第533話 説明しよう

「どうしよう……」



「どうするもこうするも、とりあえず連れて帰るしかないでしょ。その前にホセにも食事させなきゃダメじゃない?」



 途方に暮れて呟く私に、エンリケが答えた。

 そういえば私達は食べ終わったけど、ホセは食べてないんだっけ。ショックのあまりホセの食事なんてすっかり頭から抜けてたよ。



「ホセ、お腹空いてるでしょ? 何が食べたい?」



「え? 飯って干し肉か? 干し肉にしちゃあお前らから妙にいい匂いしてるけどよ」



 スンスンと空気中の匂いを嗅いでホセが言った。

 あ、そっか。これまで私が作った料理も全部忘れてるから、リクエストもできないのか。



「唐揚げとか、カレーとか、南瓜かぼちゃのコロッケサンドとか、南瓜のグラタンとか……」



「何だそれ!? とりあえず南瓜のグラタン食いてぇ!」



 最初は首を傾げていたホセだったが、南瓜のひと言が出た途端に尻尾が風を起こし始めた。

 十四歳にはすでに南瓜が好物だったんだね。



「じゃあ手を出して。……『洗浄ウォッシュ』、はい、熱いから気を付けてね」



「は!? え? 何が……えぇ!?」



 当然ながら私が賢者である事も覚えていないせいで動揺するホセ、自分の手と私とストレージから出された熱々の南瓜のグラタンを順番に見て動揺している。

 食べ始めたら静かになるだろうから、少しずつ説明してあげよう。



「ちゃんと説明してあげるから、冷める前に食べなよ」



「あ、ああ……。いただきます……ふぅふぅ……んん! もぐもぐ……ごくん、美味うめぇ!」



 少し警戒しながらも素直に食べ始めると、目を輝かせて次々に口に運んでいる。



「ホセの好物だもんね、とりあえず今の状況を説明するから、食べながら聞いてくれればいいから。エンリケよろしく」



 ホセと一緒に頷いていたエンリケの動きがピタリと止まった。



「え? 俺!?」



「リーダー代理だしね、任せた!」



「はぁ……、わかったよ。まずはホセ、君は今大蜘蛛ビッグスパイダーの変異種のせいで数年分の記憶をなくしている状態なんだ。ホセって確か今年で二十二歳だったよね、そしてビビアナと共に『希望エスペランサ』っていうパーティの一員だよ、さっき言ったリカルドとエリアスもそうだし、オレとここにいるアイルもね。アイルは魔法が使える賢者なんだ、そして年齢は十七歳だよ」「ブゥッ」



 エンリケの話を聞きながら首を傾げたり、眉間に皺を寄せながらもグラタンを食べ続けていたけど、私の年齢を聞いた瞬間噴き出した。

 私が賢者って事より年齢に驚くってどういう事!?

 もしかして信じてないんだろうか。



「ゲホッ、ゲホ……ッ! 十七!? 嘘だろ!? せいぜい十二歳にしか見えねぇぞ!?」



 おお! 初見の年齢予想が上がってる! これは女神の化身となったせいか、それとも育った胸のお陰か。

 まぁ、それでも成人に見えてないんだけどさ。



「本当だよ。ふふん、ホセが十四歳っていうなら私の方が年上だね」



 勝ち誇ってホセを見ると、いたずらしている小さい子を見るような微笑みを浮かべていた。



「エンリケって言ったか? そいつの言う通りなら今のオレは二十歳超えてるじゃねぇか、確かに身体がデカくなってる気はするしな。どうせ見た目じゃオレより上に見られる事はねぇから諦めろ、な? それにしても美味うめぇな、こんなのが森の中で食えるなんて最高だぜ、あむっ」



 言っている事にはムカつくが、嬉しそうに尻尾を振って食べる姿を見ると怒る気になれない。

 ホセの食事も済んだので、ウルスカへ向けて再び歩き出した、そして歩きながらもホセの置かれた現状を説明する。



「今はビビアナは結婚してて、子供も一人いるよ。アリリオって名前の男の子で、目の色が父親のセシリオに似ている以外はビビアナそっくりで可愛いんだよ~!」



「ビビアナが結婚!? しかも子供までいるのか!?」



「そうだよ。今回森に来る前にやっと寝返りができたところなんだ。あ~あ~、あんなに可愛いアリリオをの事忘れちゃうなんて、ホセ可哀想~」



「こらこら、ホセだって忘れたくて忘れたんじゃないんだから、そんな事言っちゃダメだよ! それよりおじいさんが知ったら大騒ぎしそうだね」



 アリリオに関してマウントを取る私をエンリケがたしなめた。

 確かにおじいちゃんの事忘れちゃったなんて聞いたらショック受けちゃうよね。ちゃんとホセにもおじいちゃんの事を説明しておかないと。



「ホセ、私達が護衛任務で教会本部へ行った時に、獣人の国ビルデオでホセの身内が見つかったの。途中で助けた子供がいたんだけど、偶然ホセの従弟いとこだったんだよ。そこから色々あって、おじいちゃんが……ホセのお母さんのお父さんね、今ウルスカの私達が暮らしている家に一緒に住んでるの」



「は!? オレの身内!? 一緒に住んでるって……訳がわからねぇ……」



 十四歳って事はビビアナと一緒に冒険者初めて一年くらいだもんね。きっと子供に見える私がいるからそんなに警戒してないけど、エンリケ一人だったらもっと警戒していたんだろうなぁ。



 孤児院出身だと後ろ盾とかないから自分達の力だけでなんとかしないといけなかっただろうし、いきなり身内がいるなんて聞いても戸惑っちゃうか。



「家に帰るまでに記憶が戻るといいんだけどねぇ、たぶん無理だろうなぁ。それにしても冒険者としての経験も忘れてるのはちょっと痛いよね、森を出るまでは俺とアイルでホセを守るつもりでいた方がいいかも」



「そんなの必要ねぇよ、自分の身は自分で守れる!」



 エンリケの言葉にホセが反発した。

 だけどエンリケの言う通り、ほとんど新人状態のホセは考え無しに突っ込んで行きそうな危うさがある。



「あのねぇホセ、ここは森の深部に近い場所だから危険なの。記憶を無くす前なら経験豊富で私達も心配しないくらいの実力があったけど、今のホセは森の深部に来た経験が無い状態でしょ? 冒険者にとって経験者の助言がいかに大切かわかるよね? 勝手に動かれると足手まといにな」「きゃーーーーー!!」



 聞き覚えのある声が、森の中に響いた。


◇◇◇


1巻の書き下ろしが特大ブーメランなアイルw

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