第130話 リカルドの実家
「ただいま戻りました」
門の前に到着し、皆が下馬すると熱烈歓迎なお迎えにはにかみながらリカルドが言った。
「衛兵から聞いて驚いたが無事な姿で帰って来てくれて良かった、これで安心して隠居できるな、ははは」
どうやらさっき奥に走って行った門番が報せたらしい。
リカルドと同じ髪色のよく似た壮年の男性がリカルドの二の腕を軽く叩きながら笑った、きっと彼が父親である男爵なのだろう。
完全にリカルドを手元に留める気満々な台詞を聞いて不安になり、思わず背後に立つホセを見上げると苦笑いしながら頭を撫でられた。
「…っ、父上、ずっとご心配お掛けして申し訳ありません。私は今Aランク冒険者として活動しているんです、その…今後も冒険者を続けたいので出て行った時に言った様に婿養子をとって下さい」
申し訳なさそうに、しかしキッパリと言ってくれた事にホッと胸を撫で下ろす。
それにしても…何というか、リカルドのお父さんってちゃんと貴族してるって感じがする。
落ち着いていてドッシリ構えていて頼れる感じ、王都での夜会には王様含めて何人か居たけど、ガブリエルとは比べるのも躊躇われるレベルだ。
「お兄様、ではまた行ってしまうの?」
私より少し年上くらいの女の子が哀しそうに瞳を潤ませてリカルドを見上げる。
「ああ、だが数日は滞在する予定だ。皆の近況も聞きたいしな」
そう言ってリカルドはいつも私にするみたいに女の子の頭を撫でた、既に私の中でお兄ちゃんポジションなリカルドの本当の妹にほんの少しだけ嫉妬心が顔を出す。
このまま見ていたらモヤモヤしそうだったのでコソッとホセに相談する。
「ねぇ、挨拶だけしたら4人だけで宿屋へ行こうか」
「そうだな」
ホセが同意してくれたのでサッサと挨拶だけして撤収しよう、話中だけどリカルドの隣へ歩み出た。
「お話中申し訳ありません、私はリカルドがリーダーを務めるAランクパーティ『
ペコリと45度に頭を下げて挨拶し、リカルドを見上げた。
「あ、ああ…。父上、皆、ここに居るのがパーティ仲間で本人も言った様にアイルと1番付き合いの長いエリアス、ホセとビビアナだ。パルテナで出会った信頼出来る最高の仲間達なんだ」
過去最高に丁寧な言葉遣いをする私に戸惑いながらも私達を紹介した、私達が紹介されながら会釈するとホセを見て戸惑ってはいたが嫌悪を表情に出す事は無かったので私の中で合格を出す。
「リカルド、コレお家へのお土産渡しておくね、あとリカルドの手荷物も。それでは失礼致します」
鞄から出すフリでストレージから荷物を出して渡し、ペコリとまた頭を下げて既に馬に跨っているホセの元に戻る。
「リカルド、滞在日数を決めたら報せてね」
エリアスがそう言って馬首をめぐらし、移動を始めた。
私もホセに馬上へと抱き上げて貰ってエリアスの後を追う。
街中に貴族が泊まる様な高級宿屋は無かったが、商人達が行き来しているのか、ちょっといい宿屋があったので泊まる事にした。
何だか飲みたい気分だったので1人部屋で寝酒を飲みたかったが却下されてしまった、4人部屋だけど今夜だけは特別に部屋で飲んでも良いという許可と共に。
「それにしてもリカルドって父親似だったね、下の妹さんもリカルドと似て凛々しい感じだったけど。上の妹さんは完全に母親似であんまり似てなかったから言われなきゃ兄妹とはわからないくらいだね」
宿屋で夕食を食べていると、いつもよりエリアスが饒舌になっていた。
私達の他に客は数人しか居ないけど、ホセの事をチラチラ見てくるせいで少し私がピリついているのを紛らわせようとしているのだろう。
「はぁ…、しょうがねぇな、ここでも一杯だけなら飲んでいいぞ」
ため息を吐きながらホセが言った言葉にピクリと反応する、タリファスはやはりエールよりビールが主流な様で気になっていたのだ。
エリアスがジョッキを4つ注文するとすぐに運ばれて来た。
「ふふっ、アイルはアレやりたいんでしょう?」
そう言ってビビアナが親指で差した先には向かい合って肘を引っ掛けながら飲んでいる商人らしき男達。
コクコクと頷くとホセがジョッキを持って肘を前に出したので引っ掛けて一緒に煽る。
「えへへ、なっかま~! イェ~イ!」
やりたかった事をやれてテンションが上がった私がハイタッチを求めて手を上げると苦笑いしながら皆は応えてくれた。
ビビアナとエリアスとも肘を引っ掛けて飲んで機嫌を良くした私を3人は呆れた様に笑っていたが。
夜になって寝る準備を終えた頃、リカルドが宿にやって来た……らしい。
何故「らしい」と言うのか、という理由は私が覚えていないからだ。
どうやら許可を貰ったのを良い事に、私は3杯以上飲んだ…らしい、翌朝起きたと同時に床に正座させられてホセのお説教と昨夜の出来事の説明から1日が始まったのだった。
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