第226話 パルテナ王と謁見

「行きたくない…」



「お前昨日セシリオの移動願いに口添えするとか言ってなかったか?」



「言った…」



 王宮へ向かうお迎えの馬車の中で謁見出来る服装に身を包んだ『希望エスペランサ』の面々、ちゃっかりエドもガブリエルに同行した使者として謁見するらしい。

 私が行きたく無い理由はひとつ、これでもかと貴族が集まった謁見会場で晒し者にされる事だ。



 だけど公式に個人的に連絡を取ろうとしないとか、拒否自由の許可証持ってるとか、指名依頼する時は王様とギルマスが納得する理由がある場合のみとか公表して貰わないと今後大変になるから行かない訳にはいかない。



 そして到着した謁見室、そう、謁見のではなく謁見なのだ。

 先に到着していたドヤ顔のガブリエルが説明するには、大勢の貴族に顔を覚えられて今後追いかけ回されたりしたら、それこそ国外へ飛び出してしまう可能性があると王様を説得してくれたのだとか。



「ありがとうガブリエル、持つべきものは頼りになる友だね」



「いやぁ、この程度の事は友人として当然だよ」



 今回心の底からそう思った、私の言葉に嬉しそうに胸を張るガブリエル。

 エドの視線が背中に刺さってる気がするのはきっと気のせい…だと思いたい。

 暫くすると王様の入室を告げる声が聞こえた。



「楽にせよ、此度は大氾濫スタンピード及びセゴニア王への謁見大義であった。そして賢者アイル殿、我が子だけでなくセゴニア、ひいてはこの国を救ってくれた事感謝する」



「恐れ入ります、しかし大氾濫は私1人の功績ではありません、皆が力を合わせて頑張った結果でございます」



「はは、其方そなたの活躍は聞き及んでいる、謙虚な事だ……。今後もこのパルテナで活躍してくれる事を期待する」



 よし、今だ!



「はい、昨日仲間の1人がこちらの騎士であるセシリオ殿と婚約致しましたので拠点を変えるつもりはありません。ただ、仲間が冒険者を続けられる様にとセシリオ殿はウルスカに移動願いを出すと申されておりましたので受け入れて下さると嬉しく存じます」



「おお! そうかそうか! それはめでたいな! ならば騎士団長にその旨伝えておこう」



「恐れ入ります」



 狙い通り私を繋ぎ止めるものが出来たと王様はホクホク顔だ。



「して、賢者アイル殿ご本人は結婚やお相手はいるのだろうか?」



 はい、セクハラァ~~!!

 危うく目からハイライトが消えそうになったが、相手は王様なので何とか堪える。



「私や賢者サブローが居た母国では女性は20歳を過ぎるまで親の許可がなければ結婚は出来ないのです。女性が30歳で初婚でも行き遅れと認識されません、今は冒険者として活動するのが楽しいので専念したいと思っております」



 地球ではとっくに20歳を過ぎた27歳だったとかそういう不利になりそうな事は言わない、信頼を得る為の会話なら全部話した方が良いだろうけど、次に会うかわからないからそんな必要も無いしね。



「そ、そうか…。確かに16歳でその若い見た目であれば我々の30歳とは感覚も違うのであろう。リニエルス伯爵から今まで通り騒がれず過ごしたいと希望していると聞いた、それについてもきちんと取り計らうので安心するが良い」



 全く、王様が変な事言うからエドが殺気立ったせいで控えている影の人達が反応したから一触即発状態になっちゃたじゃない。

 探索魔法無しでもわかるレベルの殺気をお互い飛ばし合うのはやめて欲しい、ポーカーフェイスな王様の顔もちょっと引き攣ってるよ。



「感謝致します」



 その後賢者として年金的なお金が貰えるとか言われたけど辞退し、代わりに義務も最低限にして貰った。

 所謂国家的な危機や、国際的でどうしても断れない外交の為に顔を出す以外は何も無し、その時は依頼という形して報酬を受け取る事に。



 そしてこっちにもあった賢者研究会の質疑応答依頼、それを聞いた時は密かにまた賢者サブローの書き損じとかあるかもと期待してしまった。

 あんまり滞在を延ばすとアルトゥロ辺りがブチ切れてエドを迎えに来るのではと心配になるが。



 そして3日間はガブリエルの屋敷に賢者に関する来客が来る事が決まり、午後3時には王宮を出た。

 本当はこの場で謁見用ドレスを脱ぎ捨てて買い物に飛び出したい。

 しかしこのドレスは1人で脱ぐ事もままならない造りをしているのだ。



 この大変なドレスを着る度に魔法少女の様にアイテムで服装が変えられたら良いのにと思う。

 1度ガブリエルに相談したけど、かなり無理っぽい。

 魔法少女といえば私の世代は戦う美少女というイメージだったが、母の世代だと事件解決系のものがあったらしい。



 中には魔法のステッキで描いた服が着られるけど、時間が経つと消えてしまうというラッキースケベ起こし放題なモノもあったとか。

 実際そんな服を作るのは無理だが、私の場合は幻影を纏うという方法がとれる。

 そして母から聞いた魔法少女の教訓を活かして幻影に頼りきらず、ちゃんと服を着て幻影を纏わねば。

 


 リニエルス伯爵邸ガブリエルの家に戻ってから着替えを手伝って貰いつつ幻影の姿候補を考える。

 ヘタに王都に居る人になるとその人の知り合いに会ったらややこしくなるしなぁ。

 そして私は名案を思い付いた、ウルスカのギルド嬢バネッサの姿を借りれば良いと。



 イメージ的にどうしてもギルドの制服になってしまったけど、制服は統一されてるから王都でこの格好でも問題は無い。

 バネッサは美人だがそれなりの年齢なのでナンパも無いだろう。



 商店街には何度か行ってるし、仲間と一緒だと騒がれる可能性があるのでエドと2人で辻馬車を使って買い物に行く事にした。

 ちなみにバネッサ姿の私を見てちょっと元気を無くしたエドを見たから2人で行く許可が貰えたのは内緒だ。

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