第450話 リカルドの結婚

「お、南瓜かぼちゃがあるじゃねぇか」



 食堂で並べられた料理を見てホセが嬉しそうな声を上げた。

 今日の主菜は天ぷらの様だ、茄子の煮浸しもあるし和食にしたらしい。



「良かったね、好物があって」



 先程痛い思いをさせられたのでムッツリとしながら言ってやった、しかしサクッと音を立てる衣に口の中でほろりとほどける様な甘い南瓜を味わうと、ささくれた心がいだ。

 茄子に舞茸、蓮根など歯応え色々で楽しく美味しい。

 


「んん、美味しいね~」



「はは、アイルにそう言って貰えて料理人達も喜ぶだろう。ここの料理が食べたければいつでも来て欲しい、何ならアイルだけここに残ってくれても良いんだよ」



「いやいや、護衛依頼の途中だからね? 護衛が無ければ今すぐビビアナのところへ帰るし」



 今はエドに頼まれても絶対に帰る、今回の護衛だって殆どガブリエルの泣き落としで断れなかったと言っても過言では無い。

 まぁ、もし赤ちゃんが産まれた後だったらガブリエルが地面に転がって泣こうがわめこうが絶対にウルスカから離れなかったけどね。



「そういえばビビアナは母子共に順調かい? 結婚式で女神の祝福を受けた二人の子供なのだから心配なんて要らないだろうけど」



「うん、赤ちゃんが動いてるのはわかるって言ってたけどまだお腹は目立ってないし、冒険者ギルドの指導は口を出すだけで実演は他の冒険者達が手伝ってくれてるみたい。産まれて来る子が男か女とか、どっちに似てるとか賭けの対象になってるって笑ってたよ」



「ははは、ビビアナは相変わらず器が大きいね、子供が賭けの対象にされても怒るどころか笑ってるなんて」



「だよね! 皆ビビアナを見習うべきだよ」



 エドの人の本質を見抜く目は確かだね、誰かさんもビビアナくらい器が大きかったら私が痛い思いする事も無いのに、小声でも口に出すと聞こえちゃうから言わないけどさ。

 チラリとホセを見るとニヤリと意地悪な笑みを浮かべていた。



「へえぇ~、それじゃあお前はビビアナを見習って王都で初心うぶな騎士でも引っ掛けて来るのか?」



「そんな事しないよ! そうじゃなくて器の大きさの話してるんでしょ! 私はまだ十六歳だし必要無いもん、別に恋人が居なくてもおかしくない年齢だもんね、誰かさんと違って」



「………」



 当然私はホセの事を言ったつもりだった、出会った当時は二十歳だったが今は二十二歳だし。

 しかし食事の手が止まってしまったのはリカルド、既に前世の私よりひとつ上の二十八歳となった我らがリーダーだ。



「あ~ぁ、いくら自分が一番若いからってそんな言い方無いと思うな、リカルドが傷付いちゃったじゃないか」



「お前酷い奴だな」



 エリアスがわざとらしくリカルドを気遣うフリをしながら首を振り、ホセが調子を合わせて私を悪者にした。



「ち、違うよ! ホセに言ったんだもん! それにリカルドは恋人が出来ないんじゃなくて作ってないだけでしょ!?」



「そうだが…、ビビアナ夫妻を見ていると時々考えさせられるな」



 ああっ、リカルドが遠い目をしちゃってる!

 でも食事は続けてるから大丈夫かな?



「だけど…ほら、結婚しちゃったら冒険者続けるの難しくない? こうやって長く家をける事もあるしさ、数ヶ月振りに家に帰ったら妻がどう考えても計算の合わない子供を妊娠してた…なんて嫌でしょ? だけど『希望エスペランサ』のリーダーはリカルドじゃないとダメだから難しいね」



「凄いね、アイルってば見事な追い討ちの掛け方だよ。八方塞がりに持ち込むなんて、実はリカルドの事嫌いなの?」



「へ?」



 エリアスがニッコリ笑って指差した方を見ると、リカルドが箸を置いて俯いてしまっていた。



「リカルドの事は大好きだよ! そうだ、相手が冒険者ならビビアナみたいに妊娠や子育ての間は休んで、普段は一緒に冒険するとか出来るじゃない!?」



 私は咄嗟とっさに思い付いた名案を口にする。



「うん? アイルは遠回しにリカルドに求婚しているのか?」



「いや、違うだろう。さっき自分には必要無いと言っていたしな」



 カマエルとタミエルが余計な事を言い出した。

 やめて! エドの感情がジェットコースターみたいにアップダウンしてるのがオーラで伝わって来るから!!

 内心冷や汗を掻いていたらリカルドが貼り付けた様な微笑みを浮かべて顔を上げた。



「わかった、さてはさっき助けなかったから仕返しをしているんだな? そうだなぁ、もしこのまま冒険者を続けて十年後も結婚出来て無かったらアイルに責任取ってもらおうか、『希望』のリーダーは俺じゃないとダメだって言ったんだから受け入れてくれるだろう? ははは」



 リカルドがこんな冗談言うなんて珍しい……、違う、これは冗談で言ってるんじゃない、間接的な嫌がらせだ!!

 だってエドが大変な事になってるもん!

 赤黒い嫉妬のオーラが見えるの気がする、笑顔のままなのが余計に怖い。



「ははは、リカルドが冗談を言うなんて珍しいね。結婚は愛する人と、という大前提があるんだから無理にする必要は無いさ、その人に振り向いて貰えたなら幸せ者という事だよ」



「う…」



 途中からエドのオーラが消えたかと思ったらとろける様な目で私を見てきた、本当に変態でさえ無ければその胸に飛び込んでるんだけどね!?

 たまれなさと葛藤に思わずうめき声が漏れる。



 そんな私を見ながらもリカルドの貼り付けた様な笑みが崩れる事は無く、笑顔でポーカーフェイスだなんてリカルドも貴族らしい事出来るんだなぁと頭の片隅で思いながら何とか残りの料理を口に運んだ。

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