第396話 家の料理係

 森の調査依頼を受注した私達は、受注した当日は森で食べる料理を作り、孤児院には確認しながら進むから森のごく浅い所なら入っても大丈夫だとホセに伝えて貰うと、家に帰って来た時ホセは3人の女の子を連れて来た。



「コイツらもっと料理を覚えてぇんだとよ、オレ達が森に入ってる間ビビアナの飯も面倒見るって言ってるから丁度良いだろ?」



「そりゃまぁ助かるけど…」



「お願いアイル! 料理をもっと教えて!」



「アイルのレシピが作れたら大抵の食堂で雇って貰えるもの」



「お願いアイル、あたしはともかくエリシアお姉ちゃんとべリンダお姉ちゃんはもう14歳だから時間が無いの」



 このエリシアとべリンダを気遣っている子はエリシアの妹のルシアだ、本人はまだ11歳だから暫く猶予はあるが、エリシアとべリンダは次の誕生日が来たら孤児院を出なくてはいけない。



「なるほど、それじゃあ三人はここで料理を覚えながらビビアナ達も助かるって事か。三人は冒険者登録してないよね? 私達からの個人的な依頼という形で正式に雇うわ、依頼料は食堂の見習いと同じくらい、メインは火を通せば食べられる物を用意するから明日から私達が帰って来るまではその味を覚える為にもビビアナと一緒に食事してね。サラダやスープは大体作れると思うけど、何が出来るのかは今から確認するからね」



 3人は暫くぽかんと口を開けていたが、数秒すると私が言った事を理解してピョンピョン飛び跳ねながら喜んだ。

 これなら昼間もビビアナとおじいちゃんが寂しい思いする事も無いよね。



「ありがとうアイル!」



「これで娼館に行かなくて済むわ!」



 べリンダの言葉にギョッとした、しかし3人は当然の事の様に話している。

 そんな私の様子に気付いたホセは私の頭をワシワシと撫でた、娼館に行くか行かないかが掛かっていると最初から教えてくれたら二つ返事で頷いたのに、ホセは断った場合私の負担にならない様に黙っていたのだろう。



「ありがとな、孤児院から出て娼婦になるなんざ珍しくもねぇけどよ、違う選択肢があるなら選ばせてやりたかったんだ。あいつら冒険者には向いてねぇし」



「私にとっても孤児院の子達はもう身内みたいなものだからね、協力は惜しまないよ」



「はは、じゃあ後は任せたぜ。3人も居りゃオレは必要ねぇだろ?」



 ホセはそう言い残してそそくさと台所から姿を消した。



「さて、じゃあエプロン着けたら基本の野菜スープから作ろうか、3人共料理当番してたなら野菜は切れるよね?」



 大きかったけどホセとビビアナ用のエプロンをエリシアとべリンダに、私の予備をルシアに貸すと、ルシアにはピッタリだったので2人の様にたくし上げて紐で固定する必要は無かった。



 いいんだ、まだ3人共私の使っている台所用踏み台使う仲間だから悔しくなんかないもんね。

 3人は料理当番をしているだけあって、ビビアナとは比べものにならないくらい手際が良かった。



 ただ、こちらの家庭料理だと当たり前に使われている手法…、鍋の上でナイフを使って野菜を切りながら直接鍋の中にボチャボチャと落としていくスタイルだったのだ。



 そんな訳で賢者サブローのお陰で僅かに存在していた和包丁の扱いを教えた、ちなみに私が使っている包丁は手入れが楽な様に魔銀ミスリル製だ、職人には魔銀で調理道具作って欲しいなんて言う奴は初めてだって呆れられたけど。



 魔銀は本来武器や防具の材料であって、お値段も結構する。

 私の手に収まるサイズの棒手裏剣10本で銀貨3枚(約3万円)なので推して知るべし。



 そんな訳で基礎から教えて行く事にした、今日は見るだけで包丁の持ち方から野菜の切り方を覚えてもらう。

 1日3回ここで練習兼ねて食事を作ってもらい、帰りは夏だから明るい時間帯とはいえ心配なのでおじいちゃんに送ってもらう事になった。



「こっちの鍋は森に持って行くけど、そっちは皆でお昼に食べようか。面白いくらい料理が消えて行くから作り甲斐があるよ~」



「それは孤児院でも同じよ、おかずが余るなんて事は無いもの」



 エリシアが肩を竦めて言うと、ルシアとベリンダは笑いながら頷いた。

 確かに食べ盛りの子供達ばかりだもんね、毎日料理する量はこの家の比じゃないだろう。



「そっかぁ、それなら如何いかに手を抜いて美味しく大量に作るかっていうのも教えてあげないとね! 特にルシアはあと3年作らなきゃいけないし」



「助かる~! さすが賢者だね!! 普段はそう見えないけど!」



 ルシアが手を叩いて喜んでいるが、発言の内容にジトリとした目を向ける。



「ルシア~? せっかく量を抑えても食べ応えがあって満腹なりやすいレシピも教えてあげようと思ったんだけどなぁ、まだ商業ギルドに登録もしてないやつ」



「あっ、ウソウソ! 普段から知性が滲み出てるよ! お願~い、教えて~!」



 ルシアは手の平を返した発言をしながら私の腕に縋り付くと、猫が甘える時の様に頬を腕に擦りつけて懇願した。



「出た、ルシアの必殺おねだり攻撃」



 姉のエリシアが呆れた様に呟いた、うんと小さい子がやったら可愛いかもしれないが、ある程度大きい子がやっても不気味でしかない。



「わかった! わかったからやめなさい!」



「えへへ、ありがとうアイル!」



 本人もそれをわかってやっているのだろう、私が承諾するとすぐに離れた。

 この後、スイーツのレシピも教えて欲しいとルシアのおねだり攻撃が再び炸裂した事を追記しておく。

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