第504話 魔導具会議

 結果的にはお風呂から戻った時に獣化してベッドにいたホセの色仕掛け(?)に見事に引っかかり朝を迎えた。

 背中に刺さるニヤつくエリアスの視線がうるさいくらいだったので、もしかしたらエリアスが入れ知恵したのかもしれない。



「それじゃあ今夜は進めるギリギリの野営地かキャンプ場で過ごすという事でいいな?」



「え~、僕は野営地がいいなぁ。トイレとか水場が整備されてるしさぁ」



 リカルドが早めの朝食中に今日の計画を確認すると、エリアスが我儘を言い出した。

 小さなキャンプ場と違って、野営地は領地の予算で整備されてるから過ごしやすいし気持ちはわかる。

 ちなみに早く先に進みたいという私の意見は我儘ではない、なぜならホセもきっと同じ気持ちだから。



「それじゃあ休憩時間とか、食事時間を調整して夜は野営地で過ごすようにしようか」



「お、珍しく聞き分けがいいじゃねぇか」



 あっさりとエリアスの意見を受け入れる私にホセが目を瞬かせた。



「違うよ、アイルはキャンプ場での野営になりそうなら、多少暗くなっても進んで野営地まで行くつもり……でしょ?」



「ちゃ、ちゃんと馬達が走れる明るさでしか移動するつもりはないよ!?」



 エンリケに考えを見透かされて、口が勝手に言い訳した。

 ホセの呆れたような視線が痛い。



「それじゃあ今日はアイルに御者をしてもらおうか、その方が調整しやすいだろう?」



「うん! 任せて!!」



 リカルドに指名された私は、体力を付けるためにも肉厚ベーコンを頬張る。

 朝食が早めだから昼食も早めになる。そしたらおやつが必要になるから休憩とおやつを同時にして……と、自分なりに計算しながら朝食を済ませた。



 そして宿屋を出発して御者席にいる私、その両隣にはエルフの二人。

 最近このパターンが多い。なぜならもうすぐウルスカに到着するからもっと話したいガブリエルと、会話の合間に出て来る新しい魔導具開発の話に興味があるタミエル、という事だ。



 私としても電化製品代わりの魔導具ができるなら嬉しいもんね。

 魔法が使えたら問題無い事も多いが、ミキサーみたいに便利な調理器具が増えれば料理がもっと発展していくと思うし、最近話してるのはオイルヒーターみたいに空気が乾燥しない暖房器具。



 今使ってる空調の魔導具は風が発生するせいか、どうしても空気が乾燥してしまうのだ。

 これでは生まれて来る赤ちゃんの喉が荒れてしまうかもしれない。

 そんな訳で温度を一定に保ちつつ、触っても火傷せず、なおかつ空気も乾燥させない暖房魔導具会議が行われている。



「ならばいっそ水分を発生させて、その水を温めてしまえばいいのではないか?」



「え~? それだと水蒸気を発生させるって事でしょう? 小さい子が触ったら火傷しない?」



「だったら水蒸気が発生する程の温度じゃなくて、お風呂くらいの温度になるようにすれば自然な湯気で加湿されるんじゃない? 水もほんの少しずつ出るようにすれば、触っても服を濡らしたりしないでしょう?」



 タミエルの提案を元に、ガブリエルが修正案を出してくれた。

 伊達に長年研究所員をしていたわけじゃないね。



「では水分量の調整をするために魔法式を少しずつ変えて試さなければならないな。同時に適温も確認せねばならんから時間がかかりそうだ」



「温度は四十二度にしておこうよ、このくらいならずっと触ってても低温火傷にもならないでしょ? 熱めのお風呂の温度だし」



「じゃあ温度はそれで決定しようか、だったらあとは水分量を調整すればいいだけだもんね。アイルはビビアナの出産に間に合わせたいんでしょ?」



「えへへ、間に合えばこれを出産祝いにしたいなぁって思ってるんだ。一緒に作るんだから三人からって事でどう?」



「三人から……もち」「それはいいな! 今回は我々のせいでアイル達がウルスカを離れる事になってしまったから、詫びにもなってちょうどいいだろう。……ん? どうしたガブリエル、妙な顔をして」



「何でもないよ……」



 ガブリエルが返事しようとした時にタミエルが被せて話したせいで、困った事にガブリエルがムッツリと不機嫌になってしまった。

 三人寄れば文殊の知恵という言葉がある通り、三人だからこそ色々アイデアの修正ができたりするので協力は不可欠なのだ。



「ガブリエル、ガブリエルには出発前にも小型化した通信魔導具とか作ってもらったし、今度の暖房魔導具でも頼りにしてるからよろしくね! きっとビビアナも喜んでくれると思うんだ」



「そ、そうかい? アイルにそこまで言われたら張り切るしかないなぁ、ふふふ」



 嬉しそうに笑うガブリエルにチクリと良心が痛んだ気がした。

 だけど言った事は本心だし、決して心にも無い事を言った訳では無いのだ。

 ちょっとだけ、ほんのちょっとだけ面倒にならないようにフォローしただけだし。



 その後、馬の休憩のためにキャンプ場に立ち寄り熱いお茶を飲んでいたらエリアスが近寄って来た。

 凄くニコニコしてご機嫌だが、これまでの経験上嫌な予感しかしない。



「アイルってさぁ、案外男をたぶらかす才能あるよねぇ。もしかしたらビビアナ以上かもしれないと思うのは僕だけかなぁ?」



「何の事!? 私誰もたぶらかしてなんかいないよ!?」



「エリアス! も~、ホセに会話を聞いてもらってると思ったらやっぱり余計な事言って……。アイル、気にしなくいいからね、馬車の中で暇なせいで休憩中にアイルで遊ぼうとしてるだけだから」



 エンリケに引きずられるように連れて行かれるエリアス。

 ビビアナがいない時はストッパーになってくれるのでありがたい。



 だけど盗み聞きしてるっていうのはどうかと思う。どうせなら堂々と聞けばいいのに。

 そんな訳で休憩後は途中から御者席の小窓を全開にして馬車を走らせてやった。



 空調魔導具付きの車内に慣れた身体に、外の冷たい空気は格別だよねぇ。

 エリアスが私達の話を聞きたいらしいから、そう告げた直後に聞こえたエリアスを責める仲間達の声に、悪い笑みが浮かんでしまったのは仕方のない事だろう。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る