第333話 あの人は今 〜彼女達の場合〜
【三人称です】
「アイル、ちょっといい?」
アイルがお風呂から出て入れ替わりにホセが入りに行った時、ノックの音と共にエリアスの声が聞こえた。
エリアスはリカルドと食後に夜の街へと繰り出したはずだが、どうしたんだろうとアイルがドアを開けると、エリアスとリカルドが少し申し訳無さそうに立っていた。
「どうしたの? 遊びに行ったんだと思ってたけど」
「いやぁ、1度遊びに出たんだけどね、
「…………ふ~ん、そうなんだ」
酒場には行った事はあるが、娼館の良し悪しなんて入った事の無いアイルにはわからない、ジトリとした目をエリアスに向けるアイル。
「いや、それはどうでも良いんだけど、
「? そうなんだ、そんなに量は無いけどまだあるよ、ちょうどお酒のおツマミになりそうな量なんだよね…」
アイルはチラリと2人に視線を向けた、瞬時にアイルの言いたい事がわかった2人。
エリアスがにっこりと微笑んで提案する。
「一緒に寝酒でも飲まない? ここで飲めばそのまま寝れるから問題無いよね?」
「そうだね、おじいちゃん、いい?」
部屋の中を振り返って問うアイルの顔は我が意を得たりと言わんばかりの満面の笑みだ、そんなアイルにブラウリオは苦笑いしながら頷いた。
「ああ、私は構わんよ」
「じゃあ決まりだね、入って入って!」
2人を室内へと促しテーブルの上に料理とお酒を並べるアイル、ブラウリオもいそいそと立ち上がりテーブルに着く。
「アイル、今日は風呂はやめておくから洗浄魔法を頼む」
「わかった、『
「うむ、ありがとう」
既にエリアスとリカルドは自分の飲みたいお酒をグラスに
アイルもネックレスを外してストレージに放り込んで自分の分のお酒を用意した。
そして同時にバスルームのドアが開いてアイルとバスローブ姿のホセの目が合った。
「「…………」」
ホセの存在を忘れていたと言わんばかりに固まるアイルと、呆れた様な半眼を向けるホセが数秒見つめ合う。
「あっ、思い出した!」
リカルドの声に視線が集中し、リカルドは食べかけの油淋鶏を箸で掴んだままエリアスを見た。
「さっきの睨んで来た娼婦達、見覚えがある気がすると思ったがウルスカで会ってるぞ。冒険者ギルドでホセがアイルからこの唐揚げを強奪してきた時に一緒に居た冒険者達だ」
「え~? ……あっ、あ~! 思い出した! 僕達に擦り寄って来た女性4人の冒険者達だね、そういえばあんな感じの子達だったような…。好みじゃ無かったからあんまり覚えてないや」
「女性4人組…、あっ、もしかしてエンリケが『
アイルは自分にだけ握手を求めて来なかった4人娘を思い出す。
「そういやそんなのいたな、あいつら娼婦になってたのか。依頼失敗でも繰り返したのかもしれねぇな」
「実力自体大した事無さそうだったもんね、あの後アイルに対抗しようとして無理な依頼受けてたせいだったりして」
ホセの言葉にエリアスが冗談めかして言ったが、実際その通りだった。
これまでも手に負えなくなると他の冒険者を巻き込んだり、合同依頼という
そのせいで4人娘に関わろうとする者が居なくなり、姉貴分だった『
違約金や損害で借金が
ノルマは無く最低限の衣食住は確約、しかし成績により扱いは良くなる、仕事は客の相手をするもの。
そんな話を聞いて4人娘は喜んでサインした、エドガルドは装飾品や衣服の店をいくつも持っていると有名だったからだ。
よく読めば娼婦の事を指しているとわかるのだが、借金奴隷になりそうな程追い詰められていた4人はその契約書が希望の光に見えたのだ、さらなる地獄への片道切符だとも気付かずに。
「身の程を知らぬと自滅するのは当然の事だからな」
ブラウリオはため息を吐く様に呟いた、貴族として生きてきて自滅していった者達を数多く見て来ている。
中には親しくしていた者もいたので苦い思いを酒と共に飲み下した。
その頃、エドガルドの私室にミアが訪れていた、アイルに会いたい気持ちを誤魔化す為に酒を煽っていたところにアイルに変化を
ミアは私室に快く招き入れて貰えた事で勢いづいて報告を始める。
「本日2人の男性と共寝をすると言っていた賢者様ですが、更に2人の男性を部屋へと引き入れていました、とても嬉しそうに」
グラスに口をつけていたエドガルドの動きが一瞬止まるのを見てミアは口の端を上げた。
「エドガルド様、どうしてあの様なふしだらな人に想いを寄せるのですか? 私なら…エドガルド様だけをお慕いしていますのに…」
ミアは
実際以前居た商会ではエドガルドの手が付くのも納得の愛らしさで男達を虜にしている、計算された愛らしさではあるが。
ミアを最初に屋敷に連れて来た当時のエドガルドからすれば計算している姿も含めて可愛いと思い側に置いていた、伴侶にする訳でも無く一時的に可愛がる相手なのだからそれでも問題は無かったのだ。
「そうか、報告ご苦労。ミアには明日から別の仕事をさせたいのだが良いか?」
「はい! もちろんです!」
ニコリと優しい微笑みを向けられたミアは二つ返事で頷いた。
「今夜はもう休みなさい、下がっていいぞ」
「はい…、失礼します」
上手く行けば寝室まで入れると考えていたミアは残念そうにしながらも部屋を出て行った。
もしも部屋に残っていればドアが閉まった後のエドガルドの表情を見て震え上がっていた事だろう。
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