第20話 食事係

 ギルドに入るとバネッサが私達に気付いて解体場へと続くドアの前で待っていてくれた。

 ギルド内は遅い時間なせいかカウンター側より酒場フロアの方が賑わっている。



「すまないな、助かるよ。これからは毎回解体場で引き渡しにしてもらっていいか?」



「もちろんです、他の冒険者にはマジックバッグを手に入れたとそれとなく噂を流しておきますね」



「ありがとう」



 私のストレージを秘密にする為、マジックバッグを持っているフリをするらしい、今持ってるショルダーバッグがそうだという事にすればいいか。

 リカルドがバネッサといくつか交渉しつつ解体場へと向かう後をついて行く、既に顔を覚えられ、良い状態で魔物を持って来る私は強面の解体職人達に歓迎された。

 中には帰って来るのが遅くなって腐りかけの状態で持って来る者もいるらしい、そうなってしまうと素材もほぼただの生ゴミなのだ。



依頼クエストは全部で赤猪レッドボア1体と角兎ホーンラビット4体ですね、あと薬草が3束」



 バネッサが依頼書を受け取り確認していく、バネッサの話を聞いていた解体職人が私を呼んだ。



「嬢ちゃん、ボアならこっち頼むぜ」



「はーい」



 台の上に赤猪を出すと手早く脚にロープを縛り付けて滑車を使って吊るしていく、流石専門職なだけあって手際が良い。



「嬢ちゃーん、兎はこっちに出してくれ」



「はーい」



 言われるがまま出してふと手を止める。



「リカルド、全部出す? それとも依頼の数だけ?」



「今回は全部出そうか、バネッサ、1体は持ち帰りで残りは買い取りを頼む」



「わかったわ」



 台の上には合計8体の角兎が置かれ、解体職人達は専用の台に次々に引っ掛けていく。

 バネッサは頷くと書類になにやら書き込んでいく、ついでに薬草もバネッサの前に出すと依頼完了のサインをサラサラと依頼札クエストカードに書き込んだ。



「すぐに清算するわね、向こうのカウンターで渡すわ」



 バネッサはそう言うと職員専用のドアから解体場を出て行った。



「なぁ、先に席取って注文してていいか?」



 頭の後ろで手を組んで暇そうにしていたホセがリカルドに聞いた。



「ああ、俺のはいつものを注文しておいてくれ」



「はいよ~」



「アイル、行くわよ」



 リカルド1人に丸投げしていいのか戸惑っていたらビビアナに促された、もしたかしたらいつもの事なのかもしれない。

 酒場に移動してホセが代表して色々注文してくれた、私の分もエールを頼もうとしていたので果実水に変更してもらったけど。



「そういえば依頼達成した時に私達のギルドカードって必要無いの?」



 パーティ加入の時は全員分のカードが必要だったはず、不思議に思って聞いてみた。



「依頼達成の時はパーティの誰か1人のカードがあればいいんだよ、ギルドに情報は登録されてるからね。全員分必要なのはパーティの加入や脱退、あとはランクが変わる時かな」



「なるほど…」



 エリアスが教えてくれた、どうやら知識的な事はエリアスが1番詳しい様だ。

 雑談をしていたらリカルドが戻って来たと同時に食事がテーブルいっぱいに届いた、肉肉しくて「ザ・冒険者」な食事と言えよう。

 皆が木で出来たジョッキを持ってリカルドを見た。



「今日もお疲れさん、乾杯!」



「「「「乾杯!」」」」



 ガコンと木がぶつかる音がして皆はジョッキを煽った、結構激しめにぶつけたせいで私の果実水から微妙にエールの匂いがする。

 味は殆ど変わらないからまぁいいけど。



「さ、皆の今日の取り分だ」



 リカルドが皆に銀貨を2枚ずつ渡し、残りのお金を半分私に渡した。



「コレはパーティの食費だ、ここから今日の食事代も払えばいい。家に貯めてある分も後で渡すよ、今後食事に関してはアイルに全て任せるから朝と夜は作るか外で食べるかアイルが決めてくれ。昼は各自で勝手に食べるから気にしなくていい…が、依頼クエストの時は今日みたいに作ってくれたら嬉しい、な?」



 リカルドがパーティメンバーに視線をむけた。



「ああ! やっぱ干し肉齧るだけの時より断然力の入り具合も違ったしな!」



「ちゃんとした食事って大事よねぇ…」



「作るのが面倒なら屋台で買って行くのもいいよね、アイルなら問題無く持ち運びできるし?」



「了解」



 皆の意見を聞いて頷いた。

 今度の休養日あたりでまとめてお昼用のお弁当作っておくのもいいかもしれない。

 考えてみたらその都度作らなくてもまとめて作っておいて夕食や朝食に出しても問題無いもんね、ストレージは時間経過しないからいつでも作り立てなわけだし。



 それなら作り置き用の鍋とか追加が欲しいな、貯めてある食費も渡してくれるって言ってたし予算と相談して買いに行こうっと。

 そんな事をぼんやり考えていて、ふと取り皿が空になった事に気付いて追加を取ろうとテーブルの上を見たらさっきまであった大量の食事が無くなっていた。



「え…? もう無い…」



 まるでイリュージョンを見せられた気分でポカンとしていたら皆に笑われてしまった、今日は森をいつもより歩き回ったからお腹が空いたらしい。

 しょんぼりしていたらリカルドが追加注文してくれた、こんなに食べるならあの唐揚げも全部無くなるはずだよ、今度からは余らせるつもりで多めに作ろうと心に決めた。

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