第79話 夜会の準備

「あ…っ、そんなところまでぇ…、ひゃぅッ、も、もう終わりに「ダメです、全身しっかり磨かせて頂きますので!」



 私は今、夜会に出る準備としてお風呂にあった謎の台の上で全身くまなく磨かれてます、謎の台はどうやらエステ台だった様です。

 そう…、全身…っ、本当に全身なの!!

 この身体になって誰にも触られた事のないところまで謎のジェルで首から下を全身脱毛され、それが終わったら全身マッサージをメイドさん3人掛かりで!



 終わった時、心情的にはボクシングの名作漫画の燃え尽きた主人公状態。

 お世話する女性が今まで居なかったせいで身に付けた技術を使える相手が現れたと凄く張り切ってくれた様で、よく祖母が生前「つきたてお餅」と言っていたお肌がぷるんぷるんにバージョンアップしている。



 貴族女性はパーティーの度にこんな苦行に耐えてるというの!?

 いや、確かにエステは凄く気持ちいいけど…全裸で受けるのはシャイな日本人としてはとても恥ずかしい。



 全身磨いた後はバスローブの様なものを着せられ自室に直行、お風呂の前に出す様に言われたエドガルドからのプレゼント一式が綺麗に整えて準備されていた。

 どうやらドレスの形がオフショルダーで専用の下着まで箱に入っていた様だ。



 ブラとソフトなコルセットが一体になった物で、胸も寄せて上げるタイプ。

 光の加減で紫にも見える紺碧の身体のラインがわかるスッキリしたデザイン、重なっているからパッと見てわからないが、よく見ると下半身の布が前と後ろに分かれているので走ったりしたらスリットが現れて脚が見えてしまう。



 普段は下ろしたままの背中までの髪も綺麗に結い上げてもらった、ガブリエルが今朝言っていた耳のアクセサリーは金で出来たイヤーカフで、耳を縁取る様な植物モチーフの物だった。

 しかも葉っぱのデザインが耳の先端に来るのでパッと見がエルフの耳の様に尖って見える。



 所々小さな真珠をあしらっているので肘の上までの絹の手袋といい感じにマッチしていた。

 ネックレスは敢えてエスポナの露店でガブリエルが買ってくれたもの、ドレスやイヤーカフに比べたらうんと安物だけど御令嬢対策の匂わせの為にって事で。

 メイクまでして貰って鏡を見たら思わずお約束の言葉が飛び出してしまった。



「これが私…!?」



 ヘタしたら27歳だった私よりも色気がある、凄い、メイドさん達は私より凄腕の魔法使いだと思う。

 完成した私を満足そうに頷きながら眺めるメイドさん達、色気を感じさせながらもほんのり幼さの名残りが見える絶妙なバランスは見事だ。

 私がメイクしたら子供が無理して大人ぶってる様にしか見えなかっただろう。



 メイドさん達に最上級のお礼を言ってガブリエルが待っている玄関ホールに向かうと全員が揃っていた。

 そして私を見ると皆がポカンと階段の上にいる私を見上げた、わかる、わかるよ、我ながら凄く変身したと思うもん。



「やだ、凄く素敵じゃない! 見違えたわ!」



 階段を降りて行くと真っ先に復活したのはビビアナ、その声に他の皆も再起動した。



「女は化けるってのは知ってたけどよ、スゲェな! これならちゃんと成人して見えるぜ」



「うんうん、この状態で知り合ってたら口説いちゃったかもしれないね」



「いつものアイルじゃないから変な感じがするな…、だが綺麗だぞ」




「うん、エスコート出来る兄さんが羨ましいくらいだよ」



「えへへ、ありがとう皆…」



「こらこら、その麗しいレディをエスコートするのは私だよ? アイル、お手をどうぞ」



 皆が次々に褒めてくれたので照れてしまう、変身させてくれたメイドさん達は賛辞を聞いてドヤ顔してたけど。

 差し出された手にそっと手を乗せるとタイミングを合わせて執事の1人がドアを開け、家令のおじ様が毛皮のコートをそっと掛けてくれた。



「ありがとう、いってきます」



 皆に見送られながら何だかお姫様にでもなった気分で馬車に乗り込み、ガブリエルと2人きりになったので気になった事を聞いてみる。



「ねぇ、このコートとかイヤーカフってどうしたの?」



「ああ、それは里を出る時に無理矢理持たされた物の中にあったんだ。エルフの里で作られたからそのイヤーカフもエルフの耳の形になってるだろう? きっと後から私の嫁候補でも送りつけるつもりだったんだろうね、でもラファエルを呼んだから皆来たがらなかったんだと思う、そういう意味ではラファエルを利用しちゃってるね」



 だからエルフの耳の形だったのか、納得。

 それにコートもだけど態々私の為に買ったとかじゃなくて良かった、この夜会の為に買ったとかだったら申し訳なさ過ぎるもん。



「やっぱり新婚家庭に小舅がいるのが嫌なのはどこの世界でも同じなんだねぇ」



 結婚した友人が旦那さんの両親との同居はまだいいけど、旦那さんのお姉さんがまだ独身で実家暮らしなのはキツイと時々愚痴っていたのを思い出した。

 しかし私の言葉にガブリエルは微妙な笑みを見せる。



「う…ん、それもあるのかなぁ。ラファエルは魔導期以降に産まれて里に居づらかったって前に言ったでしょ? 魔法が使えないからってちょっとした差別があるんだ、だから私と釣り合う者達からしたらラファエルは差別対象だから…ね」



「そっか…、逆に考えれば心の狭い人を篩い落とす試金石代わりって事ね! もし里からお嫁さん候補が来たらラファエルの事も受け入れてくれる器のある人って事だもの」



「ははっ、そういう考え方もあるね。あ、ほらもうすぐ到着するよ、心の準備はいい?」



「……ふぅ、…うん!」



 王宮の敷地内にある5階建ての大きな塔の前に馬車が到着し、私は1度深呼吸してから差し出されたガブリエルの手をとった。

 ちなみにここまでの間、ビビアナで耐性があるせいか私の盛られた胸に目を向ける人はいませんでした。

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