第525話 カリスト大司教の置き土産

「じゃあアリリオ、アイルお姉ちゃんはちょっと出かけてくるね。おりこうはんにあむあむ~」



「きゃはははっ」



「アイル、アリリオの手を食うんじゃねぇよ」



 ホセが呆れた目を向けてくるが、仕方ないのだ。

 今日はカリスト大司教達がウルスカを発つ日だからお弁当を届けに行くところだが、ビビアナに抱っこされたアリリオが見送ってくれたので行ってきますの挨拶をしてたら口に指を突っ込んできたんだもん。



 赤ちゃんってなぜか時々口に指を入れてくるんだよね。もう少しして色々食べられるようになったら、食べかけのおやつなんかもきっと突っ込んでくるようになるし。

 可愛くて嬉しいけど、あのドロドロに溶けた状態の物を食べるのはハードルが高い。



「噛んだりしないから安心してよ、それにアリリオだって喜んでるでしょ? ね~、アリリオ~」



「ふふっ、もうすぐ七時半過ぎてるからそろそろ出ないと、カリスト大司教達が乗る予定の乗り合い馬車が行っちゃうんじゃない? きっとアイルを待ってるわよ?」



 いつものようにアリリオにデレデレになっている私を見てビビアナが笑った。



「アイルの弁当受け取るまで絶対ぜってぇ出発したりしねぇだろ。出発の日にちズラしてでも弁当受け取るんじゃねぇ? ビビアナ、一応オレ達が帰って来るまで玄関のドア開けるんじゃねぇぞ」



「はいはい、わかってるわよ」



 数日しか滞在していないのに、前回の滞在時の事もあって見送りの場には結構な人が集まると思われる。

 という訳で、人混みで何かあったら大変だからアリリオとビビアナは留守番なのだ。



「じゃあビビアナ、行ってくるね!」



「いってらっしゃい」



 ビビアナとアリリオに見送られ、カリスト大司教達がいるであろう門前広場へと向かった。

 人の多い門前広場の馬車の乗り場に到着すると、カリスト大司教達はすぐに私達に気が付いた。



 カリスト大司教達もオーラというか、巡礼者姿でも只者じゃないと見てわかるけど、私達も結構目立つもんね。

 そんなカリスト大司教達の隣に見た事のない二人が立っていた、きっと話に出て来た二人だろう。



「おはようカリスト大司教! アルフレドとオラシオとエクトルもおはよう。お弁当持って来たよ」



 ちゃんと聖騎士の三人も名前を呼ぶ、前に『聖騎士の皆』とひとまとめにしたらちょっと悲しそうな顔をされてしまったのだ。



「おはようございますアイル様、わざわざ申し訳ありませんね」



「気にしないで、お弁当箱は木で出来てるから、空になったら焚火たきびに使ってもいいからね。ずっと持ち歩いても荷物になっちゃうし。それか宿屋にあげたら喜ばれるかも、お弁当を売り出してるところもあるみたいだし」



「わかりました、ありがとうございます」



 ストレージから三つのお弁当箱を取り出し、一番年少のエクトルに渡すと目を輝かせて受け取った。



「うわぁ、ずっとアイル様の料理を食べたかったんです! 楽しみだなぁ」



「そんなに喜んでもらえるなら作った甲斐もあるってものだよ。皆の好きな唐揚げも多めに入れてあるからね」



 唐揚げのひと言に、聖騎士だけでなくカリスト大司教まで目を輝かせた。

 鶏肉が苦手な人以外で唐揚げが嫌いって人に会った事がないけど、異世界でも同じなようだ。



 カリスト大司教はおじいちゃん達とも別れの挨拶をして、もしタリファスでリカルドに会ったらアリリオの初寝返りを見た自慢するなんて言って笑っている。

 そんな遣り取りをしていると、乗り合い馬車の御者がもうすぐ出発すると大きな声で周囲に呼びかけた。

 


「もう出発ですか……、名残り惜しいですがもう行かなくては。お元気で」



「うん、カリスト大司教達もまだ旅が続くんだから無理はしないでね。気を付けてぇっ!?」



 別れの挨拶をしていたら、背中に衝撃が加わった。

 振り向くとホセやおじいちゃんとは違うケモ耳、豹獣人のパメラが抱き着いている。



「アイル~、久しぶり! せっかく会えたのに、今からアタイこの乗り合い馬車の護衛でトレラーガまで行くんだよぅ」



「パメラ! 久しぶりだけど、今カリスト大司教に挨拶してる最中だから! 失礼だよ!?」



 いくら冒険者とはいえ、大司教に対してまずい態度なのは異世界人の私でもわかる。



「いえいえ、アイル様、今の私はただの巡礼者ですのでお気になさらず。その方も久しぶりにアイル様に会えて喜んでいるだけのようですし、しかもすぐに出発せねばならないとあっては抱き着きたくもなるでしょう」



「偉い人なのに話がわかるなんて、大物なんだねぇ」



 パメラは私に抱き着いたまま感心したように頷いた。

 確かに地位的にも人格的にも大物で間違いない。



「もぅ……パメラってば、ここまで寛容なのはカリスト大司教だからだよ。他の人だったら凄く怒られるから気を付けてね?」



「うん、わかった!」



 とてもいい返事である、しかし私に抱き着いたままだ。



「カリスト大司教、ごめんね」



「いえいえ、アイル様が多くの人に慕われるのは当然の事ですから。私達だけ独占する訳には参りませんよ。それでは馬車に乗りますのでこれで失礼しますね」



 私の頭に頬擦りマーキングしているパメラを微笑ましそうに見てそう言うと、カリスト大司教は馬車へと向かった。聖騎士の三人も胸に手を当て騎士の礼をしてその後をついて行く。



「パメラ、もう行くみたいだけど?」



「ん~……、もうちょっと……アタイもアイルのお弁当食べた」「その気持ちはわかるが行くぞ。悪いなアイル、その内ゆっくり飯でも一緒に食ってやってくれ」



「あぁん、アイルぅ~、またね~」



 『アウローラ』のリーダーが現れ、パメラの首根っこを掴んで引っ張って行った。



「あはは、まるでホセとアイルを見てるみたいだねぇ。それにしても早くエリアス帰って来ないかなぁ。ほら、一昨日カリスト大司教が教えてくれたププッ、う、噂を教えてあげたいからねぇ」



「「「ぐふぅっ」」」



 エンリケの言葉に私達は思わず噴き出す。

 カリスト大司教はウルスカ滞在中にもう一度家に来た。

 その時五国大陸で広まっている噂を教えてくれたんだけど、その事を早く教えてあげたい。



 エリアスも賢者と呼ばれているという事を。


◇◇◇


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本日2巻発売です!⸜(*ˊᗜˋ*)⸝

イラストを見てニヤニヤして欲しい〜( * ´ 艸`)

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