第187話 治癒の現場から
「肉が欲しい奴はギルド職員に申請しとけ~! 素材も肉も使えそうに無いやつはダンジョンに放り込んで来るから黄色のスカーフ着けてる職員がマジックバッグに回収、食えるヤツは赤いスカーフ、素材優先は青いスカーフの奴に渡してくれ」
昼食後、ガスパルの指示で怪我をしていない冒険者は魔物の回収を手伝いに外壁の外へと向かう、私も仲間達と一緒に行こうとしたら肩を掴まれた。
このパターンはまたガスパルだろうかと振り向くと、そこには治癒師のフェルナンが妙に迫力のある笑顔で居た。
「さぁ、怪我人が貴女を待っていますよ? ギルマスの許可は貰ってますから行きましょう」
「倒れるまでやるんじゃねぇぞ」
「こっちが先に終わったら迎えに行くからな」
「1人にするのは心配だからビビアナがついてってあげれば? どうせ今からは力仕事なんだしさ」
「そうね、護衛代わりにあたしもアイルと一緒に行くわ」
「本当!? やったぁ」
どうやらビビアナがついて来てくれるらしい、1人だけであの怪我人達に囲まれるかと思ったら気が重かったので凄く嬉しい。
冒険者の比率は男が多いし、無茶をして大怪我するのも男の方が多い、女は妊娠する身体なので身を守ろうとする本能が強いって某競艇漫画で読んだ。
怪我人が寝ている屋内へと移動し、重傷者から順番に治癒していく事になった。
この場所は普段冒険者ギルドの訓練や昇格試験をする場所らしい、私が寝ていた部屋は駆け出し冒険者の為の宿泊施設だったとか。
「そんなヤツより早く俺を治せ! おいっ、お前も俺の後でいいだろう!?」
1番重傷の怪我人を治そうとしたら片脚が太腿から無くした冒険者が血走った目で私と怪我人を睨みながら怒鳴った。
怪我人はヒッと小さく悲鳴を上げたが、私は無視してフェルナンに言われた順番に治癒を掛けていく。
「ちょっと我慢してね、フェルナン、曲がったまま治ってしまわない様に足の向き固定して、そう…『
「ぐぅ…ッ、あ…、あぁ…っ! 腕が…、脚も…! ありがとう! ありがとう!!」
怪我人は欠損した腕も粉々になっていた脚の骨も元通りになり、私の手を掴んで涙ながらにお礼を言った。
それを見ていた周りの怪我人達が色めき立つ、昨日眠っていて本当に欠損が治癒出来ると信じていなかったのだろう。
「おいっ、テメェ! 聞こえてるんだろう!? サッサと治しやがれ!」
さっきの男がまた騒ぎ出した、シャツの上からでもゴリマッチョだとわかるバキバキの腹筋なせいか声が通る上にデカいせいでうるさい。
「フェルナン、この治癒って正式な依頼されてないから報酬は無いよね? つまり私の親切心だけでやってる…って事、だよね? 『完全治癒』」
2人目を治しながら騒ぐ男に聞こえる様に会話する。
「え、あの、……はい、報酬をお約束出来なくて申し訳ありません、ですがきっと国からも褒賞は出るはずです!」
「あ、いいのいいの、現時点で依頼としてやってないって事が確認できれば『完全治癒』」
数人治して騒ぎ続けた男の番になったが、スルーして次の怪我人を治す。
「おいっ、俺の番だろう!? 待たせやがって! サッサと治せよ!!」
治った人達は男に睨みつけられるので、私にお礼を言ってそそくさと訓練所から出て行く。
私は無表情のまま男に向き直った。
「さっきの話、聞いてなかった? 治癒しているのは私の親切でやってる事なの。気に入らない人の治癒する義務はないのよ? どうして自分が治して貰えると思ったの?」
私の言葉に男はサッと顔色を変え、引き攣った笑みを浮かべる。
「へ、へへ…、悪い冗談はよしてくれよ。アンタ賢者なんだろ? 死にかけた奴らも治した慈悲深い聖女だって皆噂してたぜ? 俺の事も治してくれるんだろ?」
最終的に媚びる様に上目遣いで見てくる男、ゴリマッチョの厳つい顔の男に上目遣いされても心の琴線はピクリとも反応しないけどね。
そんな男にニッコリと笑顔を見せると、男はホッとした様に歪んだ笑みを見せた、しかし…。
「自分の事を聖女だなんて思った事無いわ、私は尊敬されてもないのに偉そうにしてる人って嫌いなの。だからあなたの事治したくない、だけどそうねぇ…、もしあなたが尊敬されてて、今だけ気が立ってるせいでそんな態度だったっていうのなら治すわ」
「そ、そうなんだよ! 悪ぃな、冒険者続けられねぇって思ったら気が立っちまってよ」
「じゃあカタヘルナの冒険者に聞いて半数以上があなたを治して欲しいって言ったら治してあげるね」
「は? なん…ッ、何ふざけた事言ってんだよ! 今すぐ治せッ!!」
「ふざけてなんかいないよ? 『
最初は騒いでいた男(声は聞こえないが腕を振り回して口がパクパク動いてた)も周辺の音が聞こえない事に気付いたのか大人しくなり、片脚なせいで1人で移動が出来ない為、周りもホッとした様だった。
その男以降騒ぐ者は皆無で治癒はサクサクと進む。
40人程治癒したところで不意に眠気が襲って来た、やはり欠損を再生するのはかなり魔力が持って行かれる様だ。
フラついてたたらを踏むと、ビビアナが咄嗟に支えてくれた。
「魔力切れなんじゃないの? 倒れる前に休みましょ」
「そんなっ、俺まで治してってくれ!」
次に治す予定だったまだ若い青少年が悲鳴の様な声を上げた。
「バカねぇ、魔力不足で半端に治った腕で一生過ごしたいの? あなたが希望したんだからそれで文句言わないのね?」
ビビアナが呆れた様に言うと青少年はグッと言葉を詰まらせた。
「では昨日の部屋で休憩して下さい、場所はわかりますか?」
「ええ、あたしが覚えてるから問題無いわ」
フェルナンも休憩を勧めてくれたので頷いてビビアナと昨日の部屋へと向かう。
「ふふっ、治癒魔法の事よくわからないけど適当に言っちゃった」
「実際半端に治しちゃったら完治出来ないかもしれないからね、ビビアナ、ありがとう」
その後、おやつを2人でコッソリ食べてお昼寝をした。
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