第306話 王妃の苦悩
私は驚きの余り何も言えなかった、すると王妃はふぅ、と息を吐いて
「ふふ、こんな事今まで誰にも言えなくて…ずっと苦しかったの、聞いてくれてありがとう」
「私なら…、そんな毒親見放しちゃうけどな」
「毒…親…?」
初めて聞いた言葉なせいか、王妃は何度か瞬きを繰り返した。
「そう、毒にしかならない親の事をそう言います」
「ふふ、面白い言葉ね。確かに…父は毒かもしれないわ、わたくしにとっても…この国にとっても…」
「旦那様に相談は出来ないんですか? 父親を止めたいから力を貸して欲しい、とか」
「無理よ…、わたくしの事を憎んでいるはずですもの」
「今はそうかもしれません、だけどそれはあなたも父親と
周りの護衛達に聞こえない様に静かに、出来るだけ小さい声で言うと、王妃は力無く首を振った。
「出来る事なら…、以前の様に笑顔を見せて欲しい。せめて…、せめて子供達にだけでも…」
ホセのお父さんはかなり拗らせている様だ、最愛の人と産まれたばかりの息子が殺されたと思っているんだからそれも仕方ない事かもしれないけど。
「じゃあダメで元々と思って相談してみると良いですよ」
「そうね、やれるだけやってみるわ、子供達の為にも」
何か忘れている、何だろうこの
ホセ! ホセが居る所には王女が、ホセの異母妹が居るんだった!!
獣人なら匂いでわかっちゃうんだよね!?
「それじゃ王妃様、私はこれで失礼します」
ペコリと頭を下げて子供達の声が聞こえる裏庭の方へと競歩の様な早歩きで向かった。
なので王妃の「あら? わたくし…身分を言ってないはずなのに…」という呟きは耳に届かなかった。
裏庭に行くと、クッキーをチマチマ食べてる子もいれば、既に食べ終わったのかホセと手合わせというか、ジャレ合ってる子達やビビアナを取り囲んでいる女の子達がいた。
ひと通り見回すと初恋泥棒な王女はひと目でわかった、ビビアナが女の子達に囲まれている様に、男の子達に囲まれてる獅子獣人の女の子がいたからだ。
どうやらホセの事は異母兄とは気付いてなさそう…?
ホッとしつつビビアナに近付く、決して男の子は全員私くらい大きくなっていて、女の子は比較的小さい子がいるからとかじゃない。
「ビビアナ」
「あらアイル、お話は終わったの?」
「えっ、アイルって事はこの子が賢者様なの!? 本当に小さい!」
「賢者様はいつもホセに叱られてるの?」
「賢者様は食いしん坊なの? 男の子達と同じなのね」
声を掛けるとビビアナの言葉に反応して女の子達がわらわらと私の方へと向かって来た、ちょっと待って、小さいは言われてもわかるけど、言われてる内容がおかしい!
「ビビアナ!? 何を話したの!?」
「うふふ、アイルがあの子達の怪我を治したでしょ? そうしたらこの子達が賢者様がどんな人なのか教えて欲しいって言うから…つい、ね」
肩を竦めてペロッと可愛く舌を出すビビアナ、そんな事しても誤魔化されないん…だから…ね…って。
ズルい、さっきまでビビアナが膝に乗せてた3歳くらいの犬獣人の女の子を私に抱き付かせるなんて!!
「も、もう…しょうがないなぁ…。こっちは何も問題無い?」
流れる様な動作で女の子を抱き上げ、左右に揺れる度に腕に当たる尻尾の感触を楽しむ私。
ホセのモフっと感も良いけど、まだ子供の柔らかい毛並みの感触って良いよね~。
「ええ…、と言いたいところだけど、ホセの様子がおかしいのよね。ここに来てからというか、あのお嬢様に会ってから。まさか初恋泥棒だからってホセまで…なんて事は無いわよねぇ」
「理由はまぁ…、うん、わかるんだけどここでは言えないかな」
とりあえず早急にここを離れた方が良いと思う、王女が気付いて無くても王妃がここに来たら匂いで気付くかもしれないし。
「ふぅん? 後で教えてね」
「もちろん。ホセ、宿屋へ帰ろう、今夜の準備もしないといけないし」
「ああ、わかった」
ホセと言葉を交わしたら子供達が一斉に私とホセを見比べてニヤニヤし出した。
さっき怪我を治した羊獣人の子が近付いて来てニヤァ~と笑う。
「今夜も楽しむの? 賢者様」
「うん? 今夜も? むしろ今夜は、かな?」
そう言った途端にあちこちから口笛や
一体何がどうしたんだ、訳がわからずコテリと首を傾げる。
「なるほどね、他のヤツらが手を出さない様にしておいて今夜じっくりたっぷり楽しむんだね?」
意味がわからないけど、何だかエロい事言われてる雰囲気…?
でもまさかね、まだこの子8歳だってシスタークララが言ってたし。
首を傾げていたらホセが大股で近付いて来て羊獣人の少年にズビシッと手刀を落とした、あれ結構痛いんだよね。
「痛ぁ!」
「フン、馬鹿な事言ってるからだ」
「そんなこれ見よがしに歯型付けておいて今更だろ!」
頭を押さえたまま羊獣人の少年がホセに文句を言うと、ホセは再び手刀の構えをとり、少年は走ってホセから離れた、賢明な判断だ。
「おい、もう行こうぜ」
「あ、うん。ねぇ、歯型って「じゃあ行くぞ」
歯型に何か意味があるのか聞こうとしたらホセはサッサと歩き出してしまった。
そして追いかけようと歩きだすと、ビビアナに肩を掴まれる。
「アイル、その子は置いていきなさい」
「あ」
ホセの姿が見えなくなりそうだったせいで頬擦りも出来ずに女の子を下ろし、後ろ髪を引かれながらビビアナとホセを追いかけた。
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