い方が探索魔法で合流するって事でどう?」



 皆の視線が集まり、リカルドが頷いた。



「わかった、そうしよう」





[side エリアス]



「俺達は赤猪レッドボアから狩ろうか」



 リカルド達と分かれてすぐにエンリケが探索魔法で獲物を見つけてくれた、エンリケからしたら魔物でも討伐じゃなくて狩りなんだね。



 僕がこっちのチームに来たのはホセの観察をする為だったけど、どうやらホセはいつも通りの様だ。

 昨夜のアイルの家族発言でダメージ受けてたから心配してたんだけど大丈夫そうだなぁ。



 もうちょっとアイルの気持ちを知らないまま葛藤してくれてた方が面白かったんだけど、眼中に無いって知ったから諦めちゃったんだろうか。

 きっとビビアナも期待してるから、アイルの居ない内に探りを入れたいところなんだけど…。



「それにしても…ビビアナがもうすぐ結婚しちゃうけど、ホセは寂しくない?」



「あ? 何でオレが寂しがんなきゃいけねぇんだよ、めでたい事だと思うぜ?」



 いきなりアイルの事諦めたの? なんて言ったら怒るだろうから、まずはビビアナの話を挟んだ。

 本心らしく、普通の世間話みたいにこちらを見もせずに答えた。



「そうなんだ、ホセは結婚とか考えないの?」



「面倒くせぇから今のままが良い」



 今度はこっちをチラッと見た、探られてるって感じちゃったかな?

 その「面倒くさい」っていうのはアイルを振り向かせる為にまず意識させてから…ってゴールまでの道のりが遠いから!?

 そんな意味が込められていた気がして口元が緩みそうになる。



「……ホセとビビアナは元恋人とかなの?」



「「ブフォッ」」



 首を傾げて問うエンリケの言葉に、僕とホセは同時に吹き出した。



「そんな訳あるか! 同じ孤児院で育ったってだけだっての!!」



「なぁんだ、なるほど、じゃあアイルとは? 身体の関係は無さそうなのに、リカルドやエリアスより距離が近いなぁと思ったんだけど」



 おおっ、知らないからこそ出来る質問だね!

 僕は心の中でエンリケに良くやったと拍手を送った。



「………大事な仲間だよ」



 答える前に僕を見てから答えた、惜しいなぁ、もし僕がここに居なければ本心を言ったかもしれないのに。

 絶対僕が後でビビアナに話すと思って無難に答えたよね。

 でもそういう行動をとるという事は少なからずアイルを想ってるって事だよね、これは一応ビビアナとも共有すべき情報だと思うんだ。



 そしてその日の夜、いつもの様にホセがお風呂に入ってる間に僕とビビアナの情報交換が行われた。

 なお、アイルはストレージに無いおツマミをビビアナがおねだりすれば席を立つので、実質リカルドとエンリケとも情報共有する事になる。

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