第195話 ここに来てマヨネーズ無双!?

 とりあえずこの殿下達が私に対するハニトラ要員というのなら、丁寧に心を折ってあげるのが礼儀というものだろう。

 あんたら私に愛想良くしてるけど、さり気なくビビアナの胸をチラ見してる事は気付いてるからね!?

 べ、別にその腹いせで心を折ろうと思ってる訳ではなく、私を軽く見てる事に怒ってるだけだし。



 ちなみに馬車は右前方と後方に扉が付いており、座席は前方に扉がある方に3人、反対側に5人が座れる仕様。

 ドレスを着たご婦人が乗っても大丈夫な様にかなりゆったりとした幅が取られているので詰めれば倍の人数が乗れそうだ。



 3人席側に私とビビアナの2人が、5人席に殿下達が座っている。

 とりあえず自慢話だか自己アピールだかわからない様な話を互いに牽制しながら話しているのがわかって正直うんざりしてきた。

 最年少のフェデリコ殿下はあざと可愛さをアピってるけど、本当のあざと可愛いと言うモノを見せてやろうではないか!



「ふぅ、ビビアナ、私まだちょっと大氾濫スタンピードの疲れが抜けて無いみたい、ちょっとだけ…甘えて良い?」



 おずおずと上目遣いでビビアナにおねだり。

 たまに誰かにくっ付きたくなる時にお願いしたら、いつも笑顔で抱き締めてくれるのだ。

 そして今回も素敵な笑顔で了承してくれた。



「うふふ、いいわよ。いらっしゃい」



 身体を捻って両手を広げた状態で受け入れ準備をしてくれたその胸に飛び込むと、その豊満な谷間にグリグリと頬を埋める様にして良い感じに収まる。

 日本で奮発して買った1万円を超える枕にも負けない乳枕最高。



「えへへ、ありがとう」



 ヨシヨシと頭を撫でてくれるこの母性、羨ましかろう殿下共よ!

 チラリと見やると約1名以外は羨ましげに見ていたので勝ち誇った様にニヤリと嗤ってやると気不味そうに目を逸らした。



 ちなみに約1名は最年長でフェデリコ殿下の同母兄のアレハンドロ殿下である。

 これはアレかな、エドと同類…とまではいかないが、弟のフェデリコ殿下を可愛がっていたら可愛いモノ好きになってしまったとかかな、今も隣に座ってるし。

 本人が美丈夫タイプだから自分とかけ離れたモノが好きとか…かな?



 とりあえず今の目的はフェデリコ殿下にあざと可愛さで勝つ事だったので、悔しそうにしているフェデリコ殿下が見れたから良しとしよう。

 果たして悔しがってる理由があざと可愛さで負けた事なのか、ビビアナの胸に埋まった事なのかはわからないけど。



 彼らは着飾った令嬢をいくらでも見てきただろうけど、ビビアナみたいに着飾らなくても美女と言うに相応しい、しかもナイスバディなお姉様にはそうそうお目に掛から無いだろう。

 


 インテリ眼鏡王子ことエウラリオ殿下はちょいちょい会話に蘊蓄挟んできて頭良いアピールしてくる、歴史がどーの、伝統がこーの、と言われても他国の冒険者の私達には意味も興味も無いと何故わからないのだろう。

 楽しい会話の基本は共感出来る話という事も知らないのか、せめて普段討伐してる魔物の蘊蓄とかなら興味も持てるのに。

 今までエウラリオ殿下が話した事に対する返事を忌憚無くするならば「ふーん」で終わる。



 エリアスの方が余程役に立つ情報持ってるよ、エリアスは伊達にナンパしてないと思えるくらいには会話上手だもんね。

 弟のカンデラリオ殿下は女慣れしてますっていうのが凄くわかる、私とビビアナ2人に分け隔て無く楽しませようと話してるし。

 ビビアナも結構楽しそう、だけどセシリオ以上にビビアナ好みの殿下は居ないのでぶっちゃけ社交辞令の笑顔だなぁとわかる。



 途中の町で食事休憩の為に馬車が止まった、事前に予約してしていたらしく、個室に案内されてすぐに食事が運ばれて来た。

 これも強引に話を進めて予約したんだろうか、ぶっちゃけ殿下達と別々に食べたい。



「アイル、マヨネーズくれ」



「ん、はいどうぞ」



「あ、次僕に頂戴」



 食事にサラダスティックが出て、一緒に出されたマヨネーズには見向きもせずホセが要求して来た。

 いつもの事なので作り置きが入れてある瓶の1つを取り出して渡すと、スプーンで取り皿にぺいっと盛り付けて尻尾を振り振り食べ始める。



「アイル殿、マヨネーズはここにあるのに何故別の物を?」



 エウラリオ殿下が聞いて来た、インテリ眼鏡なだけあって好奇心は旺盛らしい。

 明らかに目が物欲しそうにマヨ瓶をガン見している。



「一般的に食べられているマヨネーズは不味…、じゃなくて好みではないので自作の物を愛用しております」



「何と…! こんなに美味しいマヨネーズが好みで無いとは…、アイル殿の好みを知る為にも味見をさせて貰えるかな?」



 上手い言い訳だね、それに免じて食べさせても良いけどひとつ問題がある。



「良いのですか? 私のマヨネーズの味を知ってしまったら戻れなくなるかもしれませんよ? このレシピはまだ商業ギルドに登録していないのでレシピを教えられません、それでも良ければどうぞ」



 私にとっては薄いと感じるマヨネーズを絶賛している状態で私のマヨを口にして元のマヨに戻れるとは思えない。

 元からマヨネーズに依存していなければ問題は無いが、もし殿下がマヨラーだったらこの先地獄を見る事になるだろう。



「それ程までに…、わかった、では少々頂こう」



 エウラリオ殿下が目配せすると、リカルドとビビアナも盛り付け終わってテーブルの上に置かれていたマヨ瓶を従者が手にしてひと匙分盛り付けた。

 あ、一瞬ちょっと眉間に皺が寄ったよね、もしかしてもっと盛って欲しかったんじゃなかろうか、少々とか言ったからその量になったんだと思うよ?



 エウラリオ殿下はスティックサラダをナイフとフォークで切り分け、私作のマヨネーズを付けて口に入れ咀嚼した。

 他の殿下方もその様子をじっと見ている、2回、3回と咀嚼し、カッと目を見開いた。



「こ、これは…ッ! 別物だ、今まで食べていたマヨネーズは一体何だったんだ…!」



 驚愕、そんな言葉がぴったりなリアクションをしてくれるエウラリオ殿下。

 そんな殿下を見て『希望エスペランサ』の皆は「わかるわかる」と言わんばかりに微笑ましい目を向けながら頷いていた。



 結局他の殿下方もマヨネーズを欲しがり、ひと瓶が空になってしまった。

 手元に戻って来た空になってしまった瓶を無言でジッと見る私から気不味そうに目を逸らす殿下方。



 しかし私は内心これでマヨネーズのレシピと引き換えに結構無茶なお願いを聞いて貰う事も可能かもしれないとほくそ笑んでいた。

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