第271話 出会いは人生の宝…?
「うう、グラグラしてる…」
「ははは、アイル様も陸酔いですか。動いていたらおさまりますよ」
船を降りてからは立ち止まると景色が波の様に揺れる為、虚ろな目で地面を見ている私にアルフレドが声を掛けた。
船を降りたので今はフルプレートの鎧をしっかり身につけているが、船で1週間も南へ進んだこの大陸は秋の足音が聞こえていたパルテナと違い真夏の気温だ。
「鎧…暑いでしょう? 私が預かるから主要部分だけにする?」
「いえ、実はこの鎧は魔道具になってまして、気温や陽射しに左右されないんですよ。我々聖騎士は見た目も大事なので
「なるほど…、てっきり精神力で耐えているのかと思ってた、道理で普通にしていられる訳だね」
「お待たせ~」
アルフレドと話していたら馬車を船から降ろしてきたエリアスが合流した、乗ってからまとめて船を降りても良かったのだが、さすがに1週間も乗っていたら少しでも早く降りたくて我慢出来なかったのだ。
「休みたいかもしれないが、カリスト大司教の話によるとこの町は少々きな臭いらしいからサッサと出よう。アイル、昼は手持ちの食事で頼む」
「わかった」
馬車に乗り込む為にカリスト大司教を探したら、少し離れたところで簡易通信魔道具で連絡をしていた。
「ええ、既にアリケンテに到着したので冒険者ギルドのギルマスにも伝えておいて下さい。頼みましたよ」
『はいっ、お任せ下さい! それではこの先もお気をつけて! 女神の御加護があらん事を』
「ありがとうございます。貴方にも女神の御加護があらん事を…ふぅ」
通信が終わったのか、小さくため息を吐くと懐に通信魔道具をしまった。
「おいアイル、お前は人目につくまえに馬車に乗っとけよ」
「えぇ~!? やっと陸に着いたから御者をしようと思ったのにぃ」
「せめてこの町を出てからにしろ、妙な奴に絡まれたくねぇだろ?」
「はぁい」
ホセに首根っこを掴まれて馬車に押し込まれた。
その様子をカリスト大司教は微笑ましげににこにこと見つめている。
「ふふふ、皆さんは本気に家族の様に仲が良いですね、普段貴族のご家庭ばかり目にするものですから家族であっても仲睦まじい姿はなかなか見られないので心が温まる思いです」
「うんうん、だよねぇ。俺も『
馬車に乗り込みながら話すカリスト大司教にエンリケが同意した。
「あら、そんなに殺伐とした人生送って来たの?」
「基本的に1人だったからね。今までは1人の方が気楽だと思っていたけど、今はもう1人の時はどうやって過ごしてたんだろうって思っちゃうよ」
「良い出会いがあって良かったですね、心許せる人との出会いは人生の宝ですから。私も聖騎士の3人と出会ってからは以前よりも人生が楽しくなりましたし」
「私もカリスト大司教と出会って人生がより楽しくなりました!」
「私もです!」
エクトルとアルフレドはカリスト大司教の言葉に感動したらしく、うっすら瞳を潤ませて言った。
そして全員馬車に乗り込んだところでスパンと御者席の小窓が開いてオラシオが「もちろん私もですから!」と言って小窓がそっと閉められた。
「はいはい、友情確かめあったなら出発するよ~」
面白がってる声のエリアスの合図で馬車が動き出す。
目隠し兼日除けカーテンの隙間から町の様子を見ると、栄えてはいるけど少し荒んだ雰囲気だった。
発展途上特有の雑多な感じがする、確かにここに長居をしたらトラブルに巻き込まれそうなので早々に出発して正解だろう。
3時間程で昼食の為に街道沿いの休憩所に馬車を停めた。
港町が近い事もあり、多くの冒険者や商人らしき人達のグループがいくつも休憩している。
私達は他の人達から見えない様に、馬車の陰にストレージから出した食事セットを取り出して食事を始めた。
暫くすると馬車の反対側に休憩に来た一団が腰を落ち着けた様だ。
何と言うか…、会話からして5人くらいの冒険者らしいが、とても甘酸っぱい仲間以上恋人未満な会話が聞こえて来る。
「アベルはいつも綺麗な女の人に囲まれてるから私なんかが一緒に居ていいのかなぁって時々思っちゃうわ」
「何言ってんだよ、ラウラだってモテるじゃないか。幼馴染みのサバスを覚えてるか? アイツだってラウラの事可愛いって言ってたんだぞ」
「ウソォ、そんなの聞いた事ないよぉ」
明らかに満更でもない声だ、エリアス、自己顕示欲が満たされてるって感じの声だねぇ、じゃないよ、私もそう思うけど。
つい聞き耳を立てていたら他の一団が来た様だ、この会話はここまでかな、と思ったら。
「アベル!? それにラウラ!?」
「「サバス!?」」
おっと!? 噂をすれば影というが、本人のご登場!?
