第332話 交錯する思惑
「相変わらずアイルの作る料理は絶品だね、毎日食べたいよ」
「ここの料理人達がレシピ通りに作ってくれてんだろ? ある意味アイルの料理を食ってんじゃねぇか」
「わかってないね、アイルの手で作られた物というところに価値があるんだよ」
夕食の時間、何故かエドとホセが火花を散らし始めた、そんなに
「立ち寄る度にお世話になってるからね、手料理がお礼になるのなら良かったよ。それにしてもウルスカから来る時はギルド通して連絡が来てるみたいだけど、
「ははは、ウチに居る者は優秀だから問題無いよ、客室は定期的に掃除するのほ当たり前の事だしね。なぁ、アルトゥロ?」
控えていたアルトゥロに笑みを向けるエド、アルトゥロは無表情のままコクリと頷いた。
「屋敷の管理は完璧ですのでいつ立ち寄られても大丈夫です。それに国内であればある程度居場所は特定できますので」
「え…!? どうやって!?」
「アイル様はご自分が賢者という有名人である事をもっと意識した方がよろしいかと。商業ギルドも冒険者ギルドも自分達の町にアイル様が来たら
ニヤリ、とアルトゥロは口の端を上げた。
頭が良いのは知ってたけど、将来的にトレラーガのNo.2の権力者になってる未来が見えた気がしたのは私だけだろうか。
[side アルトゥロ]
門番に支給した通信魔導具からアイル様御一行がトレラーガに入ったと連絡が来た。
男の獣人が1人増えているらしい、その事をエドガルド様に報告すると、「アイルに会える」と喜んでいた顔が見る間に険しくなってしまった。
定期的に手入れはしているが、最終チェックをメイド達に命じて僕は厨房へと向かった。
料理人達にアイル様達が来る事、人数は7人という事を伝えて客室の確認に向かう。
「アルトゥロ、今から来る人ってエドガルド様の何なの? 随分嬉しそうにされてたけど」
「ミア、君が言うべき事はそんな事では無く客室の状態の報告だ」
「わかったわよ…、客室の確認は終わったわ、全て問題無し」
「よろしい。これから来るアイル様はエドガルド様が
「ハァ!?」
「失礼の無い様にな」
全く…、ミアには困ったものだ、僕がこの屋敷に来てすぐにどこかの商家へと引き取られて行ったが、商家が潰れたとかで古巣であるこの屋敷に戻って来てエドガルド様に泣きついたのだ。
以前のエドガルド様なら冷たく切り捨てただろう、しかし今はアイル様という存在がエドガルド様を変えた。
それをミアはまた昔の様に可愛がられると勘違いして愚かにもエドガルド様に対して色目を使っていたが、見向きもされなかった。
先日その日の報告の為にエドガルド様の私室へ向かったところ、部屋から追い出されて次に同じ様な事をしたら屋敷から追い出すと警告されていた。
年上ではあるが愚かとしか言いようが無い、以前と違い今のエドガルド様はベッドで
ミアの年齢は今17歳だったか…、アイル様と変わらないはずなのに随分と老けて見える。
いや、アイル様が幼く見えるだけか…。
アイル様は何度会っても成長していない様に見えるが、エドガルド様は会う度に成長しているのが少し寂しいが気持ちは変わらないとおっしゃっているので一応成長しているのだろう。
そして屋敷に到着したアイル様は相変わらず小さい、エドガルド様は一歩間違うとだらしないと言える程
しかしサロンでアイル様は初めて見る狼獣人をおじいちゃんと呼び、更に一緒に寝ると言い出した。
追い討ちを掛ける様にホセとも寝るという、いつからそんな
エドガルド様もショックでティーセットを落として割ってしまった、ミアが手際良く片付けていたが、アイル様を睨んだ様に見えたのは気のせいでは無いだろう。
しかし話を聞くと獣化して共寝をするだけらしい、エドガルド様が自分が獣人でない事を嘆き始めてしまった。
それもアイル様がお土産を出し、料理を作ると言い出すまでの短い間だったが。
アイル様がサロンから出て行ってすぐにミアも出て行った、余計な事をしなければ良いのだが。
サロンではエドガルド様がホセに「アイルは獣化した獣人が好きなのか、ホセに懐いている様に見えたのは獣人だからなのだね」と、口撃をしている。
アイル様は子供も好きだから子供の獣人が居れば屋敷に居てくれるだろうか、というエドガルド様の言葉に、エリアスが「その場合エドガルドには見向きもせずに子供の相手するだろうけどね」と返したせいでまた落ち込んでしまった。
その落ち込みもアイル様の手料理を食べて浮上したので一安心だ、あとは夜だな。
いつもなら寝酒の差し入れと
遅効性の睡眠薬を獣人2人に仕込むべきか、アイル様を1人だけ呼び出す名目を考えるべきか、迷っている内に食事が終わって全員客室へと行ってしまった。
エドガルド様が私室へ戻るのでお茶の準備をすべくついて行く、何と声を掛けようかと悩んでいたらエドガルド様から話し掛けてくれた。
「アルトゥロ…、アイルは妙にミアを気にしていた様に見えたのだが…」
やはりミアがアイル様に何かやったか言ったかしたのだろうかと身構える。
「もしやアイルはヤキモチを焼いたのだろうか!? 平静を装っていたが、ミアを見ると不機嫌そうにしていたんだ。これまで成人女性を側に置いた事は無かったからな、今までに無い反応だ! ここは敢えて引いて距離を置いた方が私の事が気になるに違いない…、今は耐えるしかないか…」
「………そうですね」
僕の敬愛するエドガルド様はいつも鋭い刃物の様な危険さと美しさを兼ね備えている、しかしアイル様が絡むとどうしてこうもポンコツになってしまわれるのか。
物事を前向きに捉えるのは大切だが、真実を見極めるのはもっと大切だ。
機嫌の良くなったエドガルド様に水を差したくなかったので、僕はお茶を淹れて自分の食事の為に食堂へ向かった。
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