第343話 転移魔法の情報取り扱い

 朝食後、まだビビアナとセシリオが部屋から出て来なかった時間に私達はお茶を飲みつつこんな話をしていた。



「転移魔法は…教会に知らせたら大変な事になるだろうな」



むしろ転移魔法が使えるなんて教会どころか他に知られたらまずいんじゃねぇ? アイルにしか使えないんだから利用してぇ奴がわんさか集まって来るだろ」



 リカルドとホセが話しているのを聞いておじいちゃんが眉間に皺を寄せている。



「どうしたの?」



「うむ…、将来的にアイル以外も転移魔法を使える様になったとしよう。その場合これから魔法の適性を持って産まれる子供達が幼くして王侯貴族や豪商に親から引き離されて酷使される姿が容易に想像出来る」



「「「「「………………」」」」秘密にしようか」



 私の呟きに皆が頷いた、自分達だけこっそり使おう、もしバレたらもの凄い魔力消費量だから他の人には無理って言えばいいや。

 転移魔法ってそれだけで何気に大儲け出来るよね、特に商人なら垂涎すいぜんの能力だよ…。



 もしも将来冒険者出来なくなったら転移魔法で大儲け…、いやその頃には冒険者で儲けた分で悠々自適な老後かな。

 各地の名物もいつでも食べに行けるよね、食材も買い放題だし、女神様に感謝しなきゃ。



「うひひひひひ」



「また何か食べ物の事考えてるみたいだね」



「いつもの事じゃねぇか、放っておけよ」



「きっと各地の名産品をいつでも買いに行けるとか、そんなところでしょ」



 エリアスとホセが好き放題言ってるが、当たっているので何も言い返せなかった。

 そんな中、珍しくリカルドが何か言いたげにモジモジしている、もしかしてホセとおじいちゃんを見てて実家に帰りたくなったのだろうか。



「リカルド、もしかして…」



「えっ!? あ、いや、その…ビールがもう無いから…転移魔法が使えるのならいつでも買いに行けるのだろうか…と…」



 恥ずかしそうにほんのり頬を染めながら視線を逸らして言うリカルドは「乙女か!」と言いたくなる程だったが、珍しいリカルドのおねだりだったので私は自分の胸をドンと叩いた。



「そのくらいお安い御用だよ! ついでにリカルドの実家にも寄っちゃう?」



「いいのか?」



「もちろん! どうせ買うならシドニア男爵領でお金を落とした方が良いし、リカルドと一緒なら安くしてもらえるもんね」



「はは、ありがとう」



「よし、そうと決まったら行っちゃおうか!」



「ちょっと待て!」



 嬉しそうなリカルドに気を良くした私は、ガシッとリカルドの手を掴んで呪文を唱えようとしたが、その前にホセに頭を掴まれた。



「お前がビールを飲みたいのはよくわかったけどよ、先に教会にしらせてからにしろ。あとこのまま外に転移したら…」



「したら?」



「スリッパで出歩く事になるぞ」



「あ、……えへっ」



笑って誤魔化したが、ホセは凄く呆れた目を向けて来たので視線を外してそ~っとドアへと向かった。

 しかし視線は外れていないとわかる程背中に視線が突き刺さっている。



「はぁ…、オレも行く、お前1人で行って妙な奴らに絡まれたら面倒だからな。教会で通信魔導具使うんだろ?」



 そんな面倒くさそうに言うのなら私1人で行ってもいいんだけどな、そう思ったがホセはサッサと玄関に向かってしまった。



「じゃあ行ってくる…。リカルド、戻って来たらシドニア男爵領へ行くから準備しておいてね」



「わかった」



 私のしょんぼりした顔を見てリカルドは苦笑いを浮かべて頷いた。

 貧民街スラムの教会へ向かう道中、私達が帰って来たと気付いた人達が次々に声を掛けて来た。



「おぅ、嬢ちゃん達帰って来てたのか! ん? 何か雰囲気変わったか?」



「アイルちゃんだって大人になるんだから雰囲気だってかわるわよ、野暮な事言わないの!」



 いつも朝市で並んでいるお店のおじさんとおばさんが私の話題で盛り上がっている。

 何だか妙な誤解されてる気がしなくもない、ホセと2人で歩いているせいか意味ありげにチラチラと私とホセを見比べる様な人が他にも何人か居た。



 コッソリとホセの様子をうかがうが、気付いてないのか気にしてないのか、いつも通り飄々ひょうひょうとしている。

 まぁ、ホセは普段から見られる事に慣れてるから視線なんて気にしないか。



 私は賢者ってバレる前は値踏ねぶみする様な視線が多かったけど、今は珍獣を見る様な視線に変わった。

 しかもパンダやコアラみたいに「可愛い」とかじゃなくてコビトカバみたいな「物珍ものめずらしい」っていう方の珍獣なんだよね。



 別に羨望せんぼう眼差まなざしで見て欲しい訳じゃないから良いんだけどさ、それでも今日はいつもと向けられる視線の質が違う気がする。

 もしや女神様効果で魅力が上がってるとか!?



 表面には出さず、私を見ている人達をさりげなく観察してみた。

 興味本位の視線は相変わらず多いが、僅かに憧れというか、女性として私を見ている人達が増えた。

 正確に言うと、見ていると言うべきか。



 恐らく13歳以下、確実に成人はしてないであろう少年達からの視線だった。

 悔しくなんかないんだからね!!

 そっと下唇を噛み締めつつ教会へと足速に向かった。


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