第382話 エドの依頼(1日目)

 エドの屋敷に戻ると料理人達が希望するリストが準備されていた。

 書き出されていた料理はこの屋敷で作って無いもの全てじゃなかろうか。



「えーと、煮物は基本的に同じだから問題無いよね、ラーメンに関しては私よりバレリオの方が適任でしょ、赤鎧関連は赤鎧が無ければ作れないし、他の料理も私が指導するまでも無いと思うんだけどなぁ。一緒に作った事無い料理を並べてあるけど、指導なんて必要無いよね?」



「そ、そんな事はありません…よ?」



 そう言った料理長の目は泳いでいる。

 ぶっちゃけ揚げ物とか、煮物とか、基本を押さえていれば問題無いのだ。

 このリストは明らかに私の滞在を引き延ばす為に無理矢理書かせたものだろう。



「まぁいいや、とりあえずこのリストの上から順番に一緒に作ればいいかな? ラーメンのスープはバレリオに頼んだ方が良いけど」



「はい! ありがとうございます!! 赤鎧はアイルさんの手持ちがあれば譲って頂く様に言われているのですが、譲って頂ける分はありますか?」



「あるよ、そりゃもう100体譲ってと言われても大丈夫なくらい。冷凍しておけばひと月くらいなら保つと思うよ。茹でて冷凍しておく方が良いんだっけ?」



 赤鎧は張り切って乱獲したので物凄く余っている、飽きるまで食べてたらしばらく見たくないくらいになったので月に1度出せば良い方なのだ。

 なので買い取ってくれるならありがたい、赤鎧は餡かけ系に合うし、ご飯も進むから今日はカニ玉から始めちゃおうかな。



「100体はさすがに…赤鎧を冷凍保存する場所5体が限界でしょうか…。1体は今日使うので6体譲って頂けますか?」



「はい、赤鎧6体ね! 代金はエドに請求すればいいのかな?」



「はい、エドガルド様が直接支払うとおっしゃっていました」



 という訳で午前中は赤鎧料理を作る事になった、赤鎧炒飯、赤鎧カニ玉、赤鎧焼売しゅうまい、赤鎧餡かけ豆腐など。

 作り終わった時点で昼食まで少し時間があったので、休憩という事にして私が使っている客間からウルスカの家に転移してビビアナとおじいちゃん用の赤鎧料理を出した。

 2人の分を持ち出して良いって約束だしね。



「ビビアナ~、おじいちゃ~ん、お昼ご飯準備出来たよ~」



 2人を呼ぶとすぐに食堂に来てくれたので、帰りがエドからの依頼で遅れる事を伝えた。



「そうか…、アイル達が帰って来るのが遅くなるのか…」



 ああっ、おじいちゃんのケモ耳がヘタってしまった。



「な、なんなら夜は私だけこっちに戻って来ようか!? 昼間は依頼があるから無理だけど、夕食の後なら問題無いし!」



「ははは、食事の為に行ったり来たりするだけでも大変だろうから気にしなくて良いぞ。少々寂しくはあるがな、……夜はビビアナとセシリオは部屋に籠って出て来んし(ポソ)」



 あ…っ、なるほど。

 おじいちゃん夜は1人ぼっちで寂しいんだね、誰かさん達みたいに娼館通ったりしてないんだ。



「何ならバレリオやガブリエルとか呼んで家飲みしても良いからね? リビングのお酒は自由に飲んで良いし、おつまみは買って来るとか、先に言ってくれれば準備するから」



「ありがとうアイル、リビングの酒は頂くとするよ。アイルも飲みたくなったらたまに戻って来て相手してくれてもいいぞ」



「うん!」



 おじいちゃんにムギュっと抱きつくと頭を撫でてくれた、そろそろモフりの禁断症状が出そうなので本当に夜戻って来ちゃうおうかな。

 それともホセを甘やかすという名目でモフり倒すというのも有りかも、ふふふふ。



「エドガルドが引き止めているんでしょうけど、しつこい様なら叱りつけてやりなさい。アイル達が居ないと家の中が静かだから寂しいわ」



「ビビアナ…! 帰りは転移で近くまで帰って来るからね!!」



 私は木から木へ飛び移るムササビよろしくおじいちゃんからビビアナへと抱きついた。



「あっ、いけない、料理が冷めちゃうね。また夕食の時に来るから! 『転移メタスタシス』」



 ビビアナから離れるとエドの屋敷へと転移した。

 『希望エスペランサ』の皆はお昼用にサンドイッチを持たせてあるので今日はエドと2人だけで昼食の様だ。

 昼食の時間になりテーブルに並べ終わると上機嫌のエドが食堂に入って来た。



「凄く良い匂いだね、食欲をそそられるよ」



「お疲れ様、エド。お仕事は順調? たくさん作ったからいっぱい食べてね」



「………ッ!」



 微笑みかけるとエドは目を瞑り、胸に手を当てて止まってしまった。



「エド? どうしたの?」



「いや…、幸せ過ぎて夢ではない事を噛み締めていただけだよ」



「はは…、夢じゃないから食べようか」



「ああ、せっかく2人きりの食事だから楽しまないとね」



 エド、後ろ後ろ、アルトゥロが控えているよ。

 貴族みたいに家の使用人は居ないも同然と考えているんだろうか、それとも一緒に食事しないから数には入れてないのかな?

 まぁ、アルトゥロは何を見聞きしても守秘義務はしっかり守りそうだもんね。



 食事中にビビアナ達へのお祝いの相談を受けつつ、一緒にお店で選ぶ約束をした。

 子供の性別がまだわからないけど、黄色ならどっちでも使えるからベビー服とか出産祝いに買っておいても良いよね。



「赤ちゃんはどっちに似るんだろう、何気にセシリオも整った顔してるからどっちに似ても可愛いだろうなぁ」



「アイルは子供が好きだから良い母親になるんだろうね、そういえば私の両親は眠る時におやすみのキスをしてくれていたと思うんだ。本当におぼろげにしか覚えていないんだが…村が組織に襲われてからはそんな事をしてくれる人は居なくなってしまったがね」



 寂しげに微笑むエドに言葉巧みに誘導され、気付いた時にはおやすみのキスをする約束をさせられていた。

 その時向けられたアルトゥロの呆れた様な視線にも気付かずに。

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