第51話 情報開示

「だけど…もぐもぐ…これで今まで食べた事の無い料理をアイルが作ってた訳が…ゴクン…わかったね、島国の料理でも…ムシャァ…王都でなら見かける事は…モグ…あるだろうからおかしいなとは思ってたんだ」



 夕食時、手羽元の唐揚げに齧り付きながらエリアスが言った。



「エリアス、口に物を入れたまま話すんじゃない」



「ゴクン、あ、ごめん」



 私が言う前にリカルドが注意してくれた、何気にリカルドの食べ方は綺麗だから良いところの坊っちゃんなのかもしれない。



「あはは、私としてはこれで秘密にしてた事が無くなって…………」



 ない! 無くなってない! もうひとつ秘密あるじゃない!

 言う? このタイミングで言っちゃった方が良いよね、でも言って引かれたりしないかな…。



「アイル?」



 笑顔のまま話してる途中で固まってしまった私を、隣に座ってたビビアナが首を傾げて覗き込んだ。



「あ、あのね、もうひとつ……秘密があるの…」



「もうついでに言っちまえよ、その方がスッキリするだろ?」



 ホセがワインを煽りながら促す。



「うん……、私の…中身なんだけど……27歳なの!」



「「「「はぁ!?」」」」



 ですよね、そんな反応になりますよね。

 最年少と思ってた人が実は最年長でした、なんて言われたら驚くのが普通だろう。



「えーと、異世界で27歳だったんだけど、色々あってこっちに来た時に女神様が15歳に若返った身体を用意してくれて…」



 人差し指を合わせてモジモジさせながら言い訳するかの様に告白した。



「あ~、なるほど。これまでの謎が解けたよ、中身が大人だったから娼婦に関して理解があったり過去にも(男関係で)色々あった様な言動してたんだね」



 エリアスが納得した様に頷く。



「それに執拗に胸が大きくなるって言ってたのもな! ぶふっ、わはははは」



 ホセが吹き出したと思ったらお腹を抱えて笑い出した。

 むぅ、だって本当に大きくなるんだもん、順調に育てばちゃんとEカップになるもん!

 ビビアナとは反対隣に座って笑い続けているホセの足を踏みつける。



「イテッ」



「デリカシーの無い事を言うからだ」



 踏まれた足を摩るホセにリカルドが呆れた視線を向けた、そしてリカルドに同意する様に満足気に頷く私。



「中身の年齢が違ってもアイルが今までと変わっちゃう訳じゃないんだから何の問題も無いわよ、でしょ?」



 ビビアナが艶然とした微笑みを浮かべて言うと、皆が同意して頷いた。

 嬉しくて涙が出そうになり、ビビアナに抱きつく。



「私…っ、本当にあの時皆に出会えて良かった…!」



「それを言うならオレに出会えてだろ? オレが皆の所まで案内したんだからよ。そういやあの時ってこっちに来てどのくらいだったんだ?」



 ビビアナに抱き締め返されて動けなかったので首だけ動かして振り返る。



「ふふふ、そうだね。えーと、ホセと会ったのはこの世界に来て30分も経ってなかったと思うよ。魔物も人も合わせて初めて会ったのがホセだったの」



「ふぅん、そうなのか…」



 大して興味無さそうにパンに齧り付いているが、尻尾が機嫌良さそうに振られているのが見えた。

 でも確かにホセに会わなければ森に入らず街道を通ってウルスカに来ていただろうからホセの言う通りかな。



 その夜は酒盛りでは無かったので飲まなかった私以外はほろ酔い程度で食事を済ませた。

 食器を片付けてビビアナと一緒にお風呂に入って自室のベッドに入った途端、意識を失う様に眠った。



 そして翌朝、身体を起こそうとして力が入らない。

 呼吸が早くて浅いし、涙が止まらない…これは完全に発熱しているとみた。



 きっとこっちの世界に慣れてきたところに昨日皆に秘密を話して気が抜けたせいで出た熱だと思う。

 そういや新入社員の時もゴールデンウィークに入った途端発熱して初めての連休が半分潰れたっけ。



 ガブリエルとの約束はともかく皆の朝食が準備できないのは申し訳ないなぁ。

 誰か来たらキッチンに運んでもらってストレージから野菜スープとパンを出せば何とかなるかな。

 そんな事を考えていたらノックの音がした、しかし大きな声が出せなくて返事が聞こえたか怪しい。



「アイル? 入るぞ?」



 ドアが開くとリカルドが入って来て瞠目した。



「どうしたんだ!? 顔が真っ赤だぞ!? 熱か? 昨日まで元気だったのに…」



 凄くわかりやすく動揺している、病人に対して免疫がないのだろうか。

 リカルドの声を聞きつけて他の3人も部屋にやって来た。



「落ち着きなさい、アイル、食欲はある?」



 ビビアナが額に触れながら聞いてきたが、とてもじゃないが固形物は食べられそうにないので横になったまま首を振った。



「皆に秘密を話して緊張の糸が切れたみたい…、ごめんね、今日は食事の用意出来そうに無いや。ストレージから出すから持ってってもらえる? あ、あとガブリエルに行くの無理って伝言を「そんなの気にしなくていいからゆっくり寝てなさい」



 ビビアナの優しい掌が私の目を覆った。



「エリアス、ここでアイルの様子見てて。リカルドは市場で皆の食事を調達して来て、アイル用の柔らかい果物もお願いね。私は冷やすものを準備してくるからホセは…研究所のガブリエルに伝言してきてちょうだい、間接的とはいえアイルの発熱の原因なんだから…ね?」



 テキパキと指示を出すビビアナの声を聞きながら私は再び瞼を閉じた。

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