第225話 婚約
「ねぇアイル、私も一緒に馬車に乗りたいな~、その方がうっかり名前を呼んでも大丈夫な訳だしさ。君達が楽しんでる間にちゃんと謁見と報告を済ませて頑張ったんだよ?」
エドが乗って来た馬はエスポナの貸馬屋に一旦返したので、朝食を済ませてエスポナを出発した今、セシリオとガブリエルの馬が馬車に並走している。
ここからは騎士団の目があるので王都までセシリオが馬に乗らなければならない、という訳でビビアナが御者をしてくれている。
まだ話す事があるんだろうかと疑問に思う程一緒に居る2人だが、どうやらずっと会話をしている訳では無さそうだった。
黙って移動し、時々目が合って微笑み合うというとても恋人っぽい行動をしているのを目撃した。
ビビアナの姿は角度的に見えないが、セシリオの蕩ける様な笑顔を見たらすぐにわかる。
そしてそんな2人と一緒に移動するのは精神的に辛いだろう、ぼっちだからとかでは無くても恋人同士の側に1人居る時のあの居た堪れなさは独特だ。
側面のドアを少し開けて顔を覗かせるとわかりやすく笑顔になるガブリエル。
「じゃあ次の休憩で馬車に乗れば良いよ」
「わかった!」
満面の笑みで答えるガブリエルを確認してドアを閉めた。
「アイル、悪い顔してるよ?」
おっといけない、エリアスに指摘されて頬をペチペチと叩いてニヤリと笑っていた表情を元に戻す。
「お前今度は何を企んでんだよ?」
ホセが半眼になってジトリと私を見る。
「や、やだなぁ、ただ次の休憩から私が馬に乗ろうと思ってるだけだよぅ」
「はは、アイルは意地悪だね、そんなところも魅力的だが」
「あはは…」
恐ろしいまでのエドの全肯定っぷりにちょっと引く、まかり間違ってエドと恋人にでもなろうものなら甘やかされてダメ人間まっしぐらになるんだろうなぁ。
昨日あれから結局隠蔽魔法で姿を隠して馬車の乗り降りをした。
ガブリエルが騒がなかったら到着後に買い物だって出来たはずなのに、賢者帰還という事で騒がしくなって出掛けられなかった恨みはまだ消えてないのだ。
結果、その日の昼休憩でガブリエルが泣きを入れて来た。
昼食に私の手料理ではなく騎士団の施設で提供されてた料理を出したのはやり過ぎだっただろうか。
久しぶりに私の料理が食べられると思ったところに出したので、半泣き&キレ気味に抗議されてしまった。
そんなこんなでモーセごっこしたくなる左右に切り立った崖の街道も何事も無く通過し、予定通り無事王都に到着した。
そうなるとややこしくなるのがこの2人。
ここはガブリエルの屋敷の門前、当然護衛のセシリオの役目はここまでだ。
馬を降りたセシリオはビビアナとの別れを惜しむ様に手を握り合っていたかと思うといきなり跪いた。
「ビビアナ、今日まで共に過ごしてきてあなたと離れるのは耐えられない! これからウルスカに異動願いを出すつもりだ、冒険者を続けたいなら続けてくれていい、俺と結婚して下さい!!」
よく見たら緊張のせいかセシリオの手が震えている、『
そして当のビビアナは驚きで固まったまま動かない。
おや? ビビアナの様子が…?
じわり、と頬に朱が刺したかと思うと全身茹で蛸と言って良い程色が変わった。
「け、結婚…って、本気なの…?」
「もちろん! ビビアナの様に素敵な人に俺の様な無骨な人間は分不相応かもしれない、いつか見限られるかもしれないが、それまではあなたを繋ぎ止められる様に努力する! だから…ビビアナ嬢、俺の妻になって下さい」
トドメとばかりにビビアナの指先に
さっきからビビアナの膝が震えているのに気付いていたが、いきなりぺシャリと崩れる様に座り込む。
「ビビアナ!?」
慌てるセシリオを涙で潤んだ瞳で見上げ、コクリと頷くビビアナ。
すると今度はセシリオが固まってしまった。
「え…? あの、それは…了承したと…?」
呆然としつつも何とか確認をとるセシリオ。
「ええ、あなたの…妻にして…」
恥ずかしそうに、しかしとても幸せそうに微笑みながら答えるビビアナ、こんなビビアナ初めて見た。
ほんわかとした気持ちで見ていたら、いきなりセシリオがビビアナを抱き上げクルクル回り出した。
「信じられない! ありがとうビビアナ! 俺は世界一の幸せ者だ!」
「あははっ、やだ、止まってセシリオったら」
キャッキャウフフなバカップルに呆れた様な眼差しを送りつつホセが呟く。
「素敵な人だってよ、知らねぇって幸せだな…」
「シッ、本人達が幸せなら良いじゃないか」
本人達に聞こえない様にヒソヒソと話すホセとエリアス、ビビアナは素敵な人だっていうのは間違い無いと思うよ、過去の男性遍歴はともかく。
きっと異動願いは私とパルテナを繋ぐ為にもアッサリ許可は降りると思う、ビビアナの幸せの為になるのなら悪い事じゃない、何なら謁見の時に口添えするのもアリかな。
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