第320話 幸せ計画

「父様…!」



「久しいな、ベルトラン」



 感動的な親子の再会、あれから私達はベルトランの住む村に再びやって来た。

 ゴリラ似冒険者の接近を許してしまった私は、その事を反省して探索魔法を展開しながら移動していたのだが、どうにも怪しい人が2人ついて来ていた。



 馬に乗っているのに私達を追い越さず、見た目も一見冒険者だけど動きが騎士でしょと言いたくなる程キビキビしたものだったのだ。

 そんな訳でその晩泊まった村を早朝に出て、適当な方向へ少し進んでから強めの隠蔽魔法と認識阻害を掛けてUターンした。



 ちなみに真横を通ったのに2人は全く気付かなかった、魔法様々である。

 それ以降追跡されてる感じも無かったので悠々とこの村に来れたのだ。

 アンヘルとセルヒオも初めて父方の祖父に会えて喜んでいる。



 私は感動の再会をしている親子を横目に、ビルデオ王都で買ったお菓子を餌にセルヒオを膝の上に乗せてご満悦だ。

 この村に寄る事を提案したのは私だけど、セルヒオが目的じゃなくて親子の再会の為って言ったのに、皆疑いの眼差しを向けてきた、酷い。



 アンヘルもお菓子を凄く喜んでくれたが、どうやら仲良しの女の子にあげたいらしい。

 うむうむ、青春してるねぇ、あの栗鼠りす獣人の女の子かな、お姉さんがイチャつけるようにアドバイスしてあげよう。



「自分は食べて無いからひとつだけ味見したいと言って口を開けて待てばあ~んって食べさせて貰えるよ」



「ば…っ、馬鹿な事言うなよ! そんなの…っ」



「恥ずかしがったら相手は更に恥ずかしくなるから、シレッと言わなきゃだめだよ?」



 真っ赤になっているが満更まんざらでもなさそうだ、頑張ってね。

 私とエリアスとビビアナ、プラス母親のオリビアの生温かい視線に見送られながらアンヘルは出て行った。

 今後の為にも出来るだけおじいちゃんの存在を周りに知られない方が良いという事で1時間程の滞在で出発しなきゃいけなかったが、セルヒオから頬擦りしてくれたので良しとしよう。



「ありがとう、再びベルトランに会えるとは思っていなかった。幸せそうで安心したよ」



 村を出て馬車の中でおじいちゃんが頭を下げた。



「おじいちゃんが喜んでくれたなら寄った甲斐があるね」



「お前がセルヒオに会いたかっただけだろ」



 ホセがジトリとした目を向けて来た。



「そ、そんな事無いもん」



「ふふっ、孤児院で殆ど大きい子だったからガッカリしてたものねぇ」



「ビビアナ!?」



「ははは、たとえそうでも嬉しかったんだ、何か礼をしたいんだが…、何がいいかな?」



「獣化してもらって一緒に寝たい! ……あっ」



「お・ま・え・は~」



「つ、ついポロッと欲望が口から…っ、痛い痛い!!」



 ホセに頭を掴まれ、ギリギリと指先に力を込められる。



「うふふ、じゃあおじい様とホセに獣化してもらって3人で寝たら?」



「ビビアナ……天才か!」



 そんな幸せな提案をされては実現すべきだろう、私は頭を掴まれたまま手を胸の前で組んでホセを上目遣いでジッと見る。



「ホセぇ~、お願~い! アイルおじいちゃんとホセの3人で寝たいのぉ~」



 鼻にかかった甘えた声でお願いしてみた、するとホセはスンッと冷めた目を私に向ける。



「お前…、恥ずかしくないのか?」



「く…っ、捨て身の甘え方したのに!!」



「ははは、私は構わんが、むしろ2人の邪魔になるのではないか?」



「「へ?」」



 おじいさんの言葉に私とホセから間抜けな声が出た。



「アイルはホセに歯型をつける様な仲なのだろう? そんな2人と一緒に寝るのは獣化していても野暮やぼというものでは…」



「ちがーう!」



 あの時伯爵邸でゴタゴタしてたの見てたはずなのに!

 私は勘違いを正すべくホセに歯型がついた経緯を話した。

 説明終了後、おじいちゃんは私に残念なモノを見る目を、ホセには憐れみの目を向けた。



「ぅぐ…、だからね、一緒に寝ても問題ないの! おじいちゃんもホセと一緒に寝るなんて今を逃したらもう出来ないと思うよ」



 おじいちゃんの視線にひるみそうになったが、めげずに計画を推し進める。

 だってこんなチャンス、ウルスカに到着するまでの宿屋でしか出来ないよね!?

 人型よりちょっと小さくなるとはいえ、獣化してもそれなりのサイズだから3人で寝るとなるとダブルベッドが必要になる。



 ウルスカの家のダブルベッドはビビアナとセシリオの寝室にしか無いからさすがに貸してとは言えない。

 おじいちゃんを陥落かんらくさせればホセも「仕方ねぇな」とか言って一緒に寝てくれると思うから引き下がるもんか。



「そうだなぁ、他の孫は小さい頃たまに一緒に寝た事はあるが、ホセとは無いからな」



 ポツリと呟いた言葉を聞いた瞬間、ホセの腕を掴んでジッと見上る。

 するとホセはため息を吐きながらガリガリと耳の付け根を掻いて私を見下ろした。



「はぁ~…、今晩だけだぞ」



「やったぁ! ありがとうホセ!」



 夕方、その晩泊まる宿屋に到着し、上機嫌でダブルベッドの部屋を3人で泊まると言い放った私に宿屋の主人が怪訝な顔をしたので、リカルドが慌てて説明する事になった。

 頭の中は獣化した2人と寝る事でいっぱいだった為、事に普通の人が何を思うのか全く考えていなかったのだ。

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