あ、エリアスが車体の下から声を拾いやすい様に身をかがめた。
「お前達立派に冒険者としてやってるんだな…、僕は腕っ節の方はからっきしだったけど、商人として何とかやってるよ。今はアリケンテに向かうところさ」
「俺達もアリケンテに向かうところさ、あそこなら護衛の依頼も多そうだからな」
「そうか…、2人は…その…付き合ってたりするのか? アベルは…ラウラの事可愛いって言ってたもんな…」
おおお!? サバスはまだ未練があるのか!?
思わず私も聞き取りやすい様に身を低くするとカリスト大司教が苦笑いをした。
「それを言ってたのはお前だろ!? それを聞いて俺がどんな気持ちになったと…っ」
「「えっ!?」」
同時に聞き返すサバスとラウラ。
「じゃあ…、僕は諦めなくていいの…?」
「バカっ、今まで俺の方が諦めてたんだよ!」
「え? は? どういう事!?」
盛り上がる男2人とまさかの展開に戸惑うラウラ。
「皆、済まない! 俺はここでパーティを抜けてサバスと共に行く!!」
「はぁぁ~~ッ!?」
「おー、わかった、脱退手続きはしといてやるから明日ギルドで確認しな。幸せになれよ」
「「はいっ」」
叫ぶラウラと大人の男性の声、どうらやらリーダーらしい。
いい返事をして遠ざかる足音、とんでもない修羅場に居合わせてしまった様だ。
「いやぁ、まさかの展開だったねぇ」
盗み聞きしながらも食事を平らげたエリアスが呟くと、馬車の向こうからこっちへ向かって走って来る足音が、ラウラだろう。
素朴な可愛さを持つであろうラウラはキッと私達を睨んだ。
「盗み聞きするなんて最低!」
正直盗み聞きした自覚があるので言い返せずにいたら、エリアスは微笑みを浮かべてラウラに近付いた。
「聞く気は無かったんだけど聞こえちゃったんだ、だけどこれで君に声を掛けるのに邪魔…おっと、さっきの彼に気を遣わなくていいんだよね?」
「え? あ…、そ、そうね…」
さっきは怒りで気付いていなかった様だが、どうやらエリアスが美形だという事に気付いたらしい。
頬を赤らめ、上目遣いでエリアスを見ている、さっき睨んで来た時とは別人の様だ。
「僕達は先に行くけど、また会ったら声を掛けて良いかい?」
「ええ…」
エリアスが気を逸らしている間に食事の片付けを済ませる私。
そっと皆も馬車に乗り込み、御者席にはリカルドとアルフレドが座った。
「もう出発みたいだから行くね」
コクリと頷くラウラ、いくらエリアスが美形だからって簡単過ぎやしないかい?
エリアスが馬車に乗り込むと、当然ながら馬車はアリケンテとは反対方向へ進む、後方から女性の怒鳴り声が聞こえたのは気のせいだろうか。
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