第272話 川釣り
「ダメ、ホセ待って…っ」
「だけどこんなにトロトロじゃねぇか」
「あっ、ダメだってば…!」
「お前を待ってたら溶けちまうだろ!」
「もう釣れ…っ、逃げられた!! ホセが気を散らせたからだよ!?」
「自分が下手なだけだろうが! 人のせいにするんじゃねぇよ」
そう言いながらもパクパクと私の分のアイスを口に入れているホセ。
「あぁ~ッ!!」
アリケンテに到着して数日後、カリスト大司教が教えてくれた村で1泊して川釣りを楽しんでいた私達。
釣竿を河岸にセットして暑いから木陰でアイスを食べ始めたところで私の釣竿がヒットしたのだ。
思いの
しかも魚にまで逃げられて踏んだり蹴ったりである。
「追加で出せばいいじゃねぇか、まだあるんだろ? それに見てみろよ、半分以上溶けてるからアイルを待ってたら全部溶けてたって!」
魚にも逃げられ不機嫌マックスな私は無言でホセを睨んでいた。
確かに半分くらい液体に変わってるけど、半溶けのアイスは口当たりまろやかでそれはそれで美味しいから好きなのに。
「アイル様、魚は針を飲み込んだのを見計らって一気に竿を引くと針が食い込んで逃げられにくくなりますよ」
「なるほど、私の場合はただ針が引っかかってた状態だったんだね。だから暴れて逃げられたのか」
険悪な私達を見かねたのか、アルフレドがアドバイスをしてくれた。
「あっ、オレの竿が引いてるじゃねぇか!」
私の気が逸れたのを良い事に、逃げる様に
ジトリとした視線を竿を引くホセの背中に向けていたら、ホセがいきなり倒れた。
正確に言うと何故か飛んで来た私の肘から先くらいの大きさの魚がホセの横っ面にクリーンヒットして衝撃で倒れた。
普段のホセなら軽く避けただろうけど、殺気も無かったし、釣りに集中していたせいか避け損なった様だ。
ホセに当たった魚は私達のすぐ側に落ちてビチビチと跳ねている、ホセとは10m近く離れていたのでどれだけ凄い勢いだったのかが
魚が飛んで来た方向を見ると、少し下流に川の中に立つ熊が。
「く、熊…!」
こんな所に熊が出るなんて聞いてない、身構えた瞬間カリスト大司教が口を開いた。
「今日の調子はどうですか?」
話しかけると熊はザバザバと川を上がって来て地面でビチビチ跳ねている数匹の魚を手に引っ掛けて立ち上がり、一瞬でその体躯が縮んだ。
どうやら熊獣人だった様で30代半ばの素敵な筋肉を持った髭面の男性だ、獣化から人化したので当然全裸で、大事な所は魚で隠されている。
「お久しぶりですね、大司教様。今日の分はコレで足りるでしょう、そこの狼君にぶつけてしまった魚はお詫びに差し上げますよ」
熊獣人は全裸のままスタスタ歩いて行くと、小さめの樽に魚を突っ込み、身体を拭くと木に引っ掛けてあった服を着て人1人分の重さがありそうなその樽をヒョイと持ち上げて立ち去った。
「彼はこの村にある食堂の主人なのです、行き道で知り合ったのですが、豪快で楽しい
ポカンと見送る私達にカリスト大司教がニコニコと言った。
「あっ、ホセ!」
倒れたまま起き上がって来ないホセを慌てて見に行くと気絶していた、どうやらキレイに顎に魚が当たって脳震盪でも起こしたらしい。
掴んだままの釣竿を引き上げると、ぶつけられた魚とは大違いの掌サイズの魚だった。
その魚は空いている鍋に川の水と一緒に入れ、ホセと一緒に馬車の中へ。
ホセはリカルドとエリアスに運んでもらって座席に寝かせておいた、王族仕様なだけあって空調の魔道具で快適だし。
そして私は熊獣人に貰った魚の調理を開始した、シンプルに塩焼きが美味しいとの事だったので化粧塩もして遠火でじっくり焼いた。
昼食にはまだ早いけど、新鮮な方が美味しいだろうし、おやつの代わりという事で。
「んんんッ、美味しい! 身がふわっふわだ」
「本当に全然臭みが無いわね」
「僕こんなに美味しい川魚は初めてだよ」
「俺もいつ以来だろう、すっごく久しぶりに食べたなぁ」
「アイル様に味わって貰えてこの魚も嬉しいでしょう」
大きな魚なので皆で分けても結構食べられた、こんなに大きいのに美味しい鮎みたいで大満足だ。
そしてその魚が骨と内臓だけになった頃、ホセが目を覚まして外に出て来た。
「何が起こったんだ…?」
「目が覚めたか、どこまで覚えてるんだ?」
魚がぶつかったであろう顎の辺りをさすりながら出て来たホセにリカルドが聞いた。
「魚を釣り上げ様としたら顔に衝撃があって…そこから覚えてねぇ」
「あはは、村の熊獣人が獲った魚が飛んで来てホセにぶつかって倒れたんだよ、お詫びにってその魚をくれたけど、美味しかったよ」
「は? 美味しかった?」
エリアスが説明すると、ホセは眉根を寄せた。
「安心してホセ、ホセを気絶させた魚は私達が仇をとっておいたから! ホセの釣竿に付いてた魚もちゃんと取って馬車の中に置いておいたから安心してね!」
ドヤァと私が指を差した先には立派な魚の残骸が。
ポカンとした顔のホセを見て笑顔が押さえきれなくなる。
ふはははは、コレで私のアイスの仕返しが完了した、ホセは馬車の中を覗き、そして魚の残骸の大きさと見比べた。
そして吊り上がるホセの眉、同時に私は身体強化を使って走り出す。
「アイル、てめぇ…っ」
「あははは、ホセを気絶させた憎い魚をやっつけたんじゃな~い! 褒めてくれていいんだよ~?」
「ふざけんじゃねぇ!」
その後、私とホセの追いかけっこは昼食を催促するビビアナの声が聞こえるまで続いた。
◇◇◇
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