第338話 教会応接室 side

「どうぞおかけ下さい、後で共にホセのお母様を看取みとったシスターがお茶を持って参りますので」



「ありがとうございます。ホセについて恩人である貴女あなたには全てをお話ししようと思います、無いとは思いますが…今後の万が一の事を考えても知っておいた方が良いでしょう」



 ブラウリオは促されるままソファに座り、話を始めた。



「それは…、やはりホセの出自しゅつじに関わる事でしょうか」



 マザーの言葉にブラウリオは驚いて目を見開いた。



「なぜ…」



「ふふ、ホセのお母様は平民と言うには明らかに品があり過ぎましたからね。やんごとない方である事はすぐにわかりました」



「はは、さすがですね。まず私の自己紹介からしましよう、私はビルデオ王国チャルトリスキ伯爵家のブラウリオと言います、爵位はここに来る前に息子に譲って来たので今はただの隠居した身ですがね、ははは」



「まぁ! もしやここに来る為に…」



 今度はマザーが驚いて指先で口元を覆った。



「偶然が重なって二度と会えないと思っていた孫に会えたのです、これは女神様のお導きに違いないと思い行動したまでです」



「ふふ、きっと周りの方は止めようとしたのでは? 決めてしまったら止めても行動してしまう、そんなところはホセとそっくりですね。ビビアナと冒険者になって森へ向かうと言い出した時のホセも…」



 当時を思い出したのか、マザーは困った様に微笑んだ。



『マザー、失礼します』



「どうぞ」



 ノックが聞こえ、中年のシスターがお茶を運んで来た、ベアトリスの臨終に立ち会ったシスターである。

 手際良く3人分のお茶を並べたシスターは、マザーの隣に腰を下ろした。



「ブラウリオ様、こちらは私と共にベアトリス様の最後に立ち会ったシスターイレネです。私が女神様の元へ旅立った時は次のマザーとなる者ですので一緒にお話を聞かせてもよろしいですか?」



「マザー! 縁起でもない事を言わないで下さい!」



「うふふ、もちろんずっと先の話よ」



 マザーの笑い方がアイルを揶揄からかっている時のビビアナとそっくりでブラウリオは頬を緩めた。



「シスターイレネ、私はブラウリオ、ビルデオ王国チャルトリスキ伯爵家の者であり、ホセの祖父だ。娘のベアトリスを埋葬し、ホセを育てて頂き感謝する」



「ええっ!? ホセのお身内の方が伯爵家という事は…ホセは貴族なんですか!?」



 ペコリと頭を下げたブラウリオに対し、シスターイレネは動揺しながら尋ねた。



「その事なんだが…、これはお二人の胸にだけしまっておいて頂きたい、ホセの命に関わるので…」



 真剣な表情のブラウリオに、2人はコクリと頷いた。



「驚かれるだろうが…、ホセは本来ならばビルデオ王国の王太子なのだ」



「「…………」」



 さすがのマザーもそこまでは予想出来なかったのか、シスターイレネと共にポカンと口を開けたまま無言になってしまった。

 そんな2人の様子に苦笑いしつつブラウリオは話を続ける。



「現在の陛下は狼獣人でな、王家は元々獅子獣人が継承していたのだが今代は今の陛下しか王子がおらず、正妃に獅子獣人である公爵家の令嬢を迎えたのだが…。側室で元々恋人であった娘のベアトリスとの間に先に男児であるホセが産まれた。それゆえ公爵が暗殺をしようと画策したのでベアトリスはホセを守る為に王宮を出たのだ」



 そこまで一気に話してブラウリオはお茶をひと口飲んだ。

 マザーとシスターイレネはまだ驚いたまま反応出来ていない。



「ベアトリスの兄である息子が護衛騎士をしていたので共に行動していたのだが、ベアトリス達を逃がす為に途中で分かれたそうだ。そしてその時息子は頭を打って記憶を無くして3年前に全て思い出したらしい。しかし生存を知らせたら公爵が再びホセの捜索をするのではと思い連絡出来なかったと言っていた。そんな時にホセ達が偶然息子の長男が魔物に襲われていたところを助けてくれたとかで繋がりができたのだ」



「まぁ…! 正しく女神様のお導きですね」



 シスターイレネは感動した様に手を組むと女神に祈りを捧げた。



「はは、私もそう思っているよ。道中アイルから聞いたのだが、アイルは女神様から出会いに関して加護を頂いているらしい。なので私は女神様にもアイルにもとても感謝しているのだ」



「そういえばホセ達と出会ったのは女神様の加護のお陰だとアイルから聞いた事があります。うふふ、普段のアイルを見ていると賢者様だって事を忘れてしまいますけれど、こういうお話を聞くと再確認させられますね」



「ククッ、確かに目の前で魔法を見せられなければ私も信じたかどうか怪しいな」



「まぁ、お二人共、アイルが聞いたら拗ねてしまいますわ、ふふっ」



 マザーとブラウリオがアイルの事を話しながら笑うので、シスターイレネがたしなめたが、そのシスターイレネも笑っているので説得力が無い。

 その時不意にブラウリオがスンスンと部屋の匂いを嗅いだ。



「この匂いは…イカのバター醤油焼きか。そういえば孤児院でレシピを教えるとか言っていたな」



 ブラウリオのつぶやきを聞いてマザーとシスターイレネも匂いを嗅いだが、獣人では無い2人にはわからない程度だった。



「アイルが遠出から戻って来ると大抵美味しいものを持って来てくれますもの、今回も楽しみです。きっと今頃試食をしていると思いますので行ってみますか?」



「それは良いですな、イカのバター醤油はトレラーガで食べたのが最後だったのでそろそろ食べたいと思っていたところですから」



「まぁ、ブラウリオ様もアイルの料理のとりこなんですね、うふふふ」



 楽しげに会話しながら孤児院の厨房へ向かうマザーとブラウリオの後には、ちゃっかりついて行くシスターイレネの姿があった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る