第69話 王都到着

「やっと着いたか…」



 立派な王都の外壁を見ながらしみじみとホセが呟いた。



「のんびり来たせいもあるけど、本当に1ヶ月掛かったもんね…、家の管理大丈夫かなぁ」



 指名依頼という事で冒険者登録している孤児院の子供3人に鍵を預けて3日に1度空気の入れ替えと週1回簡単な掃除をお願いしてきたのだ。

 半分先払いで残りはきちんと出来ていたら払う事になっている。



「普段から孤児院の掃除は自分達でやってるし大丈夫だろ」



「そっか、なら大丈夫だね。ところでガブリエル、王都に滞在する間に泊まる所ってもう決まってるの? それとも今から宿を探す?」



「それなら心配いらないよ、私の家があるし」



「えっ!? 家があるのにウルスカに住んでるって事!?」



「そうだよ、60年前に買ったからね。今は私の従兄弟に任せてあるんだ、アイル達が泊まる事も伝えてあるから準備してくれているはずだよ。………従兄弟は魔導期が終わってから産まれたせいか多少の魔力はあっても魔法が使えなくてね、エルフの里では居づらい様だったから家を買って家の管理を任せる為に呼び寄せたんだ」



「へぇ…、優しいじゃない。見直したわ」



「やだなぁ、私は元々優しいよ?」



 ガブリエルの説明に感心した様にビビアナが呟いた。

 確かにガブリエルってまず自分を優先させそうだからそんな気遣い出来るなんて意外、本人に言ったら態とらしく嘆きそうだから言わないけど。



 門を潜ると人混みという言葉がピッタリな光景が視界に飛び込んできた。

 幸い馬や馬車と人は通る道が違うらしく、車道と歩道を表しているのか石畳の柄が違っている。

 門のすぐ内側は広場になっていて、そこからズドンと大通りが真っ直ぐ伸びているので田舎者はまずこの道の広さに驚くだろう。



「ここからは私が先導するからついて来て」



 カポカポと石畳の上を進む蹄の音を聞きながらゆっくり街中を進んでいく、私はおのぼりさん丸出しでキョロキョロしていたら、歩きの時はそんな風にキョロキョロしない様にとリカルドに注意された。

 おのぼりさんあるあるでよそ見した瞬間を狙ってぶつかって来るスリに遭うとの事。



 こんなに華やかな王都でもやはり貧民街スラムは存在するらしい、むしろ王都で一儲けを夢見て失敗した者が多いからこそ貧民街の規模は結構大きいとか。

 光が強ければ闇もまた濃くなるというやつなのかもしれない。



 王都に入って15分程だろうか、古そうだがしっかりした家が建ち並ぶ通りに出た。

 チラホラと生活雑貨を扱う店がある以外は全部住宅で、小さな一軒家から豪邸まで色んなサイズの家が建っている、小さい家は使用人が家族で住む用なんだろうか。



「ここだよ、お疲れ様」



 そう言いながらもガブリエルは馬の歩みを止めていない、辺りを見回すが左右どちらも広い庭付きの結構な豪邸だし。



「この通りにあるって言う事? あとどれくらい掛かるの?」



「あはは、もう着いてるよ。どぅどぅ」



 そう言って馬を止めたのは豪邸の門の前だった。

 私達がポカンとしていたら、いつの間にかロマンスグレーな燕尾服のおじ様が門を開けて出迎えてくれていた。



「お帰りなさいませ、ガブリエル様」



「ただいま、皆変わりは無かったかい?」



「はい、お陰様でみなつつがなく…」



「リビングでお茶を飲んでひと休みしようかな、その時に皆を紹介する」



「かしこまりました、では馬をお預かり致します」



 おじ様が手を上げるとササッと生成りのシャツにサスペンダー付きの茶色いズボンという下働きスタイルの男性が3人現れて馬達を預かってくれた。

 そしておじ様が案内してくれるままについて行くと、居心地の良さそうなシンプルだけどセンスの良いリビングに通され、そこにはガブリエルによく似た金髪緑眼のエルフの少年…13、4歳に見える青少年が居た。



「兄さんお帰りなさい! 今兄さんの好きなお茶を淹れたところだよ」



「ただいまラファエル、お茶を飲む前に皆を紹介させてくれるかい?」



「はい」



 嬉しそうに抱きついてきた従兄弟を抱きとめて微笑み合う姿は従兄弟というより兄弟にしか見えない。

 というか、エルフって天使系の名前が多いのかな? 似合ってるから別に良いけど。



「皆も聞いてくれ、ここまで護衛してくれたBランクパーティ『希望エスペランサ』の皆だよ、リーダーで剣士のリカルド、槍使いのエリアス、弓使いのビビアナ、拳闘士のホセ、そして私の友人のアイルだ。この子が私の従兄弟のラファエルと家令のレアンドロだよ、他の者は仲良くなったら自分達で名前を聞いてやって」



 ガブリエルがお互いを紹介してくれると控えていた使用人達も含め、屋敷の人達が無言で驚いていた。

 友人が出来ただけで驚かれるとか…、一体これまでどれだけボッチだったんだろう。

 そしてどうして私だけ職業じゃなく友人と紹介したんだろう、暗器使いって言ったら引かれるからかな、魔導師って言う訳にもいかないしね。



「友人…」



「そうだよ。 さぁ、皆座って! ラファエルの淹れるお茶は美味しいんだ、温かい内に飲んでよ」



 呆然とラファエルの口から漏れた言葉に笑顔で答えるガブリエル、ラファエルの視線が私の胸元にあるネックレスに向けられ一瞬目を眇めた様に見えた。

 ソファで寛ぎながらお茶をいただいたが、笑顔で対応してくれるラファエルの目の奥に私に対してだけ仄暗いモノを感じたのは気のせいだろうか。

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