第336話 墓参り

「ほぉ、ここがウルスカか。ここにベアトリスの墓があるんだな…、こんな…遠い所まで…」



 おじいちゃんがウルスカの外壁を見て噛み締める様に呟いた。

 泣きそうに見えたその顔に、口を開くと泣いてしまいそうで何も言えなかった。

 私の部屋で泣いていた父親を思い出してしまったから。



「馬を預けたらすぐに向かうか? ついでに土産渡して来りゃいいだろ」



 私も悲しい顔をしていたのか、ホセがワシワシと頭を撫でてきた。

 ホセってば乙女心はわからないクセに、こういう時は鋭いんだよね。



『おお! やっと帰って来たか! 最近バレリオが通る度に確認して来て鬱陶うっとおしかったんだよ』



 門番のルシオの声が聞こえて来た、そうか、バレリオが私達を待っていたという事はスープの改良が上手くいったのだろう、これは期待ができる。



「うふふふふ」



「…………」



 ホセが何か言いたそうな目を向けて来たが気にしたら負けだ。

 その時御者席の小窓が開いた、おじいちゃんの身分証を見せて欲しいとの事。

 おじいちゃんがウルスカに入るのは初めてだもんね、身分に関しては口止めして、見た目に関して突っ込まれたらホセの遠い親戚だからという事で通すらしい。



 こういう事があるから門番は口の固さを求められるんだとか、お金を積まれたらペロッと話す人が殆どみたいだけど。

 ルシオなら私達の不利になる様な事は言わないだろう。



 馬車から降りて馬達を外して馬車本体をストレージに入れると、私の事を知らないらしい人達は一様にギョッとしていた。

 どこかの町や村へ移動中の人か、もしかしたら賢者を見に来た人かもしれない、もしそうなら賢者の能力を見れたと喜んでくれるだろう。



「それじゃあ俺達は馬を預けたらギルドに行ってくる、そっちは今から孤児院だろう?」



 リカルドはそう言ってエリアスとエンリケを連れて馬を預けに行った。

 私達は広場の花売りの少女から花を買って孤児院へと向かい、先に墓地に立ち寄った。



「はい、おじいちゃんお花」



「ありがとうアイル。ここが…ベアトリスの墓…なんだな……。ベアトリス……ッ」



 耳も尻尾も今まで見た事が無いくらい元気が無く、おじいちゃんは墓前に跪いて俯き、肩を震わせている。

 私はビビアナの袖を引き、視線でホセとおじいちゃんだけにしてあげようと合図した。



 そっとその場を離れて私達は先に教会の礼拝堂に入り、マザーを探す。

 カリスト大司教から渡された通信魔導具を渡す為だ。

 そしてふと、今回の旅で起こった事に対し、女神様に感謝を捧げたくなったので跪いて祈った、会った時は話を聞いてもらえないのでついでに魔法使える人が産まれてませんよという報告も。



「伝わったかなぁ…、これで戻って来てくれたりは…しないよね、きっと」



「女神様には何を伝えたの?」



 私の呟きを聞いてビビアナがクスクスと笑った。



「感謝と…あなたがこっちに居ないから魔法を使える人が産まれなくなってますよって。また魔導期みたいに魔法が使える人が産まれたら私の事は誰も珍しく思わないでしょ? 王族や貴族に目を付けられたりもしないだろうし」



「ふふっ、あたしも魔法が使える様になったりしないかしら。アイル見てて凄く便利そうだと思うもの」



「うん、特に洗浄魔法使えなくなったら私泣いちゃうかも、あははは」



「あら、誰か居ると思ったらあなた達だったのね、お帰りなさい」



「「ただいまマザー」」



 話し声に気付いて来たらしいマザーは、いつもの優しい微笑みを向けてくれた。



「今回は長旅だったわね、無事に戻って来て安心したわ。子供達にも顔を見せてやってちょうだい、ずっと会えなくて寂しがっていたから」



「マザー、その前にカリスト大司教からの預かり物があるの、簡易通信魔導具をこの教会に置く様にって。はいコレ」



「まぁ、魔導具なんて高価な物を…」



「教会本部に登録された通信魔導具としか連絡は出来ないらしいから盗まれる事は無いだろうって言ってたよ。渡したらその場で1度連絡する様に言われてるんだ、ここの魔石のところをこうして…っと」



『アイル様! もしやウルスカに到着されましたか!?』



 相変わらず秒で反応してくれるカリスト大司教。



「うん、今ウルスカの教会のマザーに渡したところなの」



「カリスト大司教様、この度は通信魔導具をありがとうございます」



『いやいや、マザーとは今後も連絡を取りたいという私の我儘の為なのでお気になさらず。月に1度くらいの頻度で連絡を差し上げても構いませんかな?』



 マザーがお礼を言うと、機嫌の良さそうな声でカリスト大司教が言った。

 私の近況とか聞き出す為だと思うのは思い過ごしだろうか、それでもいざという時にマザーが相談する相手が居ると居ないとでは安心感が違う。



「もちろんです、光栄ですわ」



『もう暫くお話しをしたいところなのですが、先日からそろそろアイル様がウルスカに到着するだろうからと見張りが付いておりまして…、はぁ。さっきから書類を持って睨んで来るんですよ、名残り惜しいのですがまた何かありましたらいつでもご連絡お待ちしております』



「カリスト大司教、お世話になりました。カリスト大司教がマザーの相談相手になってくれるのならこれほど心強い事はないもの、これからもよろしく」



「カリスト大司教様、私からもお礼を申し上げます」



『アイル様に頼られるとは光栄ですな、しかし私は当然の事をしているだけですので。あ、そうそう『いつまで引き伸ばすのですか! 先方にもご迷惑になりますからここまでになさいませ! アイル様、ウルスカのマザー殿、不調法で申し訳ありません、これにて失礼致します。プツッ』



「うふふ、カリスト大司教は相変わらずアイルが大好きねぇ」



 ビビアナの言葉を否定出来ず、私は苦笑いを浮かべるしか無かった。

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