第546話 近付く別れ
「休養期間は半年って言ったよなぁ!? ビルデオの王宮から催促の通信が入ってんだよ!! ホセのじいさんになんで王宮から帰還要請が来るか、なんて野暮な事は聞かねぇ。だが、さすがにこれ以上は引き延ばせねぇから頼む!!」
アリリオが生まれて半年、突然ギルマスのディエゴが来たと思ったら恐ろしい依頼を持って来た。
「確かにここまで長くパルテナにいるつもりはなかったからな……。家の事で私に聞きたい事もあるのかもしれん、そろそろ潮時というやつか。アイルがアリリオと離れたくないのはわかっているから、他の冒険者に護衛を頼むさ」
「ちゃんと私達が送るよ!」
おじいちゃんが寂しそうに微笑んだから、反射的にそう答えていた。
依頼はおじいちゃんを護衛してビルデオまで送り届ける事、という事は転移できる事を知っているおじいちゃんなら、夜中にこの家に転移しても問題はないもんね。
「だけどおじいちゃんが帰っちゃうの寂しいよぅ」
隣に座るおじいちゃんにギュウと抱き着く。
平静を装ってるけど、ホセだって尻尾がしょんぼりしてるのお見通しだからね!
「ずっといてくれるような気でいたけど、そうはいかないみたいね。寂しいわ……」
ビビアナもションボリしながらアリリオの背中を撫でている。
「しかし、ビビアナを一人にするのは心配だろう。アリリオが三歳になるまでは、泊まりの依頼を受けたくないと言っておったではないか」
「あ、じゃあ俺がウルスカに残るよ。その方が皆もこっちの心配しなくていいだろうし、ギルマスもある程度上位ランクの依頼を溜め込む事もないでしょ? 他にもちょっと理由があるしね」
おじいちゃんがビビアナ達を心配してくれたが、その心配をエンリケが解消してくれた。
確かにエンリケがいてくれたら、何かあっても実力行使で何かされる心配はないよね。
エンリケの言う他の理由というのは、恐らく前回ビルデオに行った時にエンリケを知っている獣人がいたって言っていたから、その事に関係しているのかも。
「それじゃあおじいちゃんと連絡取る用の通信魔導具をガブリエルに作ってもらって、道中の食事を作り溜めするのに一週間くらいかな」
「お、もっとゴネるかと思ったのに、やけにすんなり受け入れたじゃねぇか。まさかアリリオも連れて行くなんて事考えてねぇだろうな!?」
「五歳まではあんまり頭を揺らしちゃいけないんだよ! いくら性能がいい馬車とはいえ、何カ月も赤ちゃんのアリリオを乗せられないよ!」
「お、おう、すまねぇ。ちゃんとその辺はアリリオを優先させられるんだな」
ディエゴってば私の事を何だと思っているんだろう。
アリリオの事を考えたら、数ヶ月の長旅になんて連れ出せないよ!
でも転移が使えなかったら、ビルデオの王宮に圧力をかけてでも出発を遅らせたかもしれないけど。
そんなこんなで結局出発が決まってしまった。
というわけでディエゴが来た翌日、通信魔導具を作ってもらうべく、私は今王立研究所ウルスカ支所に来ている。
「こんにちはー! ガブリエル~!」
ドガンッ! バタバタバタバタバタ!
そんな音を立てて現れたガブリエル。
「いらっしゃい、アイル! アイルが来るって連絡くれたから待ってたよ!」
嬉しそうに出迎えてくれたガブリエルに、用事のある時しか来ない事への罪悪感が刺激される。
「いやぁ、ガブリエルは所長やってるから忙しいかなぁと思うと、なかなか気軽に遊びに来れなくて……」
「そんな事気にしなくていいのに! ささ、私の部屋に行こうか」
「うん。あ、そういえばタミエルは研究所の皆と仲良くやってる?」
「まぁね、友人というほどではないけど、研究仲間としてなら上手くやっていると思うよ」
やはり研究バカな人達の集まりだからか、個人的な付き合いはあまり無いようだ。
階段を上がり、何度か訪れたガブリエルの部屋にお邪魔する。
「お邪魔します。ドーナツ持って来たから食べてね、軽食にもなるように甘さは控えめにしてあるから」
「わぁ! ありがとう! お茶を淹れるから座ってて」
「うん」
ソファに座り、言い出すタイミングを見計らう。
ガブリエルは持って来たドーナツをお皿に盛り、お茶と一緒にテーブルに並べてくれた。
そしてソファに座った瞬間、切り出す。
「ガブリエル、私……またビルデオまで行く事になったの」
「えっ!?」
カップに手を伸ばそうとしたガブリエルの手が止まった。
「一週間後には出発するんだけど、今回ビルデオに行く理由はおじいちゃんが帰国するからなんだ。それで……、おじいちゃんの分の通信魔導具も作って欲しくて……。あ、もちろん今回はしばらくいなくなるって報告をしにきたっていうのもあるからね!」
「アリリオが生まれたから、しばらくアイルがいなくなる事は無いと思っていたのに……」
「本当だよね、ビルデオからおじいちゃんに帰って来いって連絡が来たんだって。一年以上ウルスカにいたからねぇ……、ビルデオを出てからだともっとだもん。向こうの家族もおじいちゃんに会いたくなったのかもしれないし、私の
「寂しくなったらいつでも私が話相手になるから。別に通信魔導具は」「という訳で、今後アリリオの成長とか報告するためにも通信魔導具が必要なの!」
「…………明後日に来てくれたら出来るようにしておくよ」
「ありがとう! よろしくね!」
出されたお茶の残りをクイッと飲み干すと立ち上がる。
「え!? もう行っちゃうの!?」
「うん、ごめんね。正確にはあと六日で出発するから、道中の食事を作り溜めしないといけないの。それじゃあまた明後日に来るね!」
振り返るとガブリエルの寂しそうな顔を見てしまうので、振り返らずに部屋を出た。
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