第390話 飲酒宣言
夕食時、私は宣言した。
「今日は飲む! 飲まなきゃ現実を受け止められる気がしない!!」
「おぉ、飲めよ。但し自室でだぞ、ビビアナは飲めねぇんだからよ。じいさんと一緒に寝るなら2人で飲めば良いしな」
ホセの
やはり花街で流れてる噂にショックを受けた私を気遣ってくれているのだろうか。
「あら、あたしは別に目の前で飲まれても我慢出来るわよ? 酔ったアイル見てるだけでも楽しいもの」
「でもほら、やっぱりビビアナが我慢する事になっちゃうならアイルは自分の部屋で飲んだ方が良いよ。もしも変な風にビビアナに絡んだら大変だしね」
寛容なビビアナの言葉に何故かエリアスが反対した、確かに酔っ払いの私はよく抱きついたりしてるみたいだから危ないかもしれない。
既に獣化したおじいちゃんと一緒に寝る約束はしてある、ただお酒を飲む事は言って無かった。
「おじいちゃん…、いい?」
「飲みたければ飲めば良い、私も付き合おう。ツマミは期待して良いんだろう?」
「うん! もちろんだよ! エドのところの料理人達が一緒に作ってくれたからいっぱいあるし、凄く美味しく出来てるからね。きっと色々食べたくなるから夕食は控え目にしておいた方が良いかも、ふふふ」
「それは楽しみだな」
そんな訳で今日の夕食は早く消化出来る様にうどんだったりする。
食後にゆっくりしてお風呂に入ったら小腹が空いて来るという計算だ。
おかずとして天ぷらがあるのでしっかり食べたい人はササミやジャガイモみたいなお腹にたまる物を食べれば良い。
いつもならエリアスやエンリケが
「おかしい…」
「え? 何が?」
ジトリとした目をエリアスに向けると不自然な程爽やかな笑顔を向けられた。
「いつもなら自分も食べるって言い出すのに…」
「ああ、今日はちょっと疲れてるからかな? エドが一緒だったせいでホセに獣化してもらったら面倒な事になるからってモフるの我慢してたでしょ? その分ゆっくりおじいさんに甘えると良いよ、邪魔しないからさ」
「うん!」
エリアスの気遣いに感謝しながら、夕食後は私とおじいちゃんが先にお風呂に入って寝支度を済ませた。
皆には見せない約束だから部屋に戻ってウサギパジャマに着替えておこうっと。
[side ブラウリオ]
ホセ達が帰って来た昼食後、リカルドとアイルはギルドへと向かった。
そしてアイル達の気配が遠ざかったのを見計らった様にホセが近付いて来た。
「じいさん、すまねぇが今夜アイルの相手してやってくれねぇか? 多分酒を飲むって言い出すと思うからよ」
「それは構わんが…、いつもの様に皆で飲まんのか?」
珍しいと思い聞くと、ホセは視線を
「珍しく…エンリケが娼館に行きたいって言うからよ、皆で行くかって話になったから…その、アイルが知ったら何て言うかわかんねぇだろ?」
前に冷たい視線を向けられた事が効いているのか、それともアイルの伝えた技術とやらをエンリケまで知ったら嫌がると思っての配慮がわからんが、とにかく隠したいという事はわかった。
「いいだろう、可愛い孫の頼みだからな」
「………助かる」
ホセはこうやって真っ直ぐに愛情を向けられると照れてしまうのが微笑ましい、アイルも素直に感情を出すからこそホセが照れてぶっきらぼうに返事しているのをよく見る。
下手したら嫌っているのかと思う様な態度だが、アイルは照れ隠しだとちゃんとわかっている様だ。
アイルは夕食の後、台所に夜中にお腹が空いたら食べられる様にと野菜スープの鍋を準備して風呂へと向かった。
30分程してよく温まったとわかる薄紅色の頬をしたアイルが姿を見せた。
「おじいちゃん、部屋で待ってるからおふろに入ったら来てね!」
「ああ、すぐに入って行くから」
実際早く花街に行きたいであろうホセ達に半ば急かされて風呂に入りアイルの部屋に向かうと、私を出迎えたのは何とも愛らしい姿のアイルだった。
「随分と可愛い格好をしているな?」
「えへへ、そうでしょ~、
そう言って兎の耳が付いたフードを被った頭を差し出した。
撫でると柔らかな毛並みがやみつきになりそうな程手触りがが良い。
「これは…良いな」
「ふふふ、好きなだけ撫でて良いよ。後で獣化したおじいちゃんにお返しするから。さ、飲もう!」
部屋のテーブルには既に数種類の酒と料理が並べられている、いつもの様に山盛りでは無く少量で種類が多い。
アイルはスティックサラダの人参を人差し指で口に押し込む様にポリポリボリと小気味いいくらい素早く食べた。
「ははは、何だその食べた方は」
「えへへ~、兎みたいでしょ?」
「確かにな、ほれ」
マヨネーズを付けて人参を差し出すと、私の手からポリポリと食べ出した。
その瞬間何とも言えない気持ちになった、考えてみれば我が子には乳母がいたから自分で食べさせた事など無かったが、こんな幸せな気持ちになるのなら私が手ずから食べさせてあげれば良かったと思う。
アイルは酔うと翌日には覚えていない、今夜はたっぷりと甘やかしてやろう。
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