第319話 口止め料
「美味そうな匂いがたまらんな! アイルは料理上手なんだなぁ」
「も~、おじいちゃん、そんなに
「じいさん! アイルの邪魔してねぇでこっちに座ってろって!」
王都を出てから馬車の中で私達はブラウリオ前伯爵の扱いをどうしようかと話し合った。
ホセの祖父として身内扱いするか、それともお金を出してる依頼者という事で他人行儀に貴族の護衛対象として扱うか。
話を聞くと元騎士だったから野営も平気だし、折角自分の事を誰も知らない所へ行くのだから逃亡中のベアトリスもしたであろう平民の生活をしたいとの事だったので身内扱いする事に決定した。
私としてはホセのおじいちゃんだし、困ったさん仲間という事で親近感を覚えた為、おじいちゃんと呼んでいる。
言葉遣いも改まった話し方をしていると貴族とバレるというので、仲間と同じ様に砕けた話し方で構わないと言われて遠慮なく普通に話す事にした。
しかし無駄に背筋の伸びた見事な姿勢なのでただの平民じゃないのはバレバレだと思う。
リカルドも何気に姿勢が良いんだよね、だけど男爵家という爵位が低い家だったせいか、それとも長年の冒険者生活のせいか、おじいちゃんよりうんと
皆冒険者だからか偉い人にもタメ口で話す事に慣れているのですぐに普通に話す様になった、呼び方は私とビビアナとホセ以外は「おじいさん」になったけど。
名前で呼ぶとカッコいい名前だから貴族ってバレそうだもんね。
何となくだけど、平民は4文字以内の名前が多い気がする。
呼び掛ける時に言いやすい様にだろうか、ピカソの本名みたいに覚え切れないくらい長い名前の人とか居たりして。
そんな事を考えながらリカルドへの口止め料のサンドイッチの為、鶏の照り焼きを10枚焼き、黄身が流れ出るか出ないかという目玉焼きは2倍焼いた。
ビビアナとエンリケにマヨネーズを塗って貰った食パンにレタスを敷いて、4分の1ずつトマト、チーズ、両方とトッピングし、残りは適当に切ったチキンと目玉焼きだけ挟んでお皿に1つずつ置いていく。
これは目玉焼きの火の通り具合がフライパンに落とした順番によって多少違う為、運試し的な感じで各自選んで貰っているのだ。
後はポテトサラダとコーヒーと紅茶を出せば昼食は良いかな、私以外は鶏もも肉を1人1枚以上食べるのでかなりボリューミーだし。
「出来たよ~」
「おお、出来たか! んん? 何だコレは…?」
「鶏の照り焼きのサンドイッチだよ、好きなお皿を1つ選んでね」
パッと見レタスがはみ出た食パン2枚重ねなので首を傾げるおじいちゃん、皆がひと皿ずつ手にするのを見て適当に選んだ。
順番にサンドイッチを三角になる様に斜めに切っていく、黄身の中心がほんのりオレンジっぽいものから少しトロリと流れ出るものがあると気付くと、おじいちゃんは全員分切り終わるまでジッと見ていた。
「卵の焼け具合が違うから選ばせたのか、面白い! はむ…もぐもぐ…んん! んぅ!」
数回
口に物が入ってる時は話さないというマナーが身に染み付いているのだろう。
「美味い! この味は初めて食べるぞ! もうひと皿頂こうか、今度は私が自分で切る」
「おじいちゃんは料理出来るの?」
「料理という程ではないが…多少切ったり焼いたりは出来るぞ。昔は周辺国と小競り合いをしていたからな、遠征は
黙っていれば60代の、獣人だから若く見えて50歳くらいに見える美形のおじさまなのに、今は食いしん坊のヤンチャ小僧にしか見えない。
こんなに美味しそうに食べてくれるのは嬉しいけど。
「アイルが来てからはそうだけどよ、それまでは携帯食か屋台で買った冷めた物しか食って無かったぜ」
「ならば良いタイミングで来てくれたというものだな」
「うふふ、おじい様、黄身が口の端に付いてるわ」
「おお、こりゃすまんな。ありがとうビビアナ」
ビビアナはおじいさんと呼ぶよりおじい様と呼ぶ方が似合うという事でおじい様呼び続行である。
孫ポジションとはいえ、祖父が若い娘にデレデレしているが気に入らないのか、たまにホセが冷めた目を2人に向けている。
もしかしてお姉ちゃんを取られちゃった気分だったりして。
だったら笑っちゃうなぁ、ぷくくく。
「おい、今何考えてた?」
「ん? 美味しく出来たなぁって思っただけだよ」
危ない、こういう時のホセの勘の鋭さはシャレにならないのだ。
目を逸らしたら負けだ、絶対疑われるから目を合わせたままニッコリ笑う。
ジトリとした視線を向けたままのホセ、疑われている…、しかしあくまで疑いであって確信ではないのだ、焦るな私。
「ホセはそれだけでいいの? おかわり食べる?」
「……食う」
「はいどうぞ」
「ん、ありがとう」
サンドイッチを半分に切って差し出すと、お礼を言うホセ。
道中のあの島での意地悪が効いている様であれからちゃんとお礼を言う様になったのだ。
あ、思い出したら秋刀魚食べたくなってきちゃった、夕食と明日の朝食は宿屋で食べるだろうから明日の昼は秋刀魚にしよう。
「ところで外で料理するの久々だよね、どうして急に作ろうと思ったんだい?」
思考がホセから逸れて油断していたらエリアスから質問が飛んで来た、あっ、端に座ってたリカルドがコーヒーを飲みながらこっちに背を向けた。
そんな怪しい行動したら何かありますって言ってる様なものなのに!
その時神の悪戯かと思う人が現れた。
「お~い、やっぱりおチビさん…じゃなかった、賢者様だったな、昨日はありがとな。治癒代を払って無かったけど良いのか?」
「あ、うん、気にしないで。依頼でまたこっちに来たの?」
「ははは、じゃあ俺の事を
ゴリラ似の冒険者はそう言うと、キャンプ場でお昼の準備を始めた仲間達の元へ走って行った。
仲間達の方へ向き直ると、全員俯いて肩を震わせている、食事は終わっていたので片付けて逃げる様に馬車に乗り込んだ。
尚、その後全てバレて皆から
口止め料の意味無かったよ!!
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