第244話 ただいまウルスカ

「行きに比べると嘘みたいにお尻が楽だよね、この馬車貰って良かったぁ。だけどやっとこの馬車移動も終わりだねぇ、長かった~!」



 大氾濫スタンピードの為にカタヘルナに向かってる時はギルドの馬車だったからスライムシート無しでは耐えられなかったもんね。

 ここまで来たらウルスカはもうすぐという見慣れた景色にホッとする。



「そうね、あと1時間もすれば懐かしの我が家よ」



 今の車内はリカルドとホセとビビアナなので、私はベッタリとビビアナに甘えている。

 やはり色々あって無意識に気を張っていたせいか、地元に戻って来たと思った途端気が抜けたせいか昨日から凄く甘えたくなったのだ。

 途中セシリオが何か言いたそうに私を見ていたが気付かないフリをした、セシリオと合流する前はビビアナにくっつくのは私の特権だったんだから文句は言わせない。



 そう思っていたらエリアスに下に兄弟が産まれた子供みたいと笑われてしまった、赤ちゃん返りと同じレベルだと思われるのはちょっと恥ずかしいけど、ウルスカに帰ったらビビアナは結婚してセシリオのビビアナになっちゃうから今だけは良いのだ。



「お前昨日からずっとビビアナにくっついてるじゃねぇか、いい加減にしろよ。またエリアスに笑われても知らねぇぞ。……ったく、結婚前でこんな状態だったら子供が産まれたらどうなっちまうやら」



 ホセが私に呆れた目を向けながら肩を竦めた。



「赤ちゃんが産まれたら凄く可愛がるに決まってるじゃない、ちゃんとセシリオとデート出来る様に子守だってするもん」



 結婚の早かった友人の子供の子守り程度なら経験はあるのだ。

 数時間程度であれば問題は無い、いざとなったら孤児院で子供慣れしているホセを巻き込む気満々ではあるが。



「うふふ、ありがとうアイル、その時はお願いしちゃおうかしら」



「うん、任せて!」



「何だあれは」



 私が意気込んでいるとリカルドが側面の小窓から外を見てつ呟いた。



「どうしたの?」



「ああ…、門の前にウルスカじゃ見た事無い行列が出来てるんだ」



 そういえば普段よりすれ違ったり追い越したりする人数が多い気がしたけど、何かあったんだろうか。

 御者席の小窓を開けてエリアスに声を掛ける。



「エリアス、何か騒ぎでも起こってる?」



「いいや、ただ人が多いだけみたいだよ。まぁ…、理由は想像つくけどね」



 そう言うと私の顔を見てニヤリと笑った。

 どれだけ長い行列が出来ていても、王命を受けているガブリエルとセシリオが居れば優先的に通れるので私達には関係無いけどね!



 門を通る時に後方の窓から門番が覗き込んで中を確認した、その門番は初めてウルスカに来た時のルシオだった。

 私の顔を見て「あっ」という顔をしたので、エリアスが御者をしてるんだから私達が乗ってて当たり前なのにと首を傾げた。



「このまま家まで一旦帰ってから僕は貸馬屋に馬車を預けてくるよ」



 門を潜り抜け、門前広場でエリアスが御者席から車内の私達に言った。



「え? 貸馬屋はそこなんだから預けてから歩いて帰ればいいじゃない」



 いつもそうしてるのに何でそんな事を言い出したのかわからず首を傾げる。



「アイルが思ってるより賢者の威光は凄いからな、ここで降りたらきっと大騒ぎになるぞ」



 もしかして門の行列も賢者見たさに来た人達っていう可能性があるの!?

 だけどそんな事言ってたら毎回馬車移動しなきゃいけなくなるから面倒だよね。



「大丈夫、きっと騒ぐのは最初だけだよ。今まで普通に見てきた冒険者の1人なんだから町の人達はすぐに気にしなくなるって! ギルドにもここから行った方が近いし、先に貸馬屋に預けて行こうよ」



 実際芸能人とか駅で見かけて興奮してても、何度か遭遇すると気にしなくなるもんね。

 ましてやちょっと前まで普通に話してた相手なら尚更だよ。

 家に庭は無いし、貸馬屋は預かり料は掛かるけどちゃんとお世話してくれるから安心だしね。



 そんな訳で貸馬屋でいつものおじさんに馬を預ける事にした、馬の預かりはしてくれるけど当然馬車の本体は預かってくれないのでストレージに収納したら、おじさんは顎が外れんばかりに口を開けて呆然としてしまったけど、「本当に賢者様なんだねぇ…」と納得してくれた様だ。



 貸馬屋を出るとウルスカの住人達は当然『希望エスペランサ』を知っているので仲間達に埋もれて私が見えない状態でも視線が集中した。

 隠したら余計見たくなるから隠さない方が良いと思うんだけど、パッと見ただけで余所者の数が多いからという事で周りから殆ど見えない状態でギルドへ向かう。



 セシリオは騎士団の居る衛兵の詰所に顔を出さないといけないので、手書きの地図を渡して後で家で合流する事にして門前広場で一旦お別れ。

 ガブリエルはディエゴに報告する事があるからとついて来た。



「ふふふ~、ギルドで報告したらバレリオに会わないとね~、研究進んだかな~? その後は~、お待ちかねの祝杯だよね~? ふんふ~ん」



 鼻歌を歌いながらほぼスキップで歩みを進める私、まだ夕食には早い時間だけど、報告してたらちょうど良い時間になるはず。

 エドの屋敷で今日の夕食分を作ってちゃんとキープしてあるもんね。

 コレでバレリオがスープを完成させてたらシメに豚骨ラーメン食べる事も可能…!



「あはは、すんなりそう行くと良いねぇ」



「ちょっとエリアス、不吉な事言わないでよ。家に到着したら祝杯って約束したでしょ!」



 しかし、エリアスの言う事が正しいとばかりに、ギルドに到着した私達を待っていたのはディエゴだけでは無かった。

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