第227話 エドと買い物
「エド、次はあの店に寄ろう」
「ああ」
生クリームを手に入れた私はフルーツサンドを作るべく果物屋を目指した、しかし先程から私が話し掛ける度にエドが目を瞑るのは何なんだろう。
さっきから目が虚ろというか、焦点が微妙に合って無い様に見えて怖いというか、幻影で見えてるはずの顔ではなく、本当の私と目が合う場所に視線が向いている。
「エド、私の姿違って見えてるんだよね?」
周りが騒いだりしてないから幻影は解けてないと思うけど、ちょっと不安になってコソッとエドに確認した。
「ああ、残念ながら君の愛らしい姿には見えていないよ、ただ私が普段通りの君を思い浮かべているだけさ」
「そ、そう…」
だとしたらちょっと心配である、バネッサの身長は高いので普段の私と目を合わせようとすると、話し掛ける度に胸元をガン見している風に見えると思うのだ。
そしてこの姿の時はバネッサと呼んでと言ったのだが、頑なに呼ばず「君」と呼ぶ様になってしまった。
もしかして目を瞑るのも声だけ聞いて
「うん、食材はこのへんで良いかな。あとは少し職人街で新商品が無いかチェックしてみよう、エドも最新の流行りをチェックしておいた方が仕事の役に立つでしょ?」
「私の仕事の事まで考えてくれるなんて優しいね、その気持ちが嬉しいよ」
「あ、いや、ほら、私に付き合わせちゃってるからさ。さ、行こう!」
蕩ける様な笑顔と雰囲気、そして言ってる事は素敵なんだけど視線の先が!
エドの笑顔にうっとりため息ついて見てる人もいるが、視線が
エドの手を掴んで早足でその場を後にした。
「フム、あのスタイルは今後流行りそうだな…」
職人街に移動するまでエドはまた目を瞑っていた、それでコケたり
しかし職人街に到着して手を離すと、エドはお仕事モードに入ったのか周りを観察しては分析している様だった。
ずっとこのモードだとキリッとしててカッコ良いのにな、本当に変態なのが惜しまれる。
そして鍛冶製品が並ぶお店で運命的な出会い、横長の四角いダッチオーブン的な物を見つけたのだ。
実は今までサンドイッチを作っていたパンは食パンでは無かった、大きい丸パンをスライスして作っていたのだ。
しかし今回見つけたのは煮込み用なのか、取手が蓋を押さえられる様に動くので四角い食パンが作れるに違いない。
恐らく貴族のパーティなんかで大人数用の料理を作る為の物だろう、出来上がった物をパーティ会場に移動する時の為に蓋が固定出来る造りなんだと思う、これの小さい物は見た事あるが蓋を固定出来ない物だった。
本当はもう1つくらい欲しかったけど、こういう店は見本に1つ置いてあるが、基本的に受注生産方式なのでウルスカの職人に頼むしかない。
私が支払いしてる間にも本日何度目かの逆ナンにあっていたエドは、そろそろ帰ろうかと声を掛けると清々しい程に女性を無視して歩き出した。
その分私が女性達に睨まれる事になるのだが。
再び辻馬車に乗ってリニエルス伯爵邸へと戻り、早めに夕食の仕込みを終わらせた料理人達とまだ教えて無かった商業ギルドに登録した料理の実演を兼ねた試食会を開催する予定になっている。
馬車を降りて門を潜った瞬間エドが口を開く。
「アイル、もう帰って来たからその幻影魔法は解除していいんじゃないかな?」
ニコニコと優しく言っているが有無を言わせない圧力を感じた、本当にブレないな。
実際買い物途中でもお店の人達と話す時に私の顔ではなく頭の上を見ながら会話する姿にモヤモヤしたものを感じていたのでエドの言葉を拒否する理由は無い。
「そうだね、『
「やはり本来の姿のアイルが1番だ」
元の姿になった私を見てホッとした様に微笑み、私の髪をひとすくい取るとチュッと口付けた。
日本人に免疫の無いモーションは是非とも控えて頂きたい!!
好きとか嫌いとか恋愛感情とか関係無く照れというか恥ずかしさで勝手に頬が熱くなってしまう。
こういう時のエドはそんな私の気持ちを見抜いているのか、睨む私を見ながら余裕気に微笑むのだ。
いつもの変態らしいデレっとした顔ならすぐにスンッと平常心に戻れるのに。
こういう時私の心情風景は山岳地帯の展望台から「これで変態でさえなかったらー!!」と叫んでしまう。
既にエドに出会ってから何度か叫んでいるし、それ以上に変態度合いに対してのツッコミを叫んでいたりする。
「じゃ、じゃあ私は厨房で帰りに食べる料理を作ってくるね」
平常心を取り戻すべくエドから離れようとしたが、エドが待ったをかけた。
「それなら私も手伝うよ」
「へ!? エドって料理出来るの!?」
「ああ、以前は仕事の為に何でも出来る様にならなきゃいけなかったからね、大抵の事はひと通り出来るよ」
実際エドの言葉通り包丁捌きもなかなかのものだった、出掛けた時の服装でボタンシャツを腕まくりし(身体に傷があるから夏でも長袖)、リカルド用のギャルソンエプロンで調理するエドの姿に私は再び心の中で展望台から叫ぶのだった。
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