第344話 教会本部への報告

「おい、何不機嫌になってんだよ?」



「不機嫌になんてなってないよ? ホセの気のせいじゃない?」



「だったらその胡散臭うさんくさい笑顔やめろ」



 言われてスンッと無表情になる、さっきまで女神様の魔改造の虚しさに不機嫌な顔になりそうだという自覚があったから微笑みキープをしていたのだ。

 しかしホセにはお見通しだった様で指摘されてしまった。



「よく…不機嫌ってわかったね」



「久々にウルスカに帰ったせいかいつもよりジロジロ見られてたからな、それにお前が本当に笑う時の笑顔はあんなんじゃねぇし…」



「へへ、そっか」



 私の作り笑顔で不機嫌だって気付くなんて、普段の私をちゃんと見てくれてるって事だよね。



「で、見られるくらいでそこまで不機嫌にはならねぇだろ、どうしたんだ?」



 え? そんなのホセ達は憧れの眼差しで見られてるのに、私だけ珍獣を見る目な上に、数少ない憧れの目を向けてくるのが完全に年下のお子様達だから拗ねてました、なんて言える訳ないじゃない。



「………教会まで競争ね! 『身体強化パワーブースト』」



「あっ、おい!?」



 話題を誤魔化す為に私は全速力で走り出した、走ってる内に会話を忘れてくれる事を祈りながら。



「っ…はぁ、はぁ、何なんだいきなり走り出して…はぁ、はぁ…」



「身体強化を全力で使ったらホセよりも足が速くなるか検証しただけだよ。さて、どこまで報告すべきかな…」



「とりあえず夢で女神に会った事と、これから産まれる子供だけじゃなく適性さえありゃ大人でも魔法が使える可能性があるって事だけ伝えりゃ良いだろ」



「そうだね、通信魔導具使うならマザーに言った方が良いかな? それともシスターなら誰に言っても良い?」



「一応マザーに言った方が良いんじゃねぇ? むしろ通信内容を全員に聞いてもらった方が話は早いと思うぜ」



「そっか、どっちにしろ知る事なんだからまとめて話しちゃえばいいか」



 礼拝堂の扉を開けるとちょうどシスター達が清掃をしていたので、教会本部へ連絡したい事と、その時出来れば一緒に話を聞いて欲しい旨を伝えた。

 するとすぐに応接室へと通され、マザーが通信魔導具を持って来てくれたのでソファに座って通信を開始する。



「コホン…、あの、アイルですがどなたかいらっしゃいますか?」



『おおっ、アイル様!! いつもカリストが魔導具を持ち出していたせいで通信でお話するのは初めてですな、教皇のオスバルドです』



「これが教皇様のお声…!」



 応接室に控えていたシスターの1人が驚きの声を漏らした、この通信魔導具が無ければ一生聞く事の無かった声だもんね。



「お久しぶりです。今日は女神様と夢でお会いした時に聞いた話をお伝えしようと思い連絡をしました」



『なんと…! ありがとうございますアイル様! 少々お待ち下さい、これ、すぐに録音の魔導具を!』



『はいっ、こちらに』



 ゴソゴソ、コトンと魔導具を準備しているであろう音が聞こえる。



『お待たせ致しました、どうぞお話し下さい』




「あ、はい。まずですね、今後教会で女神様からの神託が届く様になります」



『『『おおおぉぉ』』』



 通信魔導具の向こうで雄叫びの様な数人の歓喜の声が聞こえた。

 こちらもシスター達が息を呑んでいる。



「あと、今日から産まれて来る子供達は生まれつき適性があれば魔法を使えます。既に産まれている子供や大人でも今日から産まれる赤ちゃんに比べたら時間は掛かるそうですが、生活魔法程度なら使える様になるだろうとの事です」



『何と…! それは魔導期の再来という事ですかな!?』



「そういう事です、この事を各国へお知らせして頂きたいというお願いと、もう1つ魔法の適性がある子供達が親から引き離されたり売買の対象にならない様にしっかり注意喚起して頂きたいのです」



『確かに承りました、親から引き離さないというのも女神様のお言葉でしょうか?』



「いえ、お願いに関しては私からです。もしそんな事が起こっているとわかったら…」



『わかったら…?』



 通信魔導具の向こうでもこちら側でもゴクリと唾を飲み込む音が聞こえた。

 私はハッキリ、キッパリと笑顔で続きを口にする。



「私が大暴れする上に、また魔法が使えなくなる様に女神様にお願いします。お伝えすべき事は以上です」



『わかりました、その事も含めて各国の王族と教会にしっかりと伝えますのでご安心下さい。そうそう、こちらからカリスト大司教が伺った教会に司教を派遣する事が決定しました、そちらは前任の司祭が亡くなってからシスターだけで切り盛りしていたとか。本来なら規模的に司祭を派遣すべきなのですが立候補する者が多く、カリスト大司教も希望しまして…、カリスト大司教には久々にお説教してしまいましたよ、ははは』



「あはは…」



 カリスト大司教、お偉いさんなのに片田舎の貧民街スラムにある様な小さな教会に大司教が来ちゃダメでしょ、そりゃお説教されるよ。

 そういえばウルスカの大きい方の教会でも責任者が司祭だった様な…、ここに司教が来たら複雑な気持ちになるんじゃないだろうか。



「あの、ウルスカには今連絡している教会ではないもう1つ…ここより大きい教会があるんです、そちらは司祭が責任者なのですが…その、色々と大丈夫でしょうか?」



『もちろんです、そちらの教会でアイル様が祈りを捧げて2度も女神様とお会いしているのですよね?』



「ええ…、まぁ…」



『でしたらそちらは聖地と言っても過言ではありません、規模は小さくとも我々にとっては価値があるのです。ですから特例として司教を派遣する事になりました。もちろん派遣する司教は能力的にも人格的にも厳選しておりますのでご安心下さい。パルテナに入った時点で通信魔導具にて連絡が入りますとそちらのマザーにお伝え頂けますか?』



「あ、今ここにマザーも居ますので一緒に聞いてます」



「教皇様、お気遣い感謝致します」



 マザーは通信魔導具に向かってうやうやしく頭を下げた。



貴女あなたがマザーですね、これまで苦労をかけました。派遣したメルチョル司教にはそちらのやり方を尊重する様にと言ってありますので色々教えてやって頂きたい。何か困った事があればいつでも連絡お待ちしてますよ』



『教皇様、カリスト大司教がこちらに向かって来ております』



『おっと、それではこれにて失礼致します。いつも私が悔しい思いをさせられてましたからね、たまには仕返しをしないと。ふふふ、では』



 通信魔導具越しにノックの音が聞こえたと同時に通信が切れた。

 どうやら教皇様はなかなかお茶目さんの様だ、カリスト大司教と喧嘩してなきゃ良いけど。



 後は帰って男爵領へ行ってお買い物だ、ウキウキしながら家へと急ぐ。

 家が見えて来た時、ホセが思い出した様に話しかけて来た。



「で、結局ここに来る時のお前の不機嫌の原因何だったんだよ?」



 ホセの質問に黙秘を貫き通したのは言うまでもない。

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