第68話 試し撃ち

「てめぇら! 痛い目見たくなきゃ有り金とそこの女とガキ置いて行きな!! 妙な真似しやがったら身体から矢を生やす事になるぜ!」



 あまり質の良くない剣を振り翳しながら野盗の頭領らしき男がニヤつきながら道の真ん中に出て来て1人で立っている。

 ここの道幅は左右に馬の護衛をつけた馬車同士がギリギリすれ違える程度、一車線ずつの一般道くらいかな、距離は50mくらいなのであの人数で強弓を使っているなら逃げても背中を射抜かれる可能性が高い。



「ガブリエル…、私の魔法をガブリエルが使った事にしてくれるんだったよね? 私達護衛だから本当にガブリエルに魔法使わせる訳にはいかないしィ~、ね?」



「う、うん…。でも街道が使えなくなるのは困るよ?」



「何をくっちゃべってやがる! さっさとしろ!!」



 私達が話しているのは動きでわかっても、何を話しているかまでは聞こえていない。



「怖いよ~、ガブリエル助けて~! 『爆炎フレアエクスプロージョン』(ポソ)」



 大昔のぶりっ子がしたという拳で口元を隠すポーズで怖がるフリをしながら魔法をお見舞いする。

 広範囲の代わりにあまり威力は無いが、盗賊からしたら炎に全身包まれるのでかなりの恐怖だろう。



「「「「ぎゃあぁぁぁ!! ヒィィィ」」」」



「「「「あちぃぃぃ! 助けてくれぇ!!」」」」



 阿鼻叫喚、そんな光景が目の前に広がっている。



「『水弾ウォーターバレット(弱)』(ポソ)」



「「「「うわぁぁぁ! あ…!?」」」」



 当たったらちょっと痛い程度の水弾を広範囲に撃ち込んでさっきの火は完全鎮火し、いきなりびしょ濡れになった盗賊達は戸惑った。



「『氷地獄コキュートス(極弱)』(ポソ)」



 濡れた水を中心にピシパキと音を立てながら凍り付いていく、使用魔力の少ない極弱なので水の部分だけが堅い氷になっているが身体自体は凍っていない…はず。

 冷たいだの寒いだのと悲鳴を上げる盗賊達を前に私は満足気にムフーと鼻息を吐く。



「お前…えげつねぇな…」



 ホセの声に振り返ると他の皆も頷いて同意していた、だって今までは魔法の痕跡残しちゃいけないと思ってまともに攻撃魔法が使えなかったんだもん。



「そんな事よりサッサと縛り上げちゃおうよ、流石に近くで使うとバレるからガブリエルが魔法解除してくれる?」



「うん…、思ったより遠慮無くいったねぇ…」



 顔色が悪くなった盗賊達の元へ移動してこういう事もあろうかと買い溜めておいたロープを取り出し皆にも渡すと、凍り付いてない部分がカタカタと震えている頭領の元へ向かった。



「ふふふ…、残念だったねぇ? こっちには魔法が使えるエルフが居たの、悪い事ってしちゃダメだと思わない? ところで…どうしてって分けて言ったのか聞いてもいいかなぁ?」



「へ…っ、テメェがガキだからだよ…っ」



 顔を引き攣らせながらも憎まれ口をたたく頭領、私の後ろで皆が呆れた顔をしているのに気付かず私は頭領の凍った脚を爪先でコツコツと軽く蹴った。



「このまま氷を砕いたら脚も一緒に砕けるのかなぁ? で、私が何だって?」



「ひぃ…っ、や、やめてくれぇッ」



「アイル、遊ぶのはその辺にして早く縛り上げようぜ。それに脚を砕いたら歩かせられねぇだろ?」



 怯える頭領を見かねて宥める様にホセが声を掛けて来た。



「最初から中身まで凍りつく様な強い魔法じゃないもん…、あ。ね、ガブリエル、そうでしょ?」



「へ? あぁうん、そうだね。もう順番に解除していっていいかな?」



「ああ、頼む」



 縄を先に頭領の身体に引っ掛けてからホセが返事した。



「『魔法解除マジックリリース』」



 解凍された途端に頭領は崩れる様に倒れ込んだ、恐らく血行が悪くなって痺れた状態なのだろう。

 ホセが手際良く縛り上げて立たせて縄を引っ張ると、ヨタヨタと何とか歩いた。



 順番に縛り上げて5人ずつ縄で繋げ、1番近い町に突き出す事にした。

 殆どの者は既に心を折られていたけど、数人は反抗的な目を向けていたので忠告する事にした。



「逃げようとしたら容赦なく斬り捨てるからな、命が惜しいなら大人しく従う事だな」



「ダメだよリカルド、その言い方じゃあ捕まるなら死んだ方がマシって言い出すかもしれないでしょ? だから死ぬより嫌な目に合わせないと。例えば…逃げようとする度に指を1本ずつ斬り落とすとか~、あ、それよりもいきなり鼻を削ぎ落とす方がいいかな?」



 敢えて無邪気な話し方をすると盗賊達はヒィッと悲鳴を上げた、何気に皆もドン引きした顔をしていたけど、本当にするわけないじゃない!



「お前…、よくそんな残酷な事思い付くな…。そんな殺伐としたところから来たのか?」



 大人しくなった盗賊達を馬に乗ったまま囲む様に移動を始め、ホセが脱力しながら言った。



「やだなぁ、私が自分で考えた訳じゃないよ、昔の…他国の刑罰って結構残酷なものが多くてさ…」



 これ幸いと盗賊達への脅しを兼ねて則天武后などの中国3大悪女の残酷エピソードを始めとした聞くだけで痛くてゾッとする話を皆に聞こえる様に話しながら移動した。

 そのお陰か次の町の衛兵に引き渡すまで凄く大人しく、引き渡された時は凄くホッとした顔をしていた、失礼な。

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