第318話 ビルデオ王都出発
「ではよろしく頼むぞ」
ニコニコと伯爵邸の玄関に現れたブラウリオ前伯爵。
お願いだからちょっと振り返って後ろの人達の顔を見て欲しい。
ホセの伯父にあたる長男アウレリオが眉間に皺を刻み込んで立っている、毛色はホセ達と似ているが、顔立ちはもっと…何と言うか…知的だ。
決してホセやブラウリオ前伯爵がアホそうとかじゃないんだけど、文官をしているという長男アウレリオに比べると隠し切れない脳筋臭というか……そんな感じなのだ。
実際アウレリオはベルトランからの手紙を読み、リカルドからの匂わせる程度の説明で全てを理解していた。
「父上…」
「後は頼んだぞアウレリオ、まぁお前なら問題無かろう。
「「「「「「はい」」」」」」
家令のグスマン筆頭に、見送る使用人達が頭を下げた。
皆アウレリオに気の毒そうな視線を向けている、それはそうだろう、昨日いきなり家督を譲ると言われて伯爵になってしまったのだ、今まで代理で動いていたとしても責任の重さがかなり違う。
「もっと色々と話したかったのだが…、父上とベアトリスは1番性格が似ていた、面倒を見るのはとても大変だとは思うがよろしく頼む。道中気を付けて…」
あれ? もしかしてホセのお母さんって物凄くお
ホセの性格もお母さん似だったりして…、ここからパルテナまで逃亡するくらい行動力ある人だから可能性はあるな…。
アウレリオは周囲を警戒してかホセに直接話しかけずにリーダーであるリカルドの方を向いているが、優しい視線はホセに向けられていた。
公爵の件が無ければ滞在延ばしてゆっくりお話が出来たんだけどなぁ、だけどここで首を突っ込んだらホセの存在が明るみに出て色々面倒な事になりそうだし。
「ブラウリオ様は責任を持って我々『
「ほほぅ、これはウチの馬車より乗り心地が良いぞ、快適な旅になりそうだ、わははは」
「父上!」
好奇心に負けたのか、私達が挨拶している隙にブラウリオ前伯爵は馬車に乗り込んでいた。
最初は見た目で伯爵家の馬車を使うかと言っていたのだが、セゴニアの王族が使っていたものだと説明した途端にあっさりこっちの馬車にすると言ったのだ。
なんか…ホセより自由人?
アウレリオを見るリカルドの瞳に同情の色が浮かぶ。
「すまない…、久々に国外に行く上に伯爵という肩書きが無くなってはしゃいでいる様だ…」
「いえ、こちらも似た様な者が居ますから」
だよねぇ、リカルドはホセの駆け出しの頃から見てるから、ビビアナが居るとはいえ大変だったと思う。
うんうんと頷いてホセを見たら、ホセが私を見ていた、違う、皆が私を見ていた。
「うむ、貴殿も苦労している様だな」
「ははは、その分楽しいですよ」
アウレリオが納得した様に頷く。
「ちょっと待って、似た様な者って私なの!?」
「へっ、お前以外の誰が居るんだよ」
鼻で笑うホセを指差してやった。
「オレはお前と違ってリカルドの指示にはちゃんと従ってんだよ。誰かみてぇにフラフラすぐどこかに行く事もしねぇしな」
「うぐぅ…」
痛いところを突かれて言い返せない、ホセを睨みながら言い返す言葉を探す、だけど……あれ?
ホセって乱暴で粗野だけど仲間を困らせたり迷惑かけたりして…ない!?
食いしん坊だけどそれは皆もそうだし、まさか私が1番の困ったさんだったなんて!!
「あ、どうやら自分でも気付いちゃった様だね」
「迷惑掛けてもそれ以上に役に立ってるんだからいいんじゃないかしら?」
「ビビアナ、ハッキリ迷惑掛けてるって言っちゃってるよ、それ」
「本当の事だから仕方ねぇんじゃねぇ?」
リカルドはアウレリオと話しているが、エリアスを始め言いたい放題の仲間達に打ちのめされた私は馬車に繋がれた馬達を撫でながら愚痴る。
「皆酷いよね、いつも優しいのはあなた達だけだよ、2頭はいつもおりこうさんだもんね。宿屋の馬番に美味しい干し草取り扱ってるお店聞いて買って来たから後であげようね」
「アイルを揶揄って遊ぶんじゃない、いじけてるじゃないか。アイル、もう行くから馬車に乗るぞ」
挨拶を終えたリカルドが促した。
「あ~、そんな事言って…、最初に言い出したのはリカルドなんだからね?」
「「……………」」
エリアスの言葉に悲しい顔のまま上目遣いでリカルドと数秒見つめ合う、するとリカルドはスッと目を逸らして咳払いをした。
「ンンッ、別に俺はアイルを非難した訳でも迷惑だと言った訳でもないぞ?」
「じゃあどうして今目ぇ逸らしたんだ?」
ホセがニヤニヤと意地悪な笑みを浮かべたままツッコんだ。
「いいから早く乗ってくれ、俺が御者をするから」
「あ、逃げた」
「逃げたわね」
エリアスとビビアナがクスクス笑いながら馬車に乗り込み、私はアウレリオに魔法を付与した3つのクズ魔石が入った小さなお守り袋を2つ手渡した。
「これは解毒と正常化と防御の魔法が付与してあるクズ魔石です、クズ魔石だから完全に無効化は出来ないかもしれないけど致命傷になるのを防ぐ事は出来ると思うので、あなたと王様に」
「なんと…! ありがたく使わせて頂きます、陛下にも必ずお渡ししますので」
「よろしくお願いします」
これで王様が摂政の座を狙った公爵に暗殺される危険はかなり無くなるはず、あとは王様と王妃様が力を合わせて乗り越えてくれるといいな。
こうして私達の馬車はビルデオ王都を出発した、尚、出発するまでの間リカルドが私と目を合わせる事は無かった。
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