第451話 一旦解散

「さて、エンリケとエルフの方々は部屋に案内するとして、君達は出掛けるだろう? 新しい店も出来ているからイケルとパコに案内させよう」



 食事が終わるとエドがとても良い笑顔で言った、ダメよアイル、何度聞いても下ネタワードにしか聞こえなくて笑っちゃうけど人の名前に対して笑うなんて失礼だもの。

 私はそっと息を止め、腹筋に力を入れて吹き出すのをこらえた。



「あ、オレは行かねぇから二人だけ行ってこいよ」



 ホセは面白く無さそうな顔をしながらもヒラヒラと手を振って断った。



「どうしたのホセ!? どこか具合が悪いとか!?」



ちげぇよ! オレを何だと思ってんだ!」



 笑いを堪えていた事も忘れてホセを心配したというのに怒られた、だけどホセが移動で疲れたから花街へ行かないなんて言うはず無いもん。



「だって出掛けるのに行かないなんて言うから…」



「「「「ぷふっ」」」」



 私の素直な感想にエルフの三人以外が吹き出した、吹き出すのは何とか堪えたみたいだけどアルトゥロも肩を震わせている。

 それにしてもホセが花街に行かない理由は何だろう、まさかカマエルとタミエルに心的外傷トラウマを負わせた罪悪感から?



 ………いや、無いな。

 そんな事くらいじゃ行かないなんて言い出さないと思う。

 もしや前回来た時に中折れしちゃって恥ずかしくて行けない…も無いな、翌朝に落ち込んだりしてなかったし。



「それともトレラーガのたちの悪い娼婦に執着されてるから見つかりたくないとか…」



「オイ」



「ひゃいっ!?」



 考え込んでいたらいきなり頭を掴まれて声がひっくり返ってしまった。

 ホセは頭を掴んだまま凄みのある笑顔で私の顔を覗き込んだ、狼のうなり声が聞こえてくる様だ。



「くだらねぇ事考えているみたいだが全く見当外れだからな?」



「あはは、アイルは考え込むと時々口から考えが漏れるから気を付けた方が良いよ」



 エンリケの言葉で自分の考えを声に出していた事に気付いた、…どこから!?

 一体どこから声に出ていたんだろう、どうか、どうか中折れ云々うんぬんは口に出していません様に!!



 ここは下手に口を開かない方が賢明だろう、ジットリ汗を掻いた手を握りしめて頭が解放されるのを待っていたらエドが助けに入ってくれた。



「ホセ、少々アイルに近過ぎじゃないかな、触れるにしても優しくというのが基本では?」



「へっ、さっきみたいな力は入れてねぇよ。優しくねぇ…よしアイル、今夜は獣化して一緒に寝てやろうか?」



「えっ!? いいの!?」



 エドに対して鼻で笑ったかと思ったら、嬉しい提案をしてくれた。

 


「ああ、エドガルドがお前に優しくしろって言うしな」



 ニヤリと勝ち誇った笑みをエドに向けるホセ、それに対してギリギリと奥歯を噛み締めるエド。

 なんだ、私に優しくしてくれる訳じゃなくてただのエドへの嫌がらせか。

 ふと、エドが何かを思い付いた様にニコリと微笑んだ。



「ホセというお目付役が居るのなら一緒に晩酌をしても許されるのではないかな? この屋敷に居る間の警備は我々に任せてくれれば良いからエンリケとエルフの方々も一緒にどうだろう?」



 これはもしや…ほろ酔いからのホセをモフリ放題の幸せコース!?

 期待を込めた目でホセを見ると、嫌そうにしている。



「ちゃんと三杯までにするから! エンリケも一緒なら更に安心でしょ!?」



 エンリケの方に振り返ると笑顔で頷いてくれ、それを見てホセは諦めた様にため息を吐いた。



「わかったよ…」



「え~…、花街より何だかそっちの方が楽しそうな気がするなぁ」



 私達の遣り取りを見ていたエリアスが呟いた、きっとホセとエドがにらみ合うところを見たいのだろう。



「エリアスとリカルドには是非新しく出来た店の感想を教えて欲しいんだ、美味しいお酒も揃っているし、新しいシステムできっと楽しんで貰えると思うよ」



 エドはニコニコしながらエリアスに近付き、何やらヒソヒソと耳打ちするとエリアスは笑顔でリカルドを引っ張る様に食堂から出て行った。

 ホセの耳がピクピクしていたから聞こえていたはず、後で何て言ったか聞こうっと。



「どうせ酒飲んだらすぐに寝るだろ? 先に風呂に入ってこようぜ、オレ達の部屋はシャワーだけだからよ、アイルの部屋の風呂使わせてくれ、お前の後で良いから」



 移動で疲れてるから浴槽に浸かりたいよね、その気持ちはわかる。

 


「わかった、じゃあ部屋の鍵開けておくね。エンリケはどうする?」



「俺はシャワーで済ませるから良いよ」



「そう? ガブリエル達はどうする?」



「私達は早めに寝るからやめておくよ、アイル達は遅くまで飲むでしょ?」



「ん~…、そうかも? だけど明日の出発には影響が出ない程度にするから安心してね。エド、後でサロンに行けば良い?」



 話がまとまったところで確認すると、思いの外真剣な顔でガシリと両肩を掴まれた。



「サロンに準備しておくが…。良いかいアイル、お風呂のお湯は出る時に必ず全部流すんだよ?」



「え? どうして? お湯を貯めるのに時間掛かるから遅くなっちゃうよ? 魔法を使えば早いけどさ」



「アイルがかったお湯をホセが匂いを嗅いだり舐めたり堪能たんのうしたらどうするんだい」

「しねぇよ!! お前じゃあるまいし!」



 ホセはエドの意見を即座に否定した、そりゃそうだろう、お湯を舐めるって何だ。

 そんな発想が出てくる事にドン引きだよ、怒るホセをなだめながら私達は一旦解散した。

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