第389話 片手じゃ足りない
「ただいま~!!」
ウルスカの家に到着して勢いよくドアを開けた、ほぼ食事の時は転移で帰って来ていたが、やはりこうやって帰って来るのとは別物だ。
「おお、依頼は終わったんだな、お帰り」
「おじいちゃん! ただいま!」
抱き着いた私を抱きとめたおじいちゃんの尻尾が揺れている、暫くは休養日だからいっぱい一緒に過ごそうっと。
ムギュウと抱き着いたままおじいちゃんの胸板にグリグリと顔を擦り付けているとビビアナが階段を降りて来た。
「皆おかえり、問題は無かった?」
「ただいま、帰りはアイルの転移で近くまで帰って来たし、楽させてもらったよ」
ビビアナの問いかけにはリカルドが答えた、実際帰りは2時間も馬車に乗ってなかっただろう。
「ビビアナも体調は大丈夫?
おじいちゃんから離れてビビアナにハグをした。
「ふふっ、何とも無いから安心してちょうだい、アイルのご飯も美味しく全部食べてるくらいだし」
「そうだな、最近アイルが準備した食事だけで無く買い食いしているのをよく見るから大丈夫だろう、
おじいちゃんの言葉に私の頭を撫でるビビアナの手が止まった。
確かに約2週間ぶりに抱き着いたらほんの少しだけ腰回りの抱き着き心地が気持ち良くなったかなぁとは思ったけど…。
「ほら、赤ちゃんの分も栄養摂らなきゃいけないし?」
私は目を泳がせながら言い訳するビビアナの両肩に手を置いた。
「ビビアナ、妊婦さんが出産までに増える理想の体重は8キロくらいなんだって、それ以上増えると産道が狭くなって難産になったりするらしいから今から増やしてちゃダメだよ! 友達が臨月には水飲んだだけでも体重増えてる気がするって言ってたし!」
「だけど食べてるとなんだか落ち着くのよねぇ…」
「あ~…、食べ悪阻ってやつかも、食べてなきゃ気持ち悪くなるって聞いた事ある。生の食べ物は良くないらしいから温野菜サラダかな…。あっ、そういえばダイエット用に千切りキャベツに片栗粉まぶしてごま油で焼くだけの料理あったなぁ、付けダレとしてのポン酢が無いから酢醤油にライム絞ればいいかな? 山芋すり下ろしも入れれば腹持ちも結構良かったし…、それともスティックサラダくらいなら生でもアリかなぁ」
腕組みしながら対策を考えているとビビアナが嬉しそうに笑った。
「うふふ、やっぱりアイルが側に居てくれると心強いわね」
「本当に食い物に関しては色々知ってんなぁ…」
「食べ物だけじゃないもん!」
感心した風を装って私を
「そうだよね、アイルは食べ物だけじゃなくて花街でも賢者だってもの凄く評判だもんね」
「花街というより歓楽街全体で崇められていた感じだな、ウルスカだけじゃなくトレラーガであれだけ広まってれば王都まで届くのも時間の問題だろう」
エリアスのとんでも発言にリカルドまで乗っかり頷いた。
「いやー!! そんなのやだぁ! こうなったら他の事でもっと有名になってやる!」
「有名になるって…、例えば?」
エンリケが素朴な疑問と言わんばかりに首を傾げた。
「例えば…、えっと、そう! 妖精を見つけるとか!」
エンリケが存在を知っていたなら、ガブリエルやブラス親方に聞けば何か情報が手に入るかもしれない。
本人達が知らなくても地元の長老とか居るなら知ってる可能性は高いよね。
「アイル、確かにそれは大きな出来事として有名になるかもしれんが、既に色々と話題になっているからこそそういう知られたく無い事も知られてしまうのではないか?」
「色々って?」
おじいちゃんの言葉に首を傾げる、聖女って言われてる事とレシピ登録だけだったら教会と商業ギルドっていう一部の人達だけだも思うんだけど。
「アイル…、君は周りにどれだけ影響を与えているかわかってないのかい?」
「エンリケ、無駄だよ、だってアイルだよ?」
「そうだね…」
エリアスの失礼な言葉にエンリケは納得した様に頷いた、頷いたのはエンリケだけでなくその場に居た全員だけど。
不機嫌さを隠さずムッツリとしたままエリアスを睨むと、エリアスは肩を竦めてから私に向かって指を1本立てた。
「いいかい? まず1つ目、君は賢者なんだ、しかも
「2つ目の原因はエリアスが匂い撒き散らす系の食べ物ってリクエストしたせいだと思うの…」
控えめに抗議してみたが、エリアスは聞こえなかったかの様に3本目の指を立てた。
「3つ目、欠損すら治す治癒魔法で大司教まで
「わかった! もういい! わかったから!!」
全て開かれた指が再び折り畳まれようとしたところで止めた、たぶん6つ目は娼館に関する事だろうし。
「と、まぁ片手の指じゃ足りないくらいの話題がある訳だけど、普通はこの内の1つでもあれば凄く有名になるって事だよ」
「はい…」
「賢者として存在が知られてんのは今更なんだから気にするだけ無駄ってもんだろ、既に嘘の噂も混じってる訳だしよ」
「「ホセ!!」」
エリアスとリカルドが同時にホセを
「嘘の噂って?」
ジトリとした目を視線を合わせようとしないエリアスに向け、近付いて真下から見上げる。
「う・そ・の・う・わ・さ・って?」
「知らない方が…」
「あぁそう、今度からエリアスは緑一色のサラダだけが食べたいんだね?」
「アイルがウルスカの花街で売れっ子娼婦になって男達を骨抜きにした上、その技術を他の娼婦に教えたから娼婦達と客達に崇められてるってトレラーガの花街で有名になってた!」
「はあぁぁ~ッ!?」
エリアスは余程緑一色の食事が嫌だったのか即答した。
本日の教訓、知らない方が幸せな事はある、ちなみに訂正しておいたと言うので昼食にはちゃんとお肉も出した。
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