第321話 幸せなひと時

「うふふふふ」



 右を向いてももふもふ、左を向いてももふもふ…、最高か!

 そして嬉しい誤算というか、予想外だったのがおじいちゃんの毛並み。

 おじいちゃんの母親が寒い地方の出身だったらしくホセより長い毛並み、しかも冬に突入している今は冬毛なのだ。



「幸せ~、でもちょっと毛並みが荒れてる感じがするねぇ、お肉はいっぱい食べてるだろうからビタミン不足かな? あとお魚も食べた方がアミノ酸いっぱい摂れるからお魚も食べようね、あっ、ちょうど明日は秋刀魚にする予定だった」



 おじいちゃんに抱きついて毛に埋もれる様にワサワサとマッサージしつつ撫で回す、もふもふ具合はおじいちゃんの方がいいけど、毛艶はホセの方が良い。

 まだ若々しいから年齢のせいじゃ無いと思うんだよね、ウルスカに帰る直前にもう1度3人で寝て手触りが更に良くなったおじいちゃんとホセに埋もれるんだ…。



 おじいちゃんを撫で回していたら体勢を変えて仰向けになった、ふふふ、私のフィンガーテクに籠絡されたらしい。

 馬車にずっと乗ってたからマッサージが気持ち良かったのだろう、すっかり身体の力が抜けている。



 視線を感じて振り返るとホセのジト目を向けていた、獣化してるのに表情で何を言いたいかわかるって凄いかも。

 たぶん「お前いい加減にしろよ」ってところかな?



「ホセもマッサージしてあげるからそんな目で見ないでよ~、お客さん凝ってますねぇ、おじいちゃんもだけど背中に負担が掛かってたみたい、どう? 気持ち良い?」



 伏せの状態のホセの背中にまたがり背骨に沿って首から腰へとモフりつつマッサージしていくと、やはり気持ち良いのか段々目を閉じて動かなくなった。

 おじいちゃんも目がトロンとしているのでもう眠りそうだし。



 ホセが寝た様なのでおじいちゃんを寝かしつける為にも肉球マッサージのサービス。

 規則正しい呼吸音が聞こえ始めたので眠ったのだろう、ホセも眠っているのを確認しておじいちゃんの腹毛に顔を埋めて顔をグリグリと押し付け、ムギュウと抱きつく。



 最近ホセはコレをさせてくれなくなっていたので、おじいちゃんのお陰で私の心は満たされた。

 朝晩は毛皮があっても冷えると思うので掛け布団をそれぞれに掛けてから2人の間に入り込み、布団に手を突っ込んで左右のもふもふを撫でながら眠りについた。

 ああ、良い夢見れそう…。





[1時間後]



 仰向けのまま寝ていたブラウリオの身体がビクッとなって目を覚ました、所謂いわゆるジャーキングというやつだ。

 アイルを押し潰さない様に寝返りを打とうとしたが、ピッタリと身体を寄せられていたのでベッドから落ちるかアイルを潰すかの二択になりそうだった為、人型に一旦戻った。



「ふぅ、気持ち良すぎていつの間にか寝ていた様だな」



 獣化したままだと出来ない仰向けから上半身だけを起こす事も人型であれば簡単に出来るのでアイルを起こす事も無い。

 そっとアイルをベッドの中央へ移動させていると、アイルでは無くホセが目を覚ました。



 普段は無いブラウリオの気配が動いた為、冒険者のさがで目が覚めたのだ。

 夜目がくホセには、おじいちゃん呼ばわりして良いのかと思う程に鍛えられた腹筋と厚い胸板がしっかり見えた。

 騎士を引退してからも鍛錬をしているお陰で現役の騎士にも負けない身体つきをしている。



 ブラウリオがしっかり目を覚ましているのがわかったホセは、自分も人型に戻った。

 誰にも邪魔されずに少し話したいと思ったからだ。



「じいさん、アイルに撫で回されるのが嫌ならハッキリ言って良いからな」



 アイルを起こさない為にささやく様な小さな声だが、耳の良い2人には問題ない。



「ははは、マッサージとやらは気持ち良かったし、若い娘に触られて嫌がりはせんよ、まぁ…ちと若過ぎではあるがな」



「………アイルは成人してるぞ」



「は!?」



 ホセの言葉に思わず大きな声を出してしまったブラウリオは、自分の口を手で押さえた。



「クククッ、俺も1年前に初めて会った時は9歳くらいだと思ったからな。その時で15歳って聞いて仲間もかなり驚いてたぜ」



「その割にはアイルを気に入っている様だが? 他のパーティメンバーに比べてしっかりマーキングしている様だしな」



 ニヤリ、と笑うブラウリオ、既にホセとの間に遠慮は見えない。

 アイルが遠慮なく話すせいで仲間達もつられて気楽に話していたせいだろう。



「コイツが人一倍手間を掛けさせるからだよ、1日一緒に居たら分かっただろ?」



「それだけか? アイルの歯型を残しておいたのに? 酔ってアイルに歯型を付けて泣かせたとも聞いたぞ?」



「ッ誰から「シッ」



 ホセは思わず大声で怒鳴りそうになったが、ブラウリオがてのひらをホセの前にかざして制した。

 アイルの眉間に皺が寄ったからである。



「んにゃ…、ホセ食べすぎだよぅ…、すぅすぅ」



「「はぁ~…」」



 再び眠ったアイルに2人は安堵あんどの息を吐いて枕に突っ伏した。



「脅かしやがって…」



 無駄に焦った2人はすっかり目が冴えてしまい、時々アイルの寝顔を見ながら初めての祖父と孫の2人だけの会話を楽しんだ。

 なお、アイルに噛み付いて泣かせた事をバラしたのはエリアスで、歯型を付けられた仕返しだったとわかるのは翌朝の事である。

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