第307話 孤児院を出た後に

 シスタークララにひと言挨拶し、寄付金を渡して教会を出てから会話を聞かれない様に遮音魔法を使った。



「ねぇ、ホセは気付いたの?」



「え? 何かあったの? だからホセの様子がおかしかったのね」



 無言で歩くホセを追いかけながら聞くと、ビビアナがホセをジッと見た。



「………ああ、母親が違うせいか確信は無かったけどな」



「母親が違うって…まさか…、さっきのお嬢様が?」



 固い表情のホセの言葉にビビアナは状況を理解した様だ。



「うん、私が話したのは王妃様だったよ。どうも父親が全部悪いみたい、放っておいて欲しいのに護衛という建前で監視を付けられてるって言ってたし。……それに王妃様自身はホセのお母さんの事も受け入れてたみたいだったよ、ホセ達が刺客に襲われた事も後になって知ったって言ってたし」



「凄いわね、どうやってそんな事まで聞き出したの?」



「最初はどこかの貴族だと思ってたんだけど、愚痴を聞いていたら内容がベルトランから聞いた事と酷似こくじしてたの、それで鑑定したらビルデオの王妃だってわかって驚いたよ。匂いでホセの事バレると思って2人のところに急いだってわけ。さっきの騎士達は結構若かったからホセのお母さんの匂いも知らないだろうけど、お忍びで来てなかったら古参の騎士にバレてたかもね」



「……あの王女とオレなら気を付けていたらどこかで血が繋がってるかもしれないって思う程度しかわかんねぇよ。下っ端騎士なら王様の匂い嗅げる程近くに寄ったりしねぇだろうし、問題ねぇだろ。アイルのお陰で色もちがうからな、疑われもしねぇよ」



 そう言って私の頭をワシワシと撫でた。



「ふふ、午後にホセのおじいちゃんに会ってもバレなかったりして。顔の造りがベルトランにも似てるから気付くかなぁ? ホセの事内緒にしてくれそうなら孫が生きてるって事だけでも教えてあげたいな」



「そうね、せっかく身内が生きているんですもの、ちゃんと会っておくべきだとあたしも思うわ」



「……そうだな」



「さて、内緒話はここまで。『魔法解除マジックリリース』、お腹空いてきちゃったからどこか食堂へ行こうか」



「おいっ、テメェらさっきから呼んでるだろうが!」



 遮音魔法を解除した途端、後方から怒鳴り声が聞こえた。

 居るのは探索魔法で知ってたけどね、無視してたら居なくなるかと思ったのについてくるんだもん。

 だけど襲って来なかったところを見ると、無言で口パクみたいにしてた私達がかなり不気味だったのだろう、今も妙な物を見る目を向けてるし。



「何か用か?」



 ホセが面倒くさそうに、それはもう凄く面倒くさそうに聞いた。

 多分この虎獣人は馬車を降りた時に様子を伺ってた内の1人だと思うんだよね、裏庭の時も外でコソコソ覗いてたみたいだし。

 虎獣人はホセを睨み付けながら口を開いた。

 


「テメェら教会で何した? ガキどもの怪我が治ったって騒いでいただろ」



「関係ねぇだろ、おい、行こうぜ」



「待ってくれ! 頼む! 怪我人が居るんだ!!」



 虎獣人はガバッと土下座…ではなく、四つん這いになって頭を下げた。

 ビビアナがコソッと獣人にとって人型で四つん這いになるは最大限の低姿勢なんだとか、て事は土下座も同然というやつか。



「ホセ…」



 ホセの袖をクイクイと引っ張り、ホセの顔をジッと見る。



「ハァ…、仕方ねぇな。お前が良いんなら好きにしろ」



「うん! じゃあ怪我人の所へ案内して、ここから近いの?」



 私の言葉を聞いていかつつめの虎獣人がパァッと顔を上げて輝かせた。



「本当か!? ありがてぇ!! すぐそこだ、ついて来てくれ」



 虎獣人は嬉しそうに尻尾をくねらせながら私達の前を歩く、べ、別に虎に獣化してもらって撫でるのが目的とかじゃいんだからね!?

 そう思ってたらそっと肩にビビアナの手が乗った。



「うふふ、まさか彼に恩を身体て返して貰おうなんて…考えて無いわよね?」



「「な…っ」そ、そんな訳ないじゃない! 人助けだよ!?」



 私と虎獣人が同時に声をあげた、否定したのに私との間にホセを挟む様に移動したのは何故だ!



「は、はは、だよなぁ? こんなちっさい嬢ちゃんが…。そ、それにしても二度と歩けないって言われてたガキが歩いてるのを見た時は驚いたけどよ、あんたらが居て良かったぜ、じゃなきゃあの貴族かあんたらみたいに教会に寄付金持ってくる奴を襲うしかポーションを買う金を手に入れる方法が思い付かなかったからよ…」



「ポーションはそれなりの値段するものねぇ、だけど騎士の護衛がついてる貴族を襲うなんて自殺行為よ?」



 やはり馬車を降りた時に襲われるところだった様だ、都会用の服装のせいかもしれない。

 危うくこの国の王妃を襲うところだっただなんて、私ってばこの人の命の恩人なんじゃない?



「そりゃ…無謀むぼうだってのはわかってたさ、けど…娘を助けたくてよ…!」



「娘…?」



 思わずピクリと反応する、この虎獣人は20代に見える、てことは子供は幼い可能性があるじゃない。

 ダメよアイル、ホセが凄くこっちを見てるからニヤケた瞬間頭を掴まれるわ。



「ああ、ここだ、入ってくれ…ッダフネ!?」



 ドアを開けた瞬間虎獣人は家の中に飛び込んで行った、一体どうしたのだろう、私達もすぐに後を追いかけた。

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