第52話 たまご粥

 次に目を覚ました時には額に濡れタオル、そして視界にホセに首根っこ掴まれたガブリエルが入った。



「お、目が覚めたか? アイル、たまごがゆ、っての? 食べられそうか?」



「ん…、食べたい…」



 風邪ひいた時はたまごか梅干しのお粥さんを食べてたから密かに食べたかったのだ。



「よし、じゃあ頼んだぞ」



「はぁい…」



「キッチンに案内するよ、こっち」



 ホセが手を離すとしょぼくれた顔で返事したガブリエルがエリアスに案内されて部屋から出て行った。



「研究所にアイルが熱出して行けないって言いに行ったついでに絞め…じゃない、説教してたら賢者サブローが寝込んだ時に必ず食べてた異世界料理が作れるって言うから連れて来たんだ」



「ふふ、ありがと…ホセ」



 熱のせいでホロリと零れた涙を優しく拭ってくれたいつもは暖かいホセの手がヒンヤリと感じた。

 ヘタったケモ耳と心配そうに揺れる瞳に思わず笑みが浮かぶ。



「心配しなくてもただの熱だから3日もすれば治るよ」



「孤児院で熱出して死んじまうヤツもいたせいか…どうしてもちゃんと治るまで心配しちまうんだよ。だから早く元気になれ」



「うん…。ところでリカルドは?」



「あ? 自室かリビングに居ると思うけど、どうした?」



「その、ふわふわして階段降りるの怖いからトイレに連れてってもらいたいな~と…」



「何でリカルドなんだ? オレが連れてってやるよ」



 ホセ少しムッとして私を抱き上げた。



「だっ、だってホセ耳がいいじゃない! ドアの前で待たれたら音とか聞こえちゃうでしょ!? 恥ずかしいもん!」



「…………ッ」



 ホセは私を抱き上げたまま表情が見えない様にそっぽ向いたままプルプルしている。



「もうッ、笑いたければ普通に笑えばいいじゃない!」



「ブフゥッ、わはははははは!」



 遠慮なく笑うせいで大きな笑い声が頭に響く、ムゥ…普通に笑えばいいとは言ったがこんなに大爆笑されるとは思ってなかった。



「あぁ…、大きな声が頭に響くよぅ」



 実際そうなのだが態とらしくコテリとホセの胸元に身体を預ける様に力を抜いた。



「くっ、くくっ、すまねぇな。トイレまで送ったらリビングで待っとくから、終わったら廊下に出てから呼べ、迎えに行ってやるからよ」



 トイレのドアの前に降ろされたのでホセがリビングへ向かうのを見送って壁伝いに歩いてトイレを済ませた。

 歩けるけど足元がフワフワして1人で歩いたら突然転けてしまいそう、廊下に出たら膝の力が抜けて座り込んでしまった。



「ホ、ホセぇ~…」



 腹筋に力が入らず弱々しい声しか出ない、ちゃんと聞こえたかな?

 そんな心配をよそにすぐにリビングのドアが開く音がしてホセが迎えに来てくれた。



「おいおい、大丈夫か?」



 ホセは駆け寄って来てすぐに私を抱き上げるとゆっくり部屋へと向かった。



「うん、ちょっと力が抜けちゃっただけ」



「こんな事なら部屋にオマルでも置いた方が良くねぇ?」



「オマル…? え、やだやだ! 誰かに後始末されるのとか絶対嫌だよ!?」



 思わずブルブルと首を振ってしまい、頭がクラッとしてホセに身体を預ける羽目になる。



「そんなの魔法で始末出来るんじゃねぇの? 洗濯と同じ様なモンだろ?」



「あ、そっか…」



 毎回運んでもらうのも申し訳ないし、それなら有り…かな? 

 ちょっと想像してみたが使ってる最中に誰かが乱入してきたら軽く死ねる、ハイ無しですね!



「やっぱりオマルはやめておくよ…、こんな風に熱出すのは滅多に無いだろうから無駄になっちゃうと思うし」



 実際身体自体はかなり健康なのでインフルエンザにならなければ年間に風邪すら引かないくらいだ。



「確かにオレ達も滅多に寝込む様な病気にならねぇから無駄になるか」



 アッサリ引き下がってくれたのでホッと胸を撫で下ろす。

 部屋に戻るとベッドに寝かしつけられ、額に濡れタオルを乗せてくれた。

 こんな風に看病してもらうのって小学生以来かも、冷却シートがあったからタオル絞って額に乗せたりしないもんね。



「お、出来たみたいだな」



 ホセがドアの方を見るのと同時にノックの音がした。



「アイル、入るよ」



 エリアスと一緒にドヤ顔で小鍋と器を持ったガブリエルが部屋に入って来て、サイドテーブルに小鍋を置くとよそってくれた。

 身体をホセに起こしてもらって器を受け取ろうとしたが力が入らず落としそうになり、ガブリエルが器を取り上げてしまった。



「私が食べさせてあげるよ、懐かしいなぁ。私が寝込んだ時にサブローは「何で男に食べさせなきゃいけないんだ」なんて文句を言いながらも食べさせてくれてさぁ。口は悪かったけど三賢者で1番優しかったのはサブローだったよ。はい、あ~ん」



 スプーンに掬ってふぅふぅと冷ましてから口元に差し出してくれたので、ぱくりと口に入れる。

 ホッとする様な優しい味付けで熱でバカになった舌でも充分美味しかった。



「美味しい…、ありがとうガブリエル」



「ふふふ、どういたしまして。これで先にギルド長達に話しちゃった事許してもらえるかな?」



「うふふ、それとこれとは別の話だから治ってからOHANASHIしようね」



「はい…」



 にっこり微笑んだ私の言葉にガブリエルはしょぼくれたが、それでも最後まで食べさせてくれたから少しくらい緩いジャッジにしてあげてもいいかなぁ。

 結局熱が下がったのは2日後で、ビビアナの指示により様子見で更に1日ベッドから出してもらえなかった。

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