第391話 2人だけの酒盛り [side ブラウリオ]

「今夜はゆっくり飲んでいるんだな」



「えへへ、だってせっかくおじいちゃんと一緒に寝るんだし、モフった事もわすれちゃったら勿体無いもーん」



「はは、そうか」



 アイルの耳の付け根、正確にはフードに付いている耳の付け根辺りを引っ掻く様に撫でた。

 アイルの言うところのケモ耳があるとつい自分が触れられて気持ち良いところを触ってしまう。



 それにしてもズラリと並んだ料理はどれも酒と合うものばかりで既に私は5杯目を飲んでいる。

 アイルはというと、3杯目をチビチビとゆっくり飲んでいるのでまだ話し方も普通だ。



「はぁ…、それにしてもおじいちゃんも『希望エスペランサ』の一員だったらエドの護衛も一緒に行けたのになぁ」



 ベッドを背もたれにしていたが、ズルズルとこちらに倒れて来て私の腕に頭を預けた。



「ふむ、冒険者の登録か…。まだまだ若い者に引けを取らない実力はあると思うし、家督も譲ったから出来なくはないな」



「だけどこれ以上人数が増えたらパーティじゃなくてクランになっちゃうかなぁ」



「クランというと…いくつかのパーティの集まりだったか?」



「うん、ウルスカだといないけど、トレラーガやおうとにはあるみたい」



「ならば冒険者登録はせずついて行くというのはどうだ? 依頼を手伝ったとしても報酬はアイルが作る食事だけで十分じゅうぶんだからな」



「うふふふ~、おじいちゃんといっしょにいけるならなんでもいいや」



 頭を預けていた腕に顔をグリグリと擦り付けてきた、このマーキングの様な仕草はアイルが酔っ払うとよくやっている。

 顔が赤くなった時が多いので、恐らく血行が良くなって痒いのだろう。



「しかし私も一緒に出掛けてしまうとビビアナが昼間1人になってしまうな」



「そぉなんだよね~、いまはおじいちゃんがいてくれるからあんしんだけど、なにかあったらとおもうとしんぱいなんらよ(だよ)」



「通信魔導具があればいざという時に連絡を取ってアイルが転移出来るから安心なんだがな」



「しょれら! おじいちゃんてんしゃい!(それだ! おじいちゃん天才!)」



「しかしそんなに遠出する様な依頼をすぐに受けたりはしないんだろう? 普段は森での討伐系採取が多いしな」



「しょうらね~、らけろえーきゅーになってからとおでがおおいんらよね~(そうだね、だけどA級になってから遠出が多いんだよね)」



「A級ともなると信頼度も高いから護衛の依頼も多かろう、確か高ランクは普段の行動も評価に影響したはずだ」



「しょうなんらよ、うれっぷしらけのかんちがいちたちんぴらはしょうかくれきないんらって(そうなんだよ、腕っ節だけの勘違いしたチンピラは昇格出来ないんだって)」



 話しながら段々アイルの身体が倒れて来たので横抱きにする様に膝の上に座らせた。



「眠いのか? 寝るなら獣化してやるぞ」



「うふふ、もうちょっとのむ。まるれわらしがじゅうかしたみたいらね~、いちゅもとぎゃくら(もうちょっと飲む。まるで私が獣化したみたいだね、いつもと逆だ)」



 気付くと無意識にアイルの身体を撫でていた、角兎ホーンラビットの毛皮が気持ち良過ぎるせいだ。

 私の毛並みはモフモフとして心地良いと自負しているが、この様に柔らかで繊細な手触りでは無い。



 背中や腕、脚を撫でてもアイルは嫌がるどころか甘えて胸元に頬擦りしてくるからついマーキングしてしまう。

 密かにホセと結婚してくれればと思っていたのだが、ホセより私に甘えて来る事の方が多い。



 ここまで甘えるのは酔った時だけではあるが、亡くなった妻ですらこんなに全力で甘えて来た事は無かっただろう。

 それこそ子供達の物心がつくまでの短い間くらいのものだ。



「そういえば獣化した姿を撫でたいなどと言う者は居なかったからな、夫婦や兄弟でのジャレ合いこんな風に撫でる事は無いのだ。身内以外ではアイルが初めてだな」



「んん? こいびとれもしゃわるれしょ?(恋人でも触るでしょ?)」



「これでも貴族だからな、夫婦になるまでは基本的に手や肩、後はエスコートやダンスする時の腰程度しか触らんよ」



「しょうなんら~(そうなんだ)」



 そういえばさっきからアイルは何杯飲んだのだろう、忘れない様に控えるのでは無かったのか、この呂律の回らない話し方になっているという事は既に明日には覚えていないだろう。



「アイル、もう寝るか? それともネックレスを着けるか?」



「やらやら! ねっくれしゅはいやら、もうねるからちゅけないれ…(やだやだ! ネックレスは嫌だ、もう寝るから着けないで)」



 まずい、泣かせてしまった、酔ったアイルは泣き出すと暫く止まらない、こうなったら獣化して泣き止ませよう。

 私はアイルを抱き上げるとベッドに寝かせて夜着を脱ぐと獣化した。



「やん、おじいちゃんのおしりみちゃった、ふふふ」



 恥ずかしがって両手で顔を覆っているが、どうせ見ても明日には忘れているから問題無いだろう。

 ベッドに飛び乗りアイルの隣に身を伏せると、いつもの様にアイルの手が伸びて来る。



 的確に心地良いところを撫でられ思わずアイルの手に身体を押し付ける様に動いてしまう、アイルの夜着と私の体毛が互いにフワフワと当たり懐かしい気持ちになった。



「ふ、ふふふ、くしゅぐったいよぅ…」



 寝惚けた様な声で我に返ると、どうやら無意識にアイルの顔を含めて夜着の毛繕けづくろいをしていた様だ、ツマミが美味くていつもより酒が進んだせいか私自身も少々酔っているらしい。

 戯れに妻と獣化したまま夜を過ごした事を思い出したせいだろうか、最後にアイルの頬をひと舐めして眠りについた。

